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骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第13部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第10部 『乙女たちの日々』

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弐妃/オズとモーリー③

 それから二日が経過した。

 この二日間は全くもって平穏だった。

 狂犬とも称される少年だが、意外とすぐに襲撃はなかった。

 特に異変の予兆もない。

 とは言え、彼はすでに日本には来ているはずだ。

 未だアクションがないのには、何かしらの意図があるとは思うが……。 


『お嬢。いいのか?』


 かなたの自室。ベッドの上で蛇のぬいぐるみ――赤蛇が言う。


『例の元カレの話をご主人に伝えなくても』


「元カレじゃない」


 寝間着代わりのジャージ姿。

 風呂上がりのかなたは、まだ少し濡れた髪のまま答える。


「あえて言うのならストーカー。けど、真刃さまに伝える必要はない」


 かなたは赤蛇に腕を伸ばして、自身の肩の上に移動させる。


「杠葉さんの一件は片付いたけど、真刃さまは今、例の伝説の化け物を迎え撃つ準備とかで本当に忙しいから。これぐらいの些事は私だけで片付けたい。それに――」


 かなたは少し双眸を細めた。


「オズとの戦闘は私にとって都合がいい。以前は互角だった彼と戦えば、今の私の疑問も解決するような気がするから」


『そうか……』


 赤蛇は首を傾げた。


『まあ、お嬢の意志を尊重するよ。いざとなったらオレも出張るが、怪我だけはすんなよ。ご主人が心配するからな』


「分かってる」


 かなたがそう答えた時だった。

 不意に机の上のスマホが鳴った。どうやらメールが届いたようだ。

 かなたはスマホを手に取って、そのメールに目をやった。


「……来たみたい」


『そっか』赤蛇もかなたの肩の上からメールに目を通す。


 それは一言でいうと、『果たし状』だった。

 場所と日時の指定。

 そして一人で来いとのことだ。

 それ以外はないシンプルなメールだ。まあ、わざわざ日本語で書いてあるので、あまり複雑なことは書き込めなかっただけかもしれないが。


「日時は明日の深夜一時」


 かなたは呟く。


「場所は廃車(スクラップ)工場。そんなの近くにあったの?」


 URLが張られていたのでタップしてみたが、少し離れた場所だ。

 というより、結構な山奥だった。

 普通に歩いてだと二時間はかかりそうだ。

 まあ、引導師が本気で走ればそこまで時間はかからないが。


『どうやら場所を決めるのに時間がかかったみたいだな』


 と、赤蛇が言う。


「相変わらず面倒な人……」


 かなたは嘆息した。

 そうして――。



 翌日。

 時刻は深夜。

 制服姿のかなたは指定通りにこの場所にやって来た。

 同行者はいない。強いて挙げるのならチョーカーに宿る赤蛇だけだ。

 出掛けることさえ誰にも伝えていなかった。

 周囲には幾つも並べられた廃車。さらに奥に進むと工場が見えてきた。

 いつしか並んでいた廃車は積み上げられるようになった。

 廃車の山には不安定さがあった。奥へ行くほどにかなりの煩雑さを感じる。

 この場所を管理している会社は、あまり真っ当な企業ではなさそうだ。

 そうこうしている内に目的の人物を見つけた。


 足を止める。

 彼は廃車の山の一つ。

 その頂上にある車のボンネットの上に腰を掛けて待っていた。


「……よう」


 朧月を背にして、少年はニタリと笑った。


「久しぶりだな。モーリー」


「そうですね。オズ」


 かなたは、まるで装甲を思わすような赤黒の大きなジャケットを着た少年を睨み据えた。

 少年は廃車の山の上から跳び下りて、かなたの前に着地した。

 ザッザッザッと近づいてくる。

 そして、


「……け。相変わらず愛想がねえ奴だな。けどよ」


 アレックスは挑発するように前屈みになって、かなたをマジマジと観察した。


「お前、マジであのモーリーか? 随分と変わっちまったな」


「そういうあなたは、あまり変わっていませんね」


 かなたもアレックスを観察する。

 少し意外だった。記憶の頃と容姿にあまり差がないのだ。

 特に身長が一番意外だった。今のアレックスは十七歳のはずだが、身長はかなたよりも少し高い程度だ。百六十センチほどか。記憶にあるアレックスは小柄な少年だったが、すでに成長期に入っているのなら、見上げるような身長差になっているだろうと勝手に思っていた。 


「ああン? オレがチビのままって言いてえのか?」


 アレックスが額に青筋を立てる。


「てめえこそ無駄にデカくなりやがって。特に何だよその乳は? 強くなんのも諦めて男を喜ばす訓練でもしてたのかよ?」


「……オズ」


 流石にかなたも不快感を見せる。


「相変わらずデリカシーもモラルも持ち合わせていないのですね」


「は? そんなんが何の役に立つんだよ?」


 アレックスは上半身を起こすと、悪びれもせずに言う。


引導師(ボーダー)は強さがすべてだ。てめえの一番変わったところはその眼だな。昔のてめえは余計なモンはすべて削ぎ落としたような鋭さがあった」


 一拍おいて、


「いつも冷静沈着で余計な感情も見せない。まるで一振りの剣みてえだったよ。なのに今のてめえは何なんだ? 隷者(ドナー)だと? 負けたのか? そんで無理やり女にでもされて心が折れちまったか? 今のお前には昔の面影が全くねえ」


 ――昔の面影がない。

 それは、かなたにとってはむしろ喜ばしい話だ。

 あの頃の人形のようだった彼女では、とうの昔に死んでいたはずだから。

 昔の面影がないということは、かなたが救われたという証明である。

 しかし、アレックスには心底気に入らないことらしい。


「会いに来て正解だった。今のてめえは昔以上に目障りだ」


 言って、アレックスは虚空を開いて手を突っ込んだ。

 そうして、


「今日ここで腑抜けた目を覚まさせてやらあ。それが無理ならここで死ね」


 凶悪な眼差しを以て、そう告げた。




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