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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第1部 『骸鬼王の館』

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第七章 幸せは巡る①

 パチリ、と目を開いた。


「……ここは」


 見知らぬ天井を見つめながら、かなたが呟く。

 夢を見ていた。それは分かる。ならば、今まで自分は眠っていたのだろう。


『――おっ!』


 その時、耳元で声がした。目をやると、そこには赤い蛇がいた。


『おう。お目覚めだな! お嬢! オレは――』


 むんず、と。

 かなたは無造作に蛇の喉を掴んだ。

 そして、両手で蛇体をしっかりと握りしめて。


「危なかった。害獣は駆除しないと」


『ファッ!? 意外と攻撃的!?』


 蛇は、べしべしとかなたの腕を尻尾で叩く。

 しかし、かなたは一切気にしないで首をキュッと捻ろうとするが、


「……? 柔らかい?」


 筋肉や骨の感触がしない。よく見ると、蛇の体は糸で出来ていた。

 リアルすぎて分からなかったが、一種のぬいぐるみのようだ。


『と、とりあえず離してくれよ。お嬢』


「……………」


 どうやら害はないようなので、かなたは蛇を離した。

 蛇は、しゅるしゅると間合いを取って鎌首を上げると、


『自己紹介しとくぜ。オレは赤蛇(あかじゃ)だ』


「……そう」


 名前を名乗ったようだが、かなたは興味もなく一言で断ち切った。

 それよりも、まずは今の状況把握の方が先決だった。

 体を起こそうとするが、力がほとんど入らない。恐ろしく体力を消耗している。 

「……ん」それでも、どうにか上半身を起こす。

 ここは、恐らく骸鬼王の館の部屋の一室なのだろう。壁には絵画。棚には高価そうな壺などが並べられている。かなたが座るベッドも大きく上質なモノだ。廃屋敷だというのに埃も被っていない。清潔そうなシーツである。

 かなたは、続けてベッドから立ち上がろうとするが、上半身を起こした時よりもキツい。想像以上に体力を消耗していた。いや、体力は充分にあるのだが、まるで体が脳の指令に応えてくれないようなもどかしさを感じる。


「……ん、んん」


 思わず呻いていると、


『あら? お姫さまが目覚めたのですか?』


 不意に、新しい声が耳に届いた。

 表情を険しくして見やると、そこには刃で創られた孔雀の彫像がいた。


『おはようございます。かなたさん』


 ――いや、彫像ではない。

 刃の孔雀は喋り、動いていた。これと似たモノをかなたは知っていた。

 何度か見た、黒鉄の虎と同種の存在だ。


「久遠真刃の式神ですか?」


『そうですわ。刃鳥と申します』


 言って、孔雀は翼を広げて優雅に一礼した。

 次いで首を動かし、『真刃さま』と、主の名を呼ぶ。

 かなたも、孔雀が首を向けた方に目をやった。 


『お姫さまが、お目覚めになられました』


「……ム。そうか」


 そこには黒いスーツを纏う青年がいた。丸いテーブルの前の椅子に座り、足を組んでいる。

 上着は背もたれに、黒いシャツは腕まくりしていた。ネクタイも少し緩めている。シャツの上から巻いた拳銃用のホルスターがなければ、一息つく青年実業家のようだった。

 事実、丸いテーブルの上には、どこから持ち込んだのか缶コーヒーが置かれている。

 いや、酔狂なことに、どうやら、あのホルスターは拳銃用ではなく缶コーヒー用のようだ。革製の缶コーヒーホルスター。ストックがまだ二本ある。


「ふむ。杜ノ宮かなたよ」


 青年はかなたを見つめた。そして、


「目覚めたのは僥倖だ。改めて自己紹介しよう。(オレ)の名は久遠真刃だ。以後宜しく頼む」


 そう言って、久遠真刃は笑った。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いッ!!!!!世界観が作り込まれていて、現実世界では認められないような慣習も、この小説世界ならば納得できる。主人公の性格も嫌味がなくスッキリと読める。缶コーヒー好きというアクセントも魅…
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