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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第4部 『追憶の彼方』

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第六章 刃の王は、高らかに告げる②

(……ふむ)


 道化紳士――餓者髑髏は、あごに手をやった。


(エリーは、彼女と遭遇したようだな)


 もう一人の美貌の引導師。

 エリーゼと彼女の戦いが始まったことを、餓者髑髏は感じ取った。

 洋と和。

 まるで今の時代を象徴するかのような二人の戦い。

 本音を言えば、とても興味がある。

 それは、とても興奮するモノ(えきさいてぃんぐ)であるに違いない。

 だがしかし、


(今の吾輩以上に、興奮するモノ(すりりんぐ)ではないだろうな)


 餓者髑髏の心は躍っていた。

 まあ、現状、流星のように吹き飛ばされているのだが。


「よっと」


 餓者髑髏は宙空で回転。両足で旅館の屋根を削って急停止した。


「引導師と戦うのは、久方ぶりだが……」


 問答無用で蹴り飛ばされて到達した場所。

 とある旅館の屋根の上に餓者髑髏は立っていた。先程まで自分がいた旅館は、かなり遠方に見える。だというのに――。


「いやはや。少し驚いているよ」


 餓者髑髏は口角を崩した。

 目の前には、当然のように立つ引導師の姿がすでにあった。

 あの距離を、瞬時に移動したということである。


「今の引導師とは、みな、君と同じような力量(れべる)なのかね?」


『……さあな』


 ズシン、と。

 右足で屋根の瓦を踏み抜いて、黒鉄の鎧と炎を纏う引導師が返す。


『貴様の使う言葉は、いまいち理解できないモノが多いが、それが力量(りきりょう)という意味ならば、(オレ)に並ぶ者は、そうはいないだろうな』 


「なるほど」


 餓者髑髏は破顔した。

 パンパンッ、と蹴り飛ばされた胸部をはたき、汚れを落とす。

 ここまで流星のように吹き飛ばされた一撃。

 正直、痛みを感じたのは、百二十年ぶりぐらいだろうか。


「それは良かった。今の一撃だけで理解したよ。君は、いささか以上に逸脱しすぎだ。君をエリーとは戦わせたくないな」


『……エリー?』


 黒鉄の鎧と炎を纏う引導師――久遠真刃は眉根を寄せた。

 が、すぐに舌打ちする。


『そうか、《屍山喰らい》のことか。貴様の眷属という話だったな』


「眷属というのは不満だな。彼女は吾輩の妻。吾輩の可愛いエリーだ」


 餓者髑髏は言う。


「丁度いま、君の仲間らしき女性と対峙しているところだよ」


『……なに』


 真刃は表情を険しくした。


「おや?」


 そのわずかな動揺を、餓者髑髏は鋭く嗅ぎ取る。


「もしかして、彼女は君の恋人かね?」


 そう尋ねる餓者髑髏に、真刃は数瞬ほど考える。

 そして、


『……妻だ』


 そう告げる。


『あれは(オレ)の妻だ』


 真実を告げるより、こちらの方がいい。

 真刃は直感でそう判断した。 

 すると、餓者髑髏は興味深そうに双眸を細めた。


「そうだったのかね。それは面白いな(ふぁんたすてぃっく)。まさかの夫婦同士の対決という訳か」


 くつくつと笑う。と、その瞬間だった。

 真刃が、ドゴンッと屋根を踏み抜き、跳躍した!

 同時に手甲から直刀が飛び出し、それを餓者髑髏の肩口に振り下ろす――が、

 ――ギィンッッ!

 それは、金属音と共に止められた。

 餓者髑髏の右手から生えた無数の刀でだ。 


「君は、確かに逸脱しているが」


 餓者髑髏は、皮肉気に笑った。


「吾輩に刀剣で挑むのは、流石に、自惚れが過ぎると思うのだがね?」


 右腕の刀剣は爆発したかのようにさらに伸びる。

 全方向へと、腕からだけでなく、飛び出た刀身から、さらに刀身が生えているのだ。それらは容赦なく真刃に襲い掛かる!


『――くッ!』


 真刃は、咄嗟に右腕を前に、両腕を交差させた。

 ――ギャリギャリギャリッ!

 黒鉄の鎧と、無数の刀身がぶつかり合い、火花が散った。手甲の直刀も打ち砕かれる。

 次いで強い衝撃。真刃は大きく弾き飛ばされた。

 空中ですぐに体勢を立て直すが、それでも隣の旅館の屋根まで吹き飛ばされた。 

 ――ズンッ!

 両足で瓦を砕き、着地する。

 真刃は右腕を見やる。刀身の直撃を受けた右腕には、無数の傷が刻まれていた。

 まさか、猿忌の装甲を削るとは――。


『それが、貴様の(こつ)(けん)か?』


「ふむ」


 刀身の塊と成った右腕は下ろして、餓者髑髏があごに手をやった。


「やはり、吾輩の異能(すきる)も知られているのだね」


 言って、口角を崩す。


「まあ、君たちが付けた名にも冠するぐらいだしな」


 一拍おいて、右腕を上げる。


「いかにも。これが吾輩の骨剣だ。吾輩の骨は、余すことなく刀身で出来ており、それは無限とまでは言わなくとも、膨大には成長する。まあ、恒河沙ぐらいにはね」


 その間も右腕の刀身は、刃から刃へと伸び続けている。

 まるで大樹の枝のようだった。

 それは、数秒後には、大蛇をも凌ぐ大きさに成っていた。

 真刃は間合いを取ろうと、足に力を込めるが、


(――くッ)


 一瞬だけ反応が遅い。

 全身にかかる《制約》の重圧が、動きを阻害していた。

 直後、

 ――ギャリンッ!

 鞭のようにしなって襲い掛かる横薙ぎの一撃に、真刃は再び吹き飛ばされた!

 黒鉄の鎧が微細に欠け、真刃は街道に叩きつけられた。

 街道を破壊しながら、何度か全身を跳ねさせる。

 真刃は、両腕も使って勢いを殺した。

 ――が、立ち上がる間もなく、目の前には巨大な刀身の柱が迫って来ていた。


『――チイ!』


 四肢に力を込めて跳躍。どうにか刃の柱を回避した。 

 だが、逃げた先でも無数の刀身が降り注いできた。

 鍔も柄もない短刀の豪雨だ。


『――主よッ!』


 黒鉄の鎧である猿忌が叫ぶ。

 真刃は、歯を食い縛った。

 次々と鎧に直撃する刀身。鎧は削られるが、真刃の体にまでは刃は届かない。

 しかし、それでも一撃一撃が、恐ろしく重かった。


『―――ッ!』


 真刃は魂力を込めて、全身から莫大な炎を噴きだした。

 吹き荒れる炎の圧に短刀が呑み込まれる。瞬時に熔解される刀身。黒鉄の鎧は赤く発光し、炎を纏う姿は灼岩のようだった。

 灼岩の鎧を纏った真刃は、拳を固めて立ち上がる。と、


「本当に凄いな。君は」


 屋根の上から、右腕だけを伸ばした餓者髑髏が言う。


「今のも凌ぐか。吾輩の攻撃をここまで受けて五体満足だった者など人間では初めてだよ。我霊であっても、吾輩の六人の同胞ぐらいしかいなかった」


『……それは褒めているのか?』


 真刃が淡々とした声で返す。


もちろん(おふこーす)


 餓者髑髏は、天を突く髭の毛先に触れる。


実に素晴らしい(べりーえくせれんと)。正直、心が躍っているよ」


 ――ギャリギャリギャリギャリ……。

 不気味な不協和音を響かせて、刀剣の大蛇と成った右腕が大きく動く。


「本当に楽しみだ」


 そして、災厄は告げた。


「君は、果たしてどこまで吾輩に魅せてくれるのかね?」

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