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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第11部

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第二章 お妃さまたちのお稽古2(前編)①

 朝の会議を終えて。

 真刃は一人、執務室にいた。

 朝の缶コーヒーをじっくりと堪能した後、執務席に座り、提出された書類の山に目を通しているところだった。


(……ふむ)


 双眸を細める。

 三つの課題の対処は着実に進行していた。

 拠点の移動に関しては一週間もあれば解決する。

 真刃の《隷属誓文(ギアスレコード)》の霊具の捜索はまだ時間がかかりそうだ。

 決戦までに間に合えばいいのだが、こればかりは分からない。


 いずれにせよ、この二つには解決の目途がある。

 最も懸念すべき問題は最後の一つだった。


「……戦力の増強か」


 真刃は書類を机の上に置いて、小さく嘆息した。

 これが中々に難しい。

 現状、最強の戦力は言うまでもなく真刃本人だ。

 次いで杠葉、桜華。そして六炉である。

 その次に挙げるとしたら燦になるが、燦は戦力としては論外だと考えている。

 真刃としては有能であれば年齢を問わず起用すべきと考えているが、だからといって子供を戦場に立たせるのかというのは全く別の話だった。


 戦う覚悟に大人も子供も関係ない。

 むしろ、それは覚悟に対する侮辱だと考える者もいるだろう。 

 だが、それでも真刃は燦や月子、茜や葵を戦場には立たせたくなかった。


(出来れば、エルナたちも今回は立たせたくないのだが……)


 再び小さく嘆息する真刃。

 流石にそれは無理だとも考えていた。

 エルナたちは十五歳。引導師ならば充分に戦力として考えられる年齢だ。

 ましてやエルナたちはすでに何度も実戦を経験している。

 そもそも大人しくしろと言っても、エルナたち自身が納得しないだろう。

 だからこそ、杠葉の提案にも乗ったのである。


(……杠葉か)


 真刃は先日のことを思い出す。

 不意に杠葉から告げられたのだ。


『妃たちの強化合宿がしたいの』


 ――と。

 しかも桜華との連名で提案された。

 少しは緩和したが、まだまだ親しいとは言えない二人の連名だ。

 杠葉も桜華も、それだけ今回の件に危機感を抱いているということだった。

 それに杠葉は気になることも言っていた。

 エルナのことである。


『今はまだ確信が持てないからもう少し待って』


 杠葉はそう言っていた。

 何やらエルナについて危惧することがあるようだ。

 真刃としては気がかりではあるのだが、杠葉は断固としてそれ以上は語らなかった。

 もう少し時間をかけて見極めるという話だった。


(どういうことだ?)


 真刃は眉をひそめる。


(エルナと杠葉にはほとんど繋がりはないはずなのだが……)


 それとも自分の知らないところで何か関係があったのだろうか?

 と、真刃が考えていた時。


 ――ボボボ。

 空中に鬼火が現れた。


 それは瞬く間に骨翼を持つ猿の姿に変わった。

 猿忌である。


『主よ』


 猿忌が口を開く。


『杠葉の提言を気にかけておるのか?』


「ああ」真刃は頷いた。


「特にエルナのことがな」


『……ふむ』


 少し間を空けて、猿忌はあごに手をやった。


『それは確かに気がかりだ。しかし、主よ』


 猿忌は主人に目をやった。


『我にはもう一つ気がかりなことがある』


「……何だ?」


 真刃は眉根を寄せて猿忌を見据える。


「何が気になるのだ? 猿忌よ」


『……いや。率直な話なのだが……』


 猿忌は珍しく気まずげな表情を見せた。


『杠葉に指導など出来るのか?』


「………なに?」


 真刃は軽く目を瞬かせた。猿忌は言葉を続ける。


『桜華はまだよい。あやつは厳しくはあるが、刀歌を指導した実績もある。しかしだな』


 一拍おいて、


『あの杠葉だぞ。燦をそのまま成長させたような娘だぞ』


「……いや待て。猿忌」


 真刃は軽く手を突き出して言う。


「それは十八の頃の杠葉だろう? 今のあやつには百年の年月がある。流石にそこは変わっているだろう?」


 十八の頃の杠葉は確かに破天荒な性格をしていたが、そこから百年も経っているのだ。

 様々な経験を経て、流石に落ち着いているに違いない。

 真刃はそう考えていたのだが、


『そこは良くも悪くも主のせいだぞ』


 猿忌は言う。


『あやつは主と再会して愛されて、あの頃の性格が強く出ている。桜華もそうだが、著しく心が若返っているのだ』


「………む」


 真刃は言葉を詰まらせる。

 それは指摘通り真刃のせいとも言える。

 杠葉から百年の重責を奪い取ったのは他ならぬ真刃だ。

 今の杠葉は火緋神家の長ではない。

 何のしがらみもないただの杠葉だった。


『肩書は人を変えると言うが、ならば肩書を失えば元に戻るのは道理ではないか?』


 と、猿忌は言う。


「それはそうかもしれんが」


 真刃は渋面を浮かべつつも反論する。


「それでも流石にあの頃よりは落ち着いているだろう?」


 どこか期待するような眼差しで従者に尋ねてみるが、猿忌は困ったような表情をして、


『我は妃として杠葉のことは気に喰わんが……』


 そこで深々と溜息をつき、


『そのような個人的な感情を別にしても、あの杠葉だからな……』


 そう答えた。


「………………」


 真刃は無言になった。

 杠葉の性格は誰よりも真刃がよく知っていた。

 ややあって、


「……まあ、合宿は一週間だったな」


 真刃は少し天井を見上げて、


「杠葉と桜華にはあまり酷にはならないように念押ししておこう」


 指を組む。


(オレ)も時間を作って様子を見に行くか」


 そう呟いた。



 そうして翌日。

 強化合宿の舞台にて。


「じゃあ、まずは軽くね」


 杠葉はすべての妃たちの前でこう告げる。


「準備運動として百キロぐらい走りましょうか」




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― 新着の感想 ―
[一言] >>準備運動として100km マラソン1往復以上は、準備運動で走る距離じゃないと思うの…
[気になる点] >「準備運動として百キロぐらい走りましょうか」 …杠葉を止めて桜華師匠。 [一言] 開戦前に味方戦力が壊滅しているかも。
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