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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第3部 『太陽と月の姫』

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第七章 兎と羊は拳を振るう②

 一方、その頃。

 とある寂れた繁華街。

 その一角にある廃ホテルのホールにて、(ビアン)は瞳を輝かせていた。

 まるで、おもちゃをプレゼントされた子供のような眼差し。

 不気味なぐらいに無垢すぎる瞳である。


「……おお」


 思わず、感嘆の声まで上げる。

 (ビアン)の視線は、(エボン)が両脇に抱えた少女の一人に釘付けだった。


「それが今回のゲストなのカ?」


 と、(ワン)が言う。

 彼の後ろには、数人の部下が控えていた。

 (ワン)の視線は(ビアン)とは逆の方向。もう一人の少女に向いていた。


「……ああ。そうだ」


 (エボン)が頷く。


「なかなか手こずらせてくれた」


「……アレを使ったのカ?」


 (ワン)の問いかけに、(エボン)は「ああ」と頷いた。


「長引くと厄介だと思ってな。一気にねじ伏せた」


「……ふ~ん、そっカ」


 (ワン)(エボン)に近づき、右腕に抱えた赤毛の少女の髪の一房を手に取った。

 少女は「う……」と呻いた。(ワン)は双眸を細める。 


「画像では知っていたが、確かにすげえ美少女だナ。十年後が楽しみだ」


 そんなことを呟く(ワン)に、(エボン)は皮肉めいた笑みを見せた。


「ふん。この娘に十年後はないだろう?」


「はは。そうだっタな」


 (ワン)が笑う。と、


「そ、それよりも(エボン)!」


 不意に(ビアン)が叫んだ。

 鼻の穴を膨らませて(エボン)が抱える少女を凝視している。


「ありがとよ! マジでそっちも攫ってきてくれたんだな!」


「……ついでだったからな」


 そう言って、(エボン)(ワン)に目をやった。

 (ワン)が肩を竦めて「ああ。構わねえヨ」と告げた。

 (エボン)は少女――月子を(ビアン)の方に放り投げた。


「おお!」


 (ビアン)は、餌を貰った犬のように両手で月子を受け止めた。


「すげえ! なんつう抱き心地だ!」


 小柄な体とは思えない柔らかな双丘に、指が深く沈み込む太股。

 腕の中の極上な感触に、感動を隠せない。

 不快感を覚えたのか、月子は眉をひそめるが、まだ起きる気配はなかった。 

 (ビアン)はニタリと笑った。 


「おお~、月子ちゃんよォ! 初めましてな! お前のご主人さまだぜ!」


 そう告げる。次いで、気絶している月子のうなじを抑えると、早速、彼女の無垢な唇を奪おうとする。が、


「おい。流石にやめろヨ」


 そこで、(ワン)が眉をしかめた。


「お前の趣味に口出しする気はネエけどヨ、なんで、お前のキスシーンなんぞを見なきゃなんネエんだヨ」


 という最もなツッコみに、周囲の男たちも注目することで同意していた。


「えええ~、何でだよォ」


 折角、今回の戦利品を堪能しようと息まいていたのに、周囲から思いがけないお預けをくらって(ビアン)は無念そうな声を上げた。


(ワン)の言う通りだ」


 (エボン)も言う。一拍おいて、さらにこう続けた。


「それよりも儀式だ。場所を移そう。計画通り今夜中に行い、早朝に出立すべきだ」


「おう。そうだナ」


 リーダーである(ワン)が首肯する。

 次いで、そっと自分の手首に繋いだアタッシュケースに触れた。

「ああ」と(エボン)も頷き、「それでは、(ワン)」と告げて、もう一人の少女――燦を抱えたまま移動しようとする。と、


「ああ。それなら先に行っててくれ」


 不意に(ビアン)はそう告げた。

 (エボン)は足を止めて、ゆっくりと振り返った。


「……それはどういう意味だ? (ビアン)


「ああ~、俺は」


 ニタニタと笑いながら、月子の頬に触れる。


「こいつを堪能してから行くよ」


「……おい。(ビアン)


 明らかに自分の欲を優先させている(ビアン)に、(エボン)は眉をしかめた。

 すると、(ビアン)はふっと笑い、


「儀式の準備は万全だ。そのガキを連れて行けばいいだけだろ? 火緋神も俺らを突き止めるまでには時間がかかるはずだ。俺が居なくても大丈夫なはずだぜ。なら」


 戦利品の臀部に指を食い込ませる。少女は「うっ……」と呻いた。


「帰りにこいつに騒がれんのも嫌だろ? 一晩くれよ。従順な良い子に教育しとくからさ」


「……(ビアン)


 (エボン)は、かなり苛立った表情を見せた。


「仕事は仕事だ。プライベートを混同するな」


 そう告げて一歩踏み出した。(ビアン)も、ややイラっとした顔で(エボン)を見やる。

 幹部同士の険悪な雰囲気に、部下たちはざわついた。

 と、その時。


「う~ん、まあ、いいんじゃネエか?」


 その空気を、(ワン)が一掃した。


「今回、(ビアン)は裏方として頑張ってくれたしナ。候補者の探索に、拠点と帰国ルートの確保。そんで何より儀式の準備。あれはマジで大変だったろ。充分すぎるほどに働いてくれたサ」


 そこで笑う。


「ちょいと早いが、休みに入ってもいいと思うゼ」


「おおっ! (ワン)!」


 (ビアン)が表情を輝かせた。


「流石は俺たちのボ……リーダーだぜ! 話が分かる!」


 そこにシビれる! あこがれるゥ!

 と、(ビアン)が少女を社交ダンスのように振り回して叫んだ。

 一方、(エボン)は渋面を浮かべていた。


「……(ワン)。お前は(ビアン)に甘すぎるぞ」


「う~ん、まあな……」


 すると、(ワン)は遠い目をした。


「お前と(ビアン)は、もうほとんどいねえガキの頃からの連れだしナ」


「……その言い方は卑怯だぞ」


 少し間を空けて、(エボン)は嘆息した。

 それから、浮かれまくる(ビアン)を睨みつけて。


(ワン)に感謝しろよ。(ビアン)


「おお! 分かってるぜ!」


 踊っていた(ビアン)は月子の手を取って、ビタッと動きを止めた。


「愛してるぜ! (ワン)! (エボン)!」


「「お前のラブコールなんぞいらねえよ」」


 と、(エボン)(ワン)は口を揃えて言い返した。


「まあ、俺らは儀式場に行くゼ」


 そう告げて、(ワン)が部屋を出た。部下たちも彼の後に続く。

 最後に残った(エボン)(ビアン)を一瞥し、


「出立は早朝六時だ。流石に遅れるなよ」


「おう。分かってるぜ!」


 (ビアン)は、気絶したままの月子の手を使って、パタパタと挨拶した。

 対する(エボン)は深々と溜息をついた。


「では、明日な」


「おう。明日」


 上機嫌な(ビアン)は笑顔でそう告げた。

 そうして(エボン)も部屋から出て行った。

 残されたのは、(ビアン)と月子だけだった。


「……ヒヒヒ」


 (ビアン)は笑う。

 次いで、月子の腰を左腕で掴み、背後から抱きかかえてあごに右手をやる。

 顔を上げさせても、少女が目を覚ます様子はない。


「おお~、ぐっすりだな。月子ちゃん」


 右手で彼女の豊かな双丘の感触も味わう。少女は「う……」と呻いた。


「ウヒヒ……」


 遂に、念願の獲物を絡め捕えた蛇は、双眸を細めた。

 そして――。


「今夜は、お前の生涯でも一番長い夜になるからな。俺に従順で素直な良い子になるまでいっぱいお勉強しようぜ」


 邪悪な蛇は、静かに嗤った。

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[気になる点]  大門丈一郎が大門紀次郎に転生したようですが……死んでから転生するまで約100年掛かり、且つ真刃が暴走した時点で妻帯者ではなかった描写が有り、紫子が没した翌年に亡くなったとしても約70…
[一言] 昔は神聖な界隈だったのが現代では欲に塗れたとてもえっちな世界 ぐへへおじさん大量発生やろなw
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