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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第8部 『百年乙女―騒乱疾駆―』

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第六章 蒼い夜④

 その頃、フォスター邸にて。

 壱妃・エルナは、かなり気が急いていた。

 廊下を早足で歩く。

 向かう先は自分の部屋だ。

 忘れ物をしたため、急いでいるのである。


 ――今夜、恐らく襲撃がある。

 真刃に届いたメールから、エルナはそう考えていた。

 それは他の妃たちも同意見だ。

 しかし、真刃はあえて誘いに乗った。

 もしメールの内容に偽りがないのならば、矜持を以て送られた果たし状には矜持を以て応えるべきだというのが、彼の意見だからだ。


 真刃はかなり矜持を重んじる。

 特に相手側の矜持をだ。そんな彼を呼び出すには、赤裸々に目的と事情を語った上で一人で待つというのは、ベストな内容だったと言える。

 真刃は、護衛は専属従霊と近衛隊に任せて、すでに出立している。

 護衛たちも今夜は全員この階層(フロア)にいた。

 王妃を守る勅命だ。


 武宮たちも気合は入っているが、エルナたちも負けてはいない。 

 なにせ、襲撃してくるとしたら、月子と因縁深いあの脱走男である。

 あの男と直接面識があるのは真刃と月子だけだ。


 だが、話を聞くだけでヤバい男だとは分かる。

 象徴者(シンボルホルダー)であることもそうだが、何より性格面でだ。

 真刃も、そのことだけは心配して出立前に月子の様子を見に来ていた。

 ただ、月子自身は、リベンジマッチに意気込んでいるようだった。


『だ、大丈夫です! 心配しないで。おじさま』


 そう告げた。

 現在、月子の傍にはすべての妃が揃っている。近衛隊の双子も一緒だ。

 妃たちは全員が正装であり、気合も入っている。

 もちろん、妃の長であるエルナもだ。

 だが、気合いが入りすぎてか、大切な壱妃の腕章を部屋に置き忘れてしまったのだ。

 かなたに着け忘れていると指摘されて、ギョッとしたものだ。

 それを取りに急ぎ自室へと戻っているのである。


 そうして、エルナは自室に到着した。

 部屋に入り、机の上に置きっぱなしであった腕章を着ける。


「ダメね。壱妃としての自覚が足りないわ」


 エルナは反省する。

 しかし、確かに着けていたつもりだったのだが……。


「気持ちが空回りしてるのかしら? まあ、真刃さんが一番頼りにしているのが六炉さんってことには、壱妃として納得してないところもあるし……」


 どうにかしてここで活躍したい。

 そんな焦りのような想いがないというには嘘がある。

 それが空回って腕章を見落とすようなことになったのだろうか。


「けど、それでも壱妃の腕章を着け忘れることなんて……」


 眉根を寄せて、そう呟いた時だった。


 ――ごめんなさい。


 不意に、どこからか声を聞いたような気がした。

 エルナが「え?」と目を丸くすると、さらに声は続く。


 ――今夜、どうしても行かなければならない場所があるの。あんな騒乱(・・・・・)が起きてからだと動けなくなってしまうから。だから……。


 そこで声が途切れる。

 いや、途切れたのはエルナの意識の方だった。

 しかし、気を失っても彼女が倒れることはない。

 それどころか、


「……九龍」


 手首のブレスレットに触れて、専属従霊の名を呼んだ。


『ガウ? ドウシタ? ヒメ?』


 銀のブレスレットが震えて応える。


「……ごめんなさい。これから行かないといけない場所があるんです」


 一拍おいて、彼女は尋ねる。


「私をそこまで連れて行ってもらえますか?」


『ガウ? 今カラカ?』


「はい。今からです」


 彼女は頷いた。


「誰にも知られたくない重要な用件なんです。お願いできますか? 九龍」


『……ムウ』


 九龍は一度唸るが、


『分カッタ。ヒメガ望ムノナラ、オレハ応エル』


「ありがとう。九龍」


 彼女は微笑んだ。

 ただ、そこで唇に人差し指を当てて、


「けれど、初めて乗せてくれた時のような速さで飛ぶのは止めてくださいね。私の方はともかく、この子に無茶をさせたら、あなたがまた真刃さんに怒られちゃいますから」


『……ガウ? ヨク分カラナイガ、承知シタ』


 九龍の返答に彼女は満足げに頷いた。

 そうして、彼女は歩き出す。

 向かう先は自室の窓だ。そこを大きく開放する。


『ドコニ行クノダ? ヒメ?』


「……天上へ」


 紫色の瞳を宝石の如く輝かせて、彼女は告げる。


「……空の向こう。そこに彼女は来るはずですから」


 そうして薄紫の羽衣を窓の外へと大きく広げた。

 周囲に溶け込む羽衣。 

 エルナの術の一つ。《不可視境界(インビジブル・コート)》である。

 同時に、その中にて九龍も顕現する。

 彼女は九龍の背中に飛び乗った。


「では、お願いしますね。九龍」


『ウム。行クゾ。ヒメ』


 黒龍が躍動する。

 かくして黒い龍の背に乗って。

 誰にも気付かれることなく、彼女は夜空へと駆け上がっていった――。











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― 新着の感想 ―
[気になる点] いくらなんでも、一話ごとにシーン切り替えは鬱陶しい。 「流れ」を細切れにされたんじゃ没入感に水をさされる。
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