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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第4部 『追憶の彼方』

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第五章 夜明けは遠く➄

『骸鬼王と、幸福の花嫁たち』が総合3000ptを突破しました!

これも皆さまの応援のおかげです!

感謝を込めて、本日、もう一本更新します!

これからも本作をよろしくお願いいたします!


 場所は移って、洋館。

 トクトクと、グラスに洋酒(ワイン)が注がれる。

 それは、数秒ほど続き、


「……これは参ったね」


 道化紳士は、洋酒(ワイン)を片手に嘆息した。

 グラスに口を付けて、赤い液体を半分ほど呑み干す。

 エリーゼの祖国の酒。

 この国では入手しにくい中々の逸品なのだが、今は苦みを感じた。


「まさか、彼まで降板してしまうとは」


 道化紳士の脳裏には、この街での死闘がすべて映し出されていた。

 これまでの三夜で、彼には、特にお気に入りの人間が数人いた。


 例えば、豪胆な戦士である金堂岳士。

 例えば、抜群の指導力を見せる黒田信二。


 そして彼――武宮志信。

 彼の槍さばきには、道化紳士も一目置いていた。

 彼の活躍なくして、今宵まであの数は生き残れなかったことだろう。

 少なくとも、この三人は、第七夜まで生き延びると考えていた。

 だが、


「……これは考えている以上に悪手だったのか?」


 苦笑いを浮かべる。

 まさか、第四夜目にして、武宮志信が死んでしまうとは。

 それも、屍鬼ごときを相手にしてだ。


「時に、数は個を圧倒するのか」


 グラスの中の洋酒(ワイン)を揺らして、再び嘆息する。

 彼自身、弱敵がどれほどいようとも苦戦したことがないので失念していた。

 一体の強者を倒すよりも、百の弱者に襲われる方が脅威ということもあり得たのだ。


嗚呼(おう)すまない(そーりー)


 額に指先を置き、道化紳士はかぶりを振った。


「こんな中盤の舞台(すてーじ)で、君ほどの演者(ていなー)を降板させるつもりなどなかったのだ。完全に私の失態(みす)だ。どうか許してくれ。武宮君」


 彼は、今回の七夜の参加者全員の名と顔を覚えていた。

 エリーゼは帳簿がなければ分からないのだが、道化紳士は、彼らの名前、その伴侶の名までも把握していた。

 武宮志信は、お気に入りだけあって本当に惜しいことをした。


「大いに猛省すべき点だな。今後は、屍鬼は出演させないことにしよう。だが……」


 道化紳士は、グラスを机の上に置き、あごに手をやった。


「気になるのは、武宮君の元に駆けつけた蒼き狼だな。あれは式神か」


 屍鬼どもを一掃した巨狼。

 ――いや、あの狼だけではない。

 道化紳士は、双眸を閉じた。


「……十八、十九、二十か」


 合計で二十体。巨狼を筆頭に、様々な姿をした式神たちが、屍鬼どもを薙ぎ払って、演者(ていなー)たちの元へと駆けつけている。


「流石に、あれらは彼女の式神ではないだろうな」


 エリーゼが迎えにいった女性引導師。

 彼女は炎の刃を携えていた。

 あれが、彼女の系譜術なのだろう。

 式神たちは、別の引導師の手によるものだ。

 しかし、


「……これはどういうことか」


 道化紳士は、あごをゆっくり擦った。


「あの式神たち。どれも生半可な力量(れべる)ではない。あれほどの式神を操るとなると、名家の当主(ますたー)になるのだが……」


 そうなってくると疑問が出てくる。

 あの数である。


「名家の当主であっても、あの力量(れべる)の式神は一体使役するだけで限界のはずだ。それが二十体だと? 当主(ますたー)(くらす)が二十人もこの街にいるというのか?」


 流石に馬鹿げた話だ。

 それなりに名の知れた当主たちが、揃って慰安旅行でもしていたというのか? 


「フハハ。流石にそれはないか」


 道化紳士は、苦笑を浮かべた。


「考えても仕方がないな。ふむ。そうだな。君なら何か知っているのかね?」


 言って、自分の後ろに顔を向けた。


『はン。てめえに教える必要があんのかヨ』


 すると、そんな声が返ってきた。

 意外にも若い女性の声だ。

 それは、部屋の片隅に浮かぶ鬼火から発せられていた。


『てめえを見つけた時点で、オレの仕事は終わりだ。後は親分の出番だ』


「……ほう」


 道化紳士は、興味深く瞳を細めた。


「それは君の主かね?」


『おうヨ』


 鬼火は答える。


『オレらの主。正真正銘、史上最強の引導師だ』


 と、告げた、その瞬間だった。

 ――ズズンッ!

 突如、天井が崩れ落ちる!

 猛烈な風と、土煙が室内を覆った。

 道化紳士は、そんな状況でも動じず、ソファでくつろいでいた。

 そうして、


「……ほう」


 双眸を細めた。

 道化紳士の目の前。

 そこには、一人の戦士が立っていた。

 紅い紋様が輝く黒鉄の躰に、両肩と背面から噴き出して、(たすき)のように宙に揺らぐ炎。

 鋭い牙を固く結ぶ鬼の仮面をつけるその姿は、西洋の甲冑騎士を思わせるモノだった。


「これは驚いた。随分と吾輩好みの勇ましい姿ではないか」


 未だ立つ様子もなく、道化紳士は言う。


『……(オレ)も驚いたぞ』


 一方、鬼面の戦士も返した。


『状況からして、名付きであることは察していたが、よりにもよって、貴様が今回の黒幕だったとはな……』


「おや?」


 道化紳士が、ソファの背もたれに両腕を掛けて問う。


「吾輩は君を知らないのだが、どこかで会ったかね?」


『……遭ったことはない。しかし、遭遇すれば死は免れない他の連中とは違い、貴様の目撃例は多数あるからな』


「ほほう。そうなのかね」


 道化紳士は、肩を竦めた。


「それは知らなかった。確かに、吾輩には見どころがある者をつい見逃してしまう癖があるからな。容姿を伝えられていても仕方がないか」


『……お前は』


 鬼面の戦士――久遠真刃は問う。


『何を企んでおる? この場には何を目的に現れた?』


 しかし、その問いかけに道化紳士は答えない。

 楽し気に天に伸びた髭先を指で弄っている。

 数瞬の沈黙。


「はてさて。ここは、なんと答えるべきかな?」


 そう言って、目尻を下げた。

 真刃は静かに拳を固めた。

 いつでも踏み込めるように重心を下げる。


『答える気がないのならば、それでも良い。このまま、貴様を屠るだけだ』


 そうして、


『七体の、千年我霊の第陸番……』


 一拍おいて、真刃は、その名を呼ぶのだった。



『――《恒河沙剣刃(ゴウガシャケンジン)餓者髑髏(ガシャドクロ)》――』



 この国における、最悪の忌み名であるその一つを。

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― 新着の感想 ―
[一言] いやいや餓者髑髏は創作だろ。 なんでラスボスに入れたんだよ(´・ω・`) 日本三大怨霊とか有名な妖怪とかでよかったじゃん。 はあああんっは萎えるわー
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