二ブルに到着
白夜は二ブルへと続く道を歩きながら、拓海と明日香との会話に付き合っていた。
「そういえば、白夜さんって日本人ですよね?」
「そうだ」
「ああ、やっぱり! 私達も日本人なんですよ!」
「ああ、名前でなんとなく分かった」
この世界での一般的な名前は、日本人っぽい名前がほとんどないので、日本人の名前というのは、聞くとなんとなく分かるようになっている。
「こっちに来る前も、僕と明日香は友達だったので、僕と明日香は長い付き合いなんですよ。それなのに、僕の扱いが酷いと思いません?」
拓海がぼやく。
「それはあんたの自業自得でしょうが」
「まあ、仲が良い証拠だと思うぞ」
白夜と哲也と恵理も、恵理の扱いを見れば分かる通り、結構雑な感じになっていた。
これは、長い間一緒にいないとできない、仲の良い証である。
「白夜さんって、ランクどれくらいなんですか? 私達は昨日話した通りランクⅢなんですけど」
「俺はランクⅨだ」
「「高っ!?」」
「ラ、ランクⅨって、日本人で他にいるんですか?」
「さあな。俺がなれるんだったら、他にもいるとは思うが」
実際、白夜は日本人初のランクⅨだった。
だが、それは別に、白夜が最強という訳ではない。
二ブルには、ジ・アースという組織がある。この組織には、日本人が一万人も加入している訳で、団体の目的はモンスターの討伐ではない。
つまり、白夜ほどモンスター討伐を定期的に行なっている日本人がいなかったため、実質的に、白夜が一番早くランクを上げていたのだ。
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その後、白夜達は特に危険な目に合うこともなく、二ブルへと到着した。
「白夜さーん! お元気でー!」
「コラ、拓海! そんな大声で叫ばないで! バカみたいでしょ!?」
「な!? またバカって言った!? そういう方がバカなんだぞ!」
白夜は、最後まで元気だった二人に向かって、軽く手を振った。
「二人共元気でな」
「あ、はい! 白夜さんもお元気で!」
「…… 明日香だって大きな声で言ってるじゃないか……」
白夜は二人に別れを告げると、ギルドの方へと向かって歩きだした。
「白夜さん、かっこよかったなぁ……」
白夜と別れた明日香は、自分の頬を両手で支えて、惚けるように呟いた。
「明日香、まさか惚れたの?」
拓海はそれを見て、呆れたような目をした。
「え!? あ、そうかも……」
「明日香には絶対合わないと思うよ、白夜さんは」
拓海のその一言により、明日香は不機嫌になる。
「なんでよ?」
「だってあの人、一人でランクⅨになっている人だよ? 絶対にいつも危ない目に合ってるんだって。そんなの、明日香は耐えられる?」
それを聞いて、明日香は想像を膨らませた。
「ああ…… ちょっと微妙かも……」
「ほらやっぱり」
「ぐぬぬ……なら強くなって、白夜さんも守れるようになればいいのよ! そうと決まれば拓海! 今日から頑張るわよ!」
「え、ええ!? 白夜さんを越すとか、絶対無理だって!?」
「無理とか言わない! ほら、早く!」
「うわっ、ちょ!? そんなに引っ張るなよ〜!!」
こうして二人はまずは武器を揃えるため、武器屋へと向かったのだった。
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「依頼達成お疲れ様です、びゃ、白夜さん。そ、それで、その剣が作ってもらった物ですか?」
リナは、白夜と目を合わせられず、噛み噛みになりながら迎えた。
「ああ、いい鍛冶屋がいたからな」
白夜はそれを不思議に思ったが、特に反応することはなかった。
「へ、へぇ〜、よく作ってもらえましたね。ドワーフは人間嫌いで有名なのに」
「クエスト報酬の代わりってことで作らせた」
「ああ、なるほど。だから昨日、ドワーフが報酬金を回収しに来るっていう連絡が来てたんですね」
「そういうことだ」
この時、リナは赤面していた。なぜかというと、先日に友達の受付嬢と話した、白夜対策が問題である。
リナが自分の顔をパタパタと仰いでいると、流石に不審に思った白夜が疑問を口にした。
「熱でもあるのか?」
「い、いえ! 私は元気ですよ! あはは! た、ただ、ちょっと暑いな〜、なんて……」
リナは、ギルドの制服の一番上のボタンを外した。
(こうすれば男の人は…… って、私のバカ! 一体何やってるの!? これじゃあまるで誘ってるみたいじゃない!?)
リナの葛藤も虚しく、白夜は首を傾げた。
「?…… まあ、今日は晴れてるからな。風邪には気をつけろよ」
「あ、ハイ。アリガトウゴザイマス」
(ビャクヤさんが天然でよかったぁ〜…… って、それってよかったことなのかな? もしかして私、魅力ないんじゃ……)
リナは一人で落ち込み始めた。
赤面したり落ち込んだり、感情変化が激しく分かりやすかったが、白夜は特に気にすることはなく、次の依頼を探すため、掲示板のある場所に移動した。
「あれ? もしかして、白夜さんですか?」
討伐クエストがなく、何をするか悩んでいると、突然後ろから、丁寧な口調で声をかけられた。
白夜が、声の主を確認するために後ろを振り向くと、そこには長い黒髪を一つ結びにした少女が立っていた。
「……」
白夜は、少女と目を合わせると、黙り込んでしまった。
少女はそれを気にせず、目の前にいる少年が白夜だと確信して、笑顔になった。
「やっぱり! 私のこと覚えてますか?」
「………… 誰だ?」
だが白夜は、少女が誰だか全く分かっていなかった。
そんな白夜の様子を見て、自分が忘れられているショックを若干隠せずに、少女は自己紹介をした。
「あはは…… ええと、櫻井美鈴です。ほら、ボスラプトルの時の……」
そう言われて、白夜は手を顎に当てて考え込む。
「…… ああ」
「思い出していただけましたか?」
「加入クエストの時の」
「そうです! 忘れられてるかもって、少しヒヤヒヤしましたよ」
少女は、呆れたような笑みを浮かべた。
「すまん。見かけもしなかったからな」
「確かに、二人とも二ブルで働いているのに、全然会いませんでしたね。せっかくなので、お茶とかどうです?」
「別に構わんぞ」
「よかった。それならオススメのお店があるんです。行きましょう?」
白夜は美鈴に連れられ、ギルドを後にした。




