ウスバカゲロウ
ガルトは振りかぶり、白夜に向かって思いっきり剣を投げた。
白夜はそれを横目で見ると、持っていたグラディウスを一体のスケイルウルフに投げて牽制し、もう一体のスケイルウルフの頭をジャンプ台にして、上に飛ぶ。そして、クルクルと回りながら飛んでくる剣を空中で掴み、鞘から引き抜いた。
その時、白夜が思ったことは一つ。
(軽いな……)
「空切剣ウスバカゲロウです! 斬れ味は保証するので、そいつらをやっつけてください!」
〈空切剣ウスバカゲロウ〉
ガルトが丹精を込め、アフェモラマンティスの羽を折り、叩き、引き伸ばしてはまた折りを繰り返して作った剣。
その斬れ味はまさに……
白夜は、スケイルウルフから少し離れた所に着地した。
しかし、着地には必ず隙が出来てしまう。そして、それを逃すスケイルウルフではない。
スケイルウルフは、二匹で白夜に突撃し、一気に勝負を決めにかかった。
白夜はそれを認識すると、達人のような軽い足取りで剣を二線。たったそれだけで、二匹のスケイルウルフは体を真っ二つに斬り裂かれ、絶命した。
鱗など、まるでハナからなかったかのような斬れ味。その感覚はまさに、空気を切り裂いた感覚であった。
「ビャクヤさん! やりましたね!」
「はぁ、はぁ…… ああ、ガルトの剣のおかげだ」
白夜は息を切らしながら、地面に座り込んだ。
「自信作ですから! 今までで作った剣の中で、一番上手く出来ました!」
ガルトは、スケイルウルフの鱗を切り裂いのが余程嬉しかったのか、両拳を正面で握っていた。
「そうか。どうりでよく斬れるわけだ」
白夜は自らの手に収まっている、真っ黒な剣を見つめた。
刃から柄の部分まで、光を吸収するかのような漆黒の色をしている。その両刃の刀身は真っ直ぐ伸びていて、切っ先は美しく尖っていた。
「いい剣だな」
「気に入ってくれたのならよかったです! それじゃあ、村に戻りましょうか」
「ああ」
白夜は回復のポーションを一気に飲み込むと、立ち上がった。
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白夜達は、スケイルウルフの討伐証明部位である腹部の鱗を剥ぎ取り、ムッチャ村へと無事帰還した。
「ガルト! 大丈夫じゃったか!?」
「ええ、もちろんです! ビャクヤさんが僕の剣を使って、一瞬で片付けてしまいましたから!」
「そ、そうか。それならよかった」
自分の剣が上手く使われるところを見たのが余程嬉しかったのか、周りのドワーフを若干引かせるほどのテンションで、ガルトは村長に言葉を返した。
「ビャクヤ殿、今回の件、感謝してもしきれんわい。おぬしがいなかったら、この村はどうなっていたことか……」
村長は、白夜がスケイルウルフを倒す前の自分の行動を恥じるように、頭を下げた。
「いや、俺も目的が達成できた。感謝する」
「うむ、お礼と言ってはなんじゃが、この村にはいつでも来てくれて構わんぞ。まあ、周りのやつらがどう思うかはわからんが、少なくとも儂は歓迎しよう」
「もう一度この村が滅びかけるか、俺が貸しを返してもらう気にならない限り、もう二度と来ることはないだろうな」
「ふぉっふぉっふぉ! それもまた一興かの!」
白夜にとっては、ここに来ても面倒があるだけなため、一興でもなんでもないのだが、反応するのも面倒なのでスルーすることにした。
「さて、ビャクヤ殿、おぬしはいつ帰る予定なんじゃ?」
「明日にはこの村を出る予定だ」
「明日か…… なら、少しここで宴に付き合ってはくれんかの? せっかく儂らの英雄なんじゃ。ここは一つ、のう?」
村長は、手を丸くして空気を握ると、乾杯のポーズを取った。
「まあ、別に構わんが」
「よし! なら決まりじゃ! 皆! 宴の準備じゃ!!」
「「「「「おぉ!!!」」」」」
宴は白夜に、ドワーフは面倒だが宴自体は悪くないな、と思わせるほど賑わった。
酒の飲み比べをする者。腕相撲で力自慢をする者。美味しい料理を運んで来て、白夜に対して感謝する者。
様々なことをする者がいて、白夜も、見ていて悪い気分にはならなった。むしろ、英雄だと感謝される分には気分が良かった。
それでも、白夜の笑顔を見た者はドワーフにはいなかったが、白夜も内心では、外面の割に楽しんでいた。
宴の最後にはキャンプファイヤーを囲んで、ドワーフ流の踊りを披露された。
男も女も、子供も大人も、皆楽しそうに踊り踊っていた。
その踊りはまるで盆踊りのようで、白夜に少しだけ日本を思い出させた。
(夏休みみたいだな)
危険度Ⅸのモンスターと戦っておいて、何を間の抜けたことを言っているんだと思うが、それが白夜の本心であった。
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次の日の早朝。白夜は身支度を整えて、ムッチャ村の門まで来ていた。
「それじゃ、世話になった」
「それはこっちのセリフじゃ。二度助かったわい」
「それも仕事だ。気にするな」
「ビャクヤさん! その剣が壊れそうになったら、いつでも来てくださいね! 速攻で直しますから!」
「まあ、気をつけて使うよ」
白夜はドワーフ達に別れを告げ、腰にウスバカゲロウを下げ、一週間前に来た道を戻り始めたのだった。




