表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第1部 『骸鬼王の館』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/500

第四章 強欲なる者たち③

「……ふむ」


 同じ夜。杜ノ宮かなたの自宅。

 古い一軒家の寝室にて、ベッドに腰をかけたゴーシュは双眸を細めた。

 手に持つのは、かなたのスマホだ。


「……骸鬼王の館か」


 大門から送られたメールのタイトルには、そう記されていた。


「《千怪万妖(センカイバンヨウ)骸鬼(ガイキ)ノ王》。かつて帝都を壊滅寸前にまで追い込んだという、伝説級の怪物の眷属が棲む館か。危険度(カテゴリー)はA。ふん、あの食えない教師め。大家の当主をドサクサに紛れて有効活用するつもりだな」


 言って、ゴーシュはスマホを放り投げた。

 ぱしっと両手で受け取ったのは、部屋の隅で待機していたかなただ。


「しかも、お前とエルナも同行させろとはな。奴としては俺たちを引率に利用して、未熟なお前たちにA級の体験をさせてやりたいといったところか。俺とお前。あの男とエルナ。先に館の核となる我霊を始末した方が勝者ということらしい」


 そう告げるが、かなたは無言だった。

 以前にも増して人形じみてきたな、と思いつつ、ゴーシュは身につけていた白いスーツの上着を脱いだ。床に放り捨て、次いでシャツの方も脱ぐ。上半身が裸になった。スーツの上からでも分かっていたことだが、異様なまでに鍛え上げられた肉体である。

 ゴーシュは、ムン、と力を込め、バンプアップした上腕二頭筋に目をやり、


「流石は俺の肉体。今日も絶好調のようだ。さて」


 かなたを一瞥して告げる。


「何をしている? お前も早く脱げ」


「…………」


「景品だから、あの男に遠慮して、俺がお前に手を出さないとでも思っていたのか?」


 ゴーシュは言い放つ。


「お前は俺の道具だ。早く主人を喜ばせろ」


 かなたは顔を上げた。そして「……はい」と告げて頷いた。

 まず制服のスカートから取り外す。革の鞘に収まったハサミも太股から外す。次いで腰を屈めて、すっと黒いタイツも脱いだ。 

 続けて上着を。黒い下着だけの姿になった後は、それさえも取り外す。一分も経たない内にかなたは首のチョーカーだけを除いて一糸纏わぬ姿になっていた。


「……ほう」


 粉雪のごとくきめ細かい肌。

 未成熟の少女とは思えないほどに凹凸のある肢体のライン。

 傷一つないかなたの裸体を凝視し、ゴーシュはニヤリと笑う。


「大輪の花だったお前の母に比べれば、流石にまだ蕾だな。だが、それでも想像以上の美しさだ。これを今から蹂躙できると思うと、存外興奮するぞ」


 喜色満面でそう呟き、「こっちに来い」と、かなたに命じる。

 かなたは抑揚なく「はい」と答えて、ゆっくりと歩き出す。

 そして、ゴーシュの前で止まった。


「……どれどれ」


 ゴーシュはおもむろに、かなたの胸元へと手を伸ばした。

 ――が、そこで。


「…………」


 どうしてか眉をしかめる。ゴーシュは手を伸ばしたまま、動きを止めた。

 しばしの沈黙。それは、二十秒、三十秒と続く。

 そして、


「……ふん」


 不意に、ゴーシュは自嘲気味に口角を崩した。


「止めだ。お前に手を出すのは止めた」


「……ご当主さま?」


 かなたは、わずかに眉をひそめた。すると、ゴーシュは自分の足の上に肘を乗せて、


「ここでお前に手を出せば、どうしてもあの男との遺恨となるからな。やはり、男は初物が好きなものだ。もちろん、寝取るのは良いものだぞ。とても良いものなのだが、無垢を自分色に染め上げるのも存外楽しいものだしな。俺も最近経験したばかりだ」


 まあ、あいつは相当な跳ねっ返り娘でもあったがな。

 と、自身のろくでもない経験談を語りつつ、かなたに目をやった。


「さて。今回の《魂結びの儀》。勝敗に関係なく、お前は奴にくれてやるつもりだ」


 ゴーシュの顔が、少し真剣なものに変わる。


「……それは、どういうことでしょうか?」


 自分の裸体を隠そうともせず、かなたが尋ねてくる。

 ゴーシュは「ふん」と鼻を鳴らした。


「わずかな時間、相対しただけで分かったぞ。あの男は強い。下手をすれば、俺と互角か。あれほどの引導師はお前の父以来だぞ」


「……恐縮です」無表情のまま、かなたが言う。ゴーシュは皮肉気に笑った。


「お前の父は、どうにも世渡りが下手すぎた。あの実力ならば、大家相手に《魂結びの儀》など挑まずともやりようはあったはずなのにな。まあ、それは今さらか」


 一拍置いて。


「ともあれ、奴は強い。俺の腹心にもなれるほどの器だ。出来ることなら、奴とは決闘後も信頼関係を築きたい。となれば、身内に加えるのが定石なんだが、隷者相手にエルナを――妹をくれてやるのは、俺の沽券に関わる。だからこそのお前なんだ」


 ゴーシュは、かなたの裸体を再度まじまじと観察する。

 その間も少女は無反応だった。やはり裸体を隠そうともしない。


「ふむ。これならば『贈呈品』として充分だろう」


 ゴーシュは、ニヤリと笑った。


「奴のお気に入りであるお前をくれてやれば、エルナを取り上げられても少しは奴の溜飲も下がるだろう。そしてお前は奴の子を孕め。出来れば娘をな」


「……娘、ですか?」


 わずかに眉をひそめるかなたに、ゴーシュは「そうだ」と満足げに頷く。


「お前の娘を、お前の代わりとして俺が貰うことにしよう。なに。二十年ぐらい待つさ。それぐらいなら俺もまだまだ現役だろうしな。その自信もあるぞ。そして、お前の娘に俺の子を産ませるんだ。そうすれば、俺が認めた二人の男の血がフォスター家に宿る」


 ゴーシュは大きく両腕を開いた。


「フォスター家の未来は安泰だということさ」


「…………」


 かなたは再び無言になった。

 いつしか腹部の前辺りで組んでいた指が、わずかに震える。

 まるで感情の名残が抵抗するように。だが、それでも――。


「返事はどうした?」


「……はい」


 やはり、かなたが断ることはなかった。


「承知致しました。ご当主さま」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 国とは人である、逆はない。人を無視して国は成らない。 家庭とは社会の縮図である。国とは社会である。 とまぁ遺恨を理解した奴のセリフじゃないなと思ったのでどこかで聞いた言葉の復習をば…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ