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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第6部 『強欲なる都市の王』

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第六章 闇の呼び水①

 その日、篠宮瑞希はかなり浮かれていた。

 それもそのはず。

 今日から十日間。彼女は愛しい人と寝食を共にするのだ。

 彼から連絡があった日はたまたまキャンパス内にいて、その内容に「うひゃあ!?」と悲鳴を上げて注目を浴びてしまったぐらいだ。


 感謝した。

 出張してくれた久遠真刃に、心から感謝したものだ。


 前日の夜。瑞希は徹底的に体を洗った。

 スレンダーな肢体を何度も泡立てた。短くはあるが絹糸のような髪も丁寧に洗った。

 自分の体に傷などもないことを確認し、まさしく全身を綺麗にした。

 一緒に暮らすといっても、たったの十日間。

 そういったこと(・・・・・・・)はまず起こらないだろうが、それでも可能性は無限だ。

 というよりも、心も体もすでに臨戦態勢、完全に受け入れ万全の状態になってしまっているため、洗わずにはいられなかったのが実情だが。


(ダメだダメだ。しっかりしないと)


 十日分の衣類(トランク)を手に、思わずにやけそうな顔を無理やり引き締める。

 まだ告白さえもしていないのだ。

 うっかり甘えたくなっても我慢しなければならない。


(うん。ここは堅実に行こう)


 彼にドン引きされても困る。

 逸る気持ちは抑えて、今回は外堀を埋めることに専念しよう。

 彼が仕えるお姫さま。

 妹弟子でもある彼の養女。

 折角この二人とも一つ屋根の下で暮らすのだ。

 ここは良い印象を与えておきたい。

 そう思っていたのだが……。


(え、えっと、なんで?)


 フォスター邸にて、瑞希は困惑していた。

 彼の案内で通されたリビングには、住人が全員揃っていた。 

 五人の少女たちが、ソファーに座って迎えてくれたのだ。

 改めて見ると、凄い美少女ばかりだ。

 特に年長組の三人はとても十五歳には見えない。

 胸の大きさなんて瑞希よりも明らかに大きいぐらいだ。


(……全員85以上はあるんじゃないか? どうなってんのこの子たち……)


 内心で冷や汗をかいてしまう。

 これが次世代のクオリティーだというのだろうか?

 ただ、一番ショックだったのが、


(……うわぁ)


 今回、外堀を埋めようと考えている一人である妹弟子。

 まだ十二歳だというのに、多分、この子まで自分よりも胸が大きい。


(僕、これでもギリ80はあるのに……)


 思わず落ち込んでしまうが、別にこれに困惑していた訳ではない。

 困惑していたのは最後の一人についてだ。


「しゃああああ―――ッ!」


 本家のお姫さま――火緋神燦に、いきなり威嚇されてしまったのである。

 ソファーの上に四つん這いになってネコのように唸っている。


(……なんで?)


 瑞希はまだ何もしていない。

 ただ、彼女たちに名前や年齢などの自己紹介をしただけである。

 困惑した瑞希は、目で燦の隣にいる妹弟子――蓬莱月子に助けを求めた。

 しかし、彼女もまた、


「しゃ、しゃあああ……」


 両手を上げて威嚇してきた。

 燦と違って少し恥ずかしそうではあったが。


(ええ~、なんで僕いきなり嫌われてるの?)


 瑞希は頬を強張らせた。

 すると、


「こら。燦」


 銀髪の少女が立ち上がり、四つん這いになっている燦の腰を持ち上げた。 


「威嚇しないの。月子ちゃんも燦に付き合わない」


 そう告げる。

 瑞希は、彼女に目をやった。

 銀色の髪と紫色の瞳を持つ少女。

 名前は、エルナ=フォスターだったか。


(アメリカに拠点を置くフォスター家の直系か……)


 他の少女たちにも視線を向ける。

 一人はショートヘアの無表情な少女。名前は杜ノ宮かなた。

 日本出身の引導師(ボーダー)の家系らしいが、血縁者は一人もおらず、今はフォスター家に取り込まれた従家といった情報ぐらいしかなかった。

 かなたはとても静かな眼差しで、瑞希を見据えていた。

 もう一人は、白いリボンで髪をポニーテールに結いだ少女だった。

 御影刀歌。彼女に関しては最も情報が多い。

 火緋神家の分家の一つ、御影家の長女だ。同じく分家である瑞希とは縁戚でもある。

 ただ、御影家は他の分家に比べると本家とはやや疎遠になっているらしく、瑞希が彼女と顔を合わせるのはこれが初めてだった。

 刀歌も、腕を組んで瑞希を見つめている。


 同世代の三人の少女たち。

 そしてこの三人――いや、燦と月子も含めた五人の中でリーダー格はエルナらしい。


「すみません。篠宮さん」


 エルナが、燦を小脇に抱えたまま頭を下げた。


「この子、篠宮さんが綺麗な人だから警戒しているんです」


「離せっ! エルナ!」


 燦はご立腹だった。

 ジタバタと手足を動かして、


「こいつはヤバいの! だってあたしとキャラが被ってるから!」


「いや、僕とお姫さまのキャラのどこが被るの……あ」


 と、呟いたところで、瑞希は気付いた。

 改めて理解する。

 ここが久遠真刃の『城』であるということを。

 そこに知らない女が入り込むことが、燦には気に入らないのだ。

 そして、キャラが被るというのは……。


「いや、あのね」


 瑞希はジト目になった。


「僕、流石に君よりはおっぱいあるよ」


「うっさいわ!」


 燦はますますご立腹になった。


「貧乳キャラには変わりないでしょう!」


「いや、あなたね」


 エルナが呆れたように告げる。


「事あるごとに自分の将来性を謳ってたじゃない。ひいお婆さんだっけ? 凄い美人でおっぱいも凄かった人って……」


「そうだよ! あたしのひいお婆さまは本当に凄いんだよ! あたしはその血を引いてるから大丈夫! 将来性は抜群だから! けど!」


 抱えられたまま、燦は拳を振り抜いた。


「今は今ある武器で勝負しなきゃ! おじさんは実はちっぱいが好きなのかも知れないし! だからあたし以外の貧乳属性持ちは邪魔なのっ!」


「……おい。小学生」


 エルナは、ジト目を向けて燦の頭を叩いた。


「その台詞は真刃さんを犯罪者に追い込むことになっちゃうから控えなさい。ただでさえ私たちって平均年齢が低いんだから」


「……あはは」


 瑞希は苦笑を零した。


「まあ、お姫さまの意気込みはともかく、僕を警戒するのはお門違いだよ」


 言って肩を竦めた。


「僕がここにいるのは、その久遠さんがいない間だけだしね。それに……」


 コホンと喉を鳴らした。


「僕には好きな人がいるんだ。もちろん、久遠さんじゃないよ」


「え? そうなの?」


 根が素直な燦が瑞希を見つめた。


「うん。そうだよ」


 瑞希はニコッと笑う。


「だから身構えないで。お姫さま。月子君も」


 瑞希は月子の方にも笑みを見せた。

 同じく素直な月子も「は、はい」とコクコクと頷いた。


「ふふ」


 その時、不意に()が笑った。

 瑞希は、ドキッとして振り返った。

 そこには、ずっと様子を見守っていた彼――山岡辰彦の姿がある。


「顔見せは無事終わったようですな。さて瑞希君」


「は、はいっ、先生!」


 瑞希は、緊張した様子で背筋を伸ばした。

 ただ、いきなりのことでわずかにバランスを崩してしまう。


「おっと。驚かせてしまいましたか」


 そんな瑞希の肩を山岡は支えた。

 瑞希は思わず声を上げそうになったが、グッと堪えた。

 ただ、瞬く間に顔は赤くなっていたが。


「「「………え?」」」


 エルナたちは目を瞬かせた。


「君の部屋に案内しましょう。ついてきてくださいますか」


「は、はいっ」


 山岡からは顔を隠して、瑞希はコクコクと頷いた。

 その顔はやはり真っ赤だった。

 そうして彼女は、しおらしくトランクを片手に山岡について行く。

 その後ろ姿をエルナたちは、じいィと見つめていた。


「なあ、エルナ」


 刀歌が尋ねる。


「もしかして彼女は……」


「えっと、やっぱりそうなのかな?」


「……かなり疑わしいかと」


「え? けど山岡って確か六十歳だよ? あの人ってさっき二十歳って……」


「けど、瑞希さんのあの様子って……」


 と、勘の良い妃たちは一目で瑞希の心情を見抜いていた。

 一方、そんな彼女たちの様子には気付かず、瑞希は部屋に案内された。

 何気に彼女の住まいより広い部屋である。


「では瑞希君。今日のところは夕食までゆっくりしていてください」


 山岡はそう告げると去っていった。

 瑞希はトランクをベッドの横に置いて、自身はベッドにダイブした。

 ベッドは、彼女の体を柔らかに受け止めてくれた。


「うへえ、自己紹介程度で緊張したなあ」


 仰向けになって瑞希はそう呟く。 


「けどチャンスだよ! 大チャンスだよ! ありがとう久遠さん!」


 瑞希は、心から出張中の青年に感謝した。


「ここでお姫さまたちの信頼を勝ち取って辰彦さんとの距離も縮めるんだ!」


 と、この千載一遇のチャンスに野望を燃やす。

 ただ、そのためには出来るだけ滞在期間が長引いてくれた方が良かった。


「久遠さんの出張先はあの強欲都市(グリード)か……」


 危険な場所で有名ではあるが、別に世紀末のような街でもない。

 大都市としての最低限の常識は持っているはずだ。

 目立つような活動でもしない限り、何かに巻き込まれることもないだろう。


「出張の延期は期待できないかな?」


 そんなことを考えつつ、瑞希はスマホを取り出して検索した。

 何も考えていない、本当に何気ない検索だった。

 だが、そこに出てくる情報の奔流に、


「……え?」


 瑞希は目を丸くした。

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