ボトップの町へ
次の日、白夜達は護衛を依頼した商人と会った。
「あなた達が護衛の討伐者さんだね。僕は商人のライトって言うんだ。よろしく」
「パーティリーダーの哲也です。よろしくお願いします」
ライトと哲也は、軽く握手を交わした。
「いやあ、最近話題のルーキーに守ってもらえるとは、安心して行けるよ」
哲也パーティは、そのランクアップの早さから、期待のルーキーとして名を挙げていた。
「任せるっす! 絶対安全に送っていってあげるっすよ!」
「これは頼もしい。是非、よろしくお願いします」
ライトの持っていた荷車は馬車ではなく、牛車という牛を使うものだった。
荷車を引く牛は、大人しく滅多に暴れないことで有名な、角牛という種類の牛だ。人間に懐きやすく肉も美味しいという、一石二鳥な牛である。
「ライトさんって何の商人なんです?」
白夜が荷車を見ながら、興味本位で聞いてみた。
「僕は色々と取り扱ってるよ。食料や服、武器まで様々だね」
「へぇ〜、それは凄いなぁ」
一つの商品に絞らず、色々と手が出せるということは、それだけの資金を持っているということだ。何にでも、最初は投資から始まるものである。
「というか、なぜこんな危険な道を通るんです?」
これは哲也の質問だ。
「実は、これから行くボトップの町で、一週間後に闘技大会があるんだよ。そこではいろんなポーションが売れるからね。何としても間に合わせないといけないんだ」
「なるほど。ちなみに、闘技大会って何をやるんです?」
「年に一回、奴隷同士を戦わせて、どちらが勝つかの賭けをするんだよ。ただ、三年に一回だけ、挑戦者を集めて大会を開くんだ」
貴族達が見るための娯楽ではあるが、優勝者は奴隷から解放されるという、奴隷に対しての賞金もある。
「今年はどっちなんすか?」
「今大会は、挑戦者を集めて行う方だね。優勝者は白金貨百枚の賞金が出るんだよ」
白金貨一枚は、金貨十枚と同一の価格だ。ただ、ほとんどが商人の大取引でしか使われないため、一般には出回っていない。
「白金貨百枚というと、金貨千枚分っすか〜。何でも買えるようになるっすね!」
「かなり人も集まるし、君達もついでに見に行ってみるといいよ」
「行ってみたいっす! 哲也さん、白夜さん、いいっすよね!?」
「ああ、まあ一回くらいはいいんじゃないか? なあ、哲也」
「ん? うーん、でも、人同士が戦うんだろ? 道徳的にそれはどうなんだろうなぁ……」
「少し覗いてみるだけっすよ! お願いっす! この通りっす!」
恵理は、顔の前で手を合わせながら頭を下げた。
「…… 少しだけだぞ?」
哲也は、そんな恵理の頼み込みに負けた。
「やったっす! ありがとうっす!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜ぶ恵理。そのジャンプと同時に、なにやら大きな胸も飛び跳ねていた。
「「……」」
純粋な男子二人は、それを見なかったことしようとしたが、脳内にしっかりと焼き付いてしまった。
恵理は身長の割に大きいのだ。メロンなのだ。
「ブルルッ」
そんな二人を叱るかのように、角牛が唸り声を上げた。
「おおっと、早くしろって言われちゃったな。それじゃあ討伐者さん、護衛よろしくね!」
それを急げという合図と勘違いしたライトは、慌てて操縦席に乗った。
それを見た三人も、荷車の隙間に乗り込んだ。
ボトップの町は、商業都市二ブルから南東に三日ほどの所にある。つまり、二度は野営をしなければならない。
牛車は、二ブルの南門から出ると、そのまま道沿いに進んでいった。
しばらく進んでから二ブルの方を見てみると、白夜達日本人が転移して来た時にはなかった建物が建てられていた。
それは、こちらに来た日本人が建てた物で、ギルド並のサイズがある建物である。
地球人結集会「ジ・アース」。それがあの建物を建てた団体の名前だ。名前の通り、転移して来た地球人を集めて結成された団体である。
元々は小さな組織だった。ただ、同じ地球人で固まっていれば安心できるだろうという団体だった。だが、それも結成半年辺りから大きく変わった。
団員が千人を超えたあたりで、倫理的にどうしても狩りのできない日本人を支えるため、町の発展を仕事にし始めたのだ。
日本の建築技術や商売法など、様々な情報を利用して、町の発展をサポートし続けている。
そのおかげで、二ブルの町は大きく発展した。トイレやシャワーなどの、生活に便利な物から、いつの間にか、日本刀などの技術まで広がり始めた。
そして、この二ブルの急激な発展により、ジ・アースの知名度は大きく上昇。世界中に転移していた日本人が、ジ・アースを目指して、二ブルに集結し始めた。
現在の団員数は一万と少し。二ブルだけで見るのなら、ギルドにも並ぶ大組織に変わってしまった。
ちなみに、地球人と括られているのは、もしかしたら外国人がいるかもしれないという考えがあったからだ。しかし、この世界に転移して来た地球人は、未だに日本人しか見つかっていない。
生活が良くなるのはいいことだが、それを急激に進めてもいいものかと思いと、二ブルが裏では、随分と闇商売に手を染めていることを知っているため、現在白夜達は加盟していない。




