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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第9部 『百年乙女―天照紅炎―』

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第八章 天を照らす紅き炎➂

 鳴り響く轟音。

 爆発の熱波が杠葉の頬を叩く。

 爆炎は天にも届きそうな勢いだった。

 しかしながら、杠葉の表情は険しい。


(――来る)


 炎の大太刀を構えた。

 直後、爆炎の中から人影が飛び出してきた。

 それは鬼面の戦士ではなく白銀の騎士だった。

 鬼面の戦士よりも一回り体格が大きい。

 猿忌の黒鉄の装甲の上に、同じく従霊の刃鳥の装甲を纏った姿だった。

 防御を固めただけあって全身に荒々しい炎こそ帯びているが、ほぼ無傷の姿である。


(やっぱり半端な炎じゃあ効かないわね)


 杠葉は大太刀で真刃を迎え撃った。

 ――ギィンッ!

 炎の大太刀と、鋼の白刃が再び交差する!

 しかも、真刃は左腕の手甲からも直刀を抜き放った。

 二刀となって手数は倍増する。


 ――無尽の斬撃。

 まるで阿修羅のごとくだ。


 重武装になっても斬撃の速度が落ちることもなかった。

 杠葉はどうにか凌ぐが、怒涛の猛攻は一向に収まる様子はない。

 恐らくは無呼吸の連撃だ。

 真刃ならば十数分この状況が続いても不思議ではない。

 そんな斬撃の嵐の中で、


(……ここまでね)


 杠葉は双眸を細めた。


(初手としてはこんなところかしら)


 内心で皮肉気な想いを抱く。

 そうして後方へと長い飛雷を放った。

 それに乗って間合いを確保する。

 対する真刃は、すでに距離を詰め始めていた。

 杠葉は炎の大太刀を上段に構えた。

 真刃は構わずさらに加速する――が、


『――ッ!』


 そこで微かに顔色を変えた。

 上段に構えた杠葉の炎の大太刀が、唐突に消えたのだ。

 代わりに彼女の頭上に虚空が開かれる。

 彼女の両手には見覚えのある真紅の柄が握られた。


(ここで来るか!)


 真刃は舌打ちする。

 すでに跳躍している真刃は宙空にいるため、止まることは出来ない。

 咄嗟に両腕の二刀を交差させて頭上に構えた。

 そして、


 ――ザンッ!

 真紅の刃が振り下ろされる!


 火花が散った。

 次の瞬間にようやく着地した真刃は後方へと跳んだ。

 ズザザッと両足で火線を引く。

 数瞬の静寂。


『……相変わらず、恐ろしいほどの鋭さだな』


 真刃はそう口を開いた。

 彼女の手には、真紅の刃が握られていた。

 まるで岩から削りだして造ったような歪で武骨な刃である。


 ――神刀・《火之迦(ひのか)具土(ぐつち)》。

 神代より火緋神家に伝わるという神威霊具だ。


 神刀の一撃により、真刃の直刀は二振りとも両断されていた。

 二刀を交差させていなければ、そのまま頭蓋を断ち割られていたかもしれない。


『……いよいよ本領か』


「……ええ。そうね」


 杠葉は静かに頷いた。

 その直後のことだった。

 彼女の長い黒髪と瞳の色が真紅へと変わったのは。

 さらには身に纏う炎も変化する。

 炎の白衣(びゃくえ)はより実体化すると白く変化し、炎の紋を袖に示す。その他の炎は収束されると黄金の衣に変わって肢体を覆い、その上に密着型の甲冑を造り上げた。

 そして最後に額を中心に宙に浮かぶ黄金の冠を生み出した。


 杠葉は神刀を薙いだ。

 全身から熱風と火の粉が噴き出して周囲に舞う。

 神刀も、より紅い輝きを増した。


(これは……)


 真刃は双眸を細める。

 それはかつて帝都で見たことのある姿だった。

 神刀との契約により彼女が至った姿である。


(……いや、違うな)


 が、すぐに思い直す。

 確かに見たことはあるが、あの時、杠葉が纏っていたのは炎だった。

 限りなく物質に近い密度ではあったが、あれは間違いなく炎だったはずだ。

 しかし、今はどうか。

 どう見ても完全に物質化している。


(そうか、これは……)


 杠葉の今の姿。

 恐らくこれは六炉や燦が纏う戦衣(ドレス)と同じモノなのだ。

 要は象徴(シンボル)顕現時の姿である。

 ――巨大なる力の化身。

 象徴(シンボル)とは天堂院家が禁忌に近い手段で見出した術理の極致だ。

 模擬象徴(デミ・シンボル)という紛い物こそ広く知れ渡っているが、象徴(シンボル)自体は天堂院家に縁が深いごく一部の者しか知らない。


 当然ながら、杠葉もそれを知らなかった。

 今はまだその名称さえも知る由もないだろう。

 だが、彼女は禁忌の代わりに、百年の修練を以て同じ領域へと踏み込んだのである。


(六炉や燦と同じならば、武装型(アームドタイプ)というやつか)


 真刃は警戒する。

 武装型の象徴(シンボル)は巨大な武器。もしくは自然現象だ。

 神刀自体は象徴(シンボル)ではないため、他の何か(・・)が現れるはずだった。

 神刀は真刃の命に届き得る警戒すべき霊具だが、杠葉の象徴(シンボル)が現れるとしたら、その危険度は神刀にも劣らない。

 すると、


「じゃあ、本気で行くわよ。真刃」


 杠葉はそう告げた。

 次いで神刀の切っ先で灼岩の大地に触れた。

 そして、


「ここから先は、あなたも知らない私だから」


 世界は紅い炎に包まれた。



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