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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第6部 『強欲なる都市の王』

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第八章 雪解けの夜⑥

「……完全に逃げられちゃったみたいだね」


 その頃、無残になった公園で芽衣が溜息をついていた。

 その場には彼女以外にも人の姿に戻った武宮と獅童。武装を解いて和装に戻った阿修羅姫と千堂夫妻。そして神楽坂姉妹の姿があった。

 葵はまだ涙目で、ずっと姉と武宮の手を握っているのが印象的だった。


「ありゃりゃ。随分と懐かれてしもたね。武宮君」


 そう茶化す千堂に、


「うっせえよ」


 ブスッとした様子で武宮がそう返す。

 それでも葵の手を振り払わないところは彼の人の好さだった。

 そんな中、煙草に火を点けて、獅童が紫煙を吐いた。


「……失態だな」


 一服しても心が落ち着かないのか、渋面を浮かべた。


「まさか逃げるとはな。若に申し開きも出来ん」


「そこはウチが代表して怒られるよォ」


 芽衣も模擬象徴(デミ・シンボル)を解いている。

 灰色の隊服姿で彼女がそう言った。


「ウチは隊長さんだしィ。けど、今はそれよりも」


 芽衣は顔を上げた。

 その視線の先はそびえ立つ巨大なビルだ。


「一旦シィくんのとこに行こ。名付き我霊(ネームドエゴス)も逃げ出している可能性はあるけど、まだ戦っていることも考えられるしィ」


「ああ。そうだな」


 と、武宮が頷いた時だった。


「ッ!」


 不意に千堂が表情を鋭くした。


「気ィつけ。誰かおるで」


「……なに?」


 獅童が煙草を捨てて呟く。

 芽衣たちも表情を険しいモノに変えた。

 確かに人の気配がする。それも一人や二人ではない。

 琴音と神楽坂姉妹を中央に囲って、芽衣たちが周囲を警戒した時だった。

 ぞろぞろと溢れ出すように人影が現れたのだ。

 その数は百や二百ではきかない数だ。流石に芽衣たちも唖然とした。

 どこかのチームの襲撃かと警戒もするが、その中から一人の女性が現れた。

 屈強な男を二人従えた西條綾香である。


「ちょっ!? なんであなたがここにいるのよォ!?」


 芽衣が目を剥いてそう告げる。

 まさか同盟を破って不意打ちでも仕掛ける気かと勘繰るが、


「私の方こそ聞きたいわよ」


 綾香は訝し気な眼差しを芽衣に向けてから、千堂の方に目をやった。


「あなたたちもSNSを見てここに来たの? けど、どうして千堂と一緒にいるのよ?」


 それから神楽坂姉妹の方も見やり、


「その双子って鬼塚のところの子たちよね? どういう組み合わせよ」


「へ? 何の話?」


 芽衣も困惑した表情を見せた。


「千堂君は一応同盟者なんだけど、SNSってなに?」


「は? 同盟者って何よ? いつの間に《崩兎月》とも同盟を組んだの?」 


 綾香はますます眉根を寄せたが、「まあ、いいわ」と呟き、


「彼の実力なら千堂も軍門に降せるでしょうから、その点はいいわ。それよりも」


 綾香は面持ちを鋭くした。


「いま久遠はあそこにいるの?」


 腕を組み、視線を巨大な積み木を思わせる高層建造物(ビル)へと向けた。

 芽衣たちは軽く目を剥いた。


「なんでそこまで知っているのよォ」


 代表して芽衣がそう尋ねると、綾香は視線を戻して嘆息した。


「いまSNSでバズってるのよ。今あそこには『(キング)』と『女王(クイーン)』がいるって」


「……は?」


 芽衣は唖然とした。武宮たちも驚いた顔だ。


「え? なんでそんな話になってるの?」


「知らないわよ」


 綾香は端的に言う。


「誰かの目撃情報があったのか、そういう噂が立ってるの。今この付近には強欲都市(グリード)中のチームが集まってきているみたいね」


「マジかよ」


 武宮が周囲に目をやった。

 よく見れば、ここにいるのは綾香のチームだけではない。

 有力なチームのメンバーから、無名の輩までいる。

 しかも、人の気配はさらに集まっているようだった。

 公園もみるみる人で埋まっていき、近くにあるビル群や駅の屋上にまで人影が見える。


「おいおい。ここまで集まって人払いの術は大丈夫なのか?」


「分からないわよ。そんなの」


 綾香が嘆息して言う。


「とりあえず私の部下たちには何重にも重ね掛けをするように命じているわ。今のところ効果はあるみたいだけど、ただ……」


 綾香は自分のスマホを取り出した。

 その画面は完全にブラックアウトしていた。

 触ってみても反応しない。彼女は苦笑を零した。


「逆に効果があり過ぎるみたいね。元々人払いの術って電子機器も阻害するけど、ここまで重ね掛けしたら起動すらも出来なくなるみたいよ。電子機器がまるで使えなくなってるわ」


 再び綾香はビルに目をやった。


「この周辺では情報は得られない。けど、SNSに頼らなくても皆ここに集まってくるわ。引導師(ボーダー)は直感にも優れているから、どこか予感があるのでしょうね」


「……本当にあそこに」


 芽衣も遥か頭上へと視線を向けた。


「《雪幻花(スノウ)》ちゃんもいるの……?」


 そう呟いた時だった。

 突如、ビルの屋上が輝き始めたのだ。

 まるでその場に星が降り注いでいるような輝きだった。

 明らかに異常な事態である。

 芽衣が目を剥き、周囲もざわつき始める。

 そして――。


「……え?」


 次いで起きたその現象に、全員が息を呑むのだった。

観衆SIDE

修復屋一同「「「うおい!? てん●ばからごっそり芝がなくなっとんぞ!?」」」

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