人助け
白夜は、真上にある太陽の光を浴びて、のんびりと二ブルに向かって歩いていた。
いつまでも同じように続く道を、さえずる小鳥や、樹液を吸う虫の観察などで気分を変えながら、歩いていく。
すると、突然道の先の方から人の悲鳴が聞こえた。
白夜は、助けられるなら助けようと思って走り出し、エレフタイガーに襲われている、一組の男女を発見した。
エレフタイガーは、体格が巨大な鼻の長い虎で、像と虎を足して二で割ったような見た目をしている。
男女は、そんなエレフタイガーの前脚に押し潰されそうになっており、恐怖で尻餅をついていた。
白夜は急いで二人の元まで走っていき、通り過ぎざまにウスバカゲロウで一線した。
すると、エレフタイガーは背と腹が綺麗に別れ、ズルっと背が地面に落ちた。
エレフタイガーの死を確認して、白夜は二人に声をかける。
「大丈夫か?」
突然の出来事に戸惑った男女は、まさかの救世主の登場に、金魚のように口をパクパクさせることしかできず、その場で同時に気絶した。
白夜は二人を木陰に運び、起きるまでしばらく待つことにした。さすがに気絶したまま落ちておくのは、危険だからだ。
その間の暇つぶしに、通りかかった、種拾いをしている小鳥を観察していた。
三十分ほどして、二人は目を覚ました。
「ん、んむ〜? ここは……?」
「んん…… 天、国?」
二人の声に反応して、白夜の近くにいた小鳥が逃げると、白夜は二人の問いに答えを返した。
「安心しろ。まだ生きてるぞ」
「ふぁ!? あ、あなたは!? ああ、え、ええと! 先程はありがとうごごごじゃいました!?」
白夜の顔を見て、自分が死にかけていたのを思い出したのか、気弱そうな男が、噛み噛みになりながら感謝を疑問形で口にした。
「拓海のバカ! なんで疑問形なのよ! あ、私達の事を助けてくださり、ありがとうございました!!」
それに続いて、拓海と呼ばれた少年を殴りつつ、白夜に感謝を伝えたのは、気の強そうな女だった。
「イテッ!? 明日香!? なんで殴ったんだよ!?」
「あんたがバカ丸出しの噛み方をしたからでしょうが!?」
「バカ丸出しってなんだよ!? 僕だって頑張ってるんだぞ!?」
「頑張ってるなら、もうちょっといい結果を出してみなさいよ! いっつも危険ばっかり呼び寄せて! おかげで今度は死ぬところだったじゃない!?」
「あれは僕のせいじゃないだろ!? だいたい、明日香が危険度Ⅲのモンスターを狩りに行こうって言ったのが悪いんじゃないか!?」
「なによ! 私のせいだって言うの!?」
「違うの!?」
「「ぐぬぬ……!!!」」
「ああ、なんだ、二人共落ち着け」
痴話喧嘩にしか聞こえないような、レベルの低い言い争いを目の前で展開され、白夜は若干戸惑っていた。
「あ! す、すみません! お恥ずかしいところをお見せしました!」
気の強そうな女は白夜に向き直ると、少し頬を赤く染め、頭を下げた。
「気にするな。それで、タクミとアスカだったな? お前達はどこから来て、どこに行こうとしてたんだ?」
白夜は喧嘩で出てきた名前を復唱して、二人に質問した。
「えっと、僕たちは二ブルのギルドに所属している、この前ランクⅢになったばっかりの討伐者です」
「ここに来た理由は、危険度Ⅲのモンスターの討伐依頼を受けたんです。それで、エレフタイガーを見つけたんですけど……」
「腰が引けて死にかけた、と……」
「「はい……」」
討伐者初心者にはよくある事だ。自分の実力を見誤り、モンスターによって殺される。
白夜もパーティを組んでいた時は、何度かそれで死にかけたりもした。
白夜は、昔の事を思い出したように空を眺めつつ、口を開いた。
「まあ、討伐者にはよくある事だ。仕方ないから二ブルまで送って行こう。ちょうど俺も二ブル行きだしな」
「い、いいんですか!?」
「や、やった! 無事に帰れるぞ!」
ハイタッチして喜ぶ、明日香と拓海。
「俺は白夜だ。よろしく」
「僕は拓海です! よろしくお願いします!」
「私は明日香って言います! 白夜さん! よろしくお願いします!」
せっかく助けたのに簡単に死なれては嫌なので、白夜は二人を、二ブルまで送っていくことにした。
「今日はここで休もう。もう昼過ぎだしな」
「そうですね。私も疲れましたし、休みたいです」
「あれ? 明日香、僕達って携帯食料持ってたっけ?」
明日香は数秒の間停止した後、自分の身体中を触り、再び硬直した。
「…… ない……」
「…… ど、どうするんだよー!?」
「知らないわよ!? ええ、でも、ああ、もう! どうすればいいのよ!?」
「はぁ…… ここで薪を集めて待ってろ……」
白夜は二人のテンションについていけなくなり、薪を二人に任せ、一人で森の中へと入っていった。
「あ…… あーあ、白夜さんが呆れて行っちゃった」
「でも、忘れたものは仕方ないし、大人しく言われた通り、薪を集めてよう」
「それもそうね。私達に出来ることなんて、今はそれくらいしかないわけだしね」
二人は、そこらに落ちている木の棒を集め始めた。
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しばらくして白夜が戻ってくると、二人は目を見開いてしまった。
「えと…… 白夜さん、これは?」
「シカだ」
白夜は、一匹のシカを肩に担いで帰ってきたのだ。
「一体どこから?」
拓海からの質問に、白夜は森の方を指差すことで答えた。
拓海と明日香は目をパチクリさせて、シカをじっくりと見た後、夕食が出来たという喜びで飛び跳ねた。




