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生と罪  作者: 無射/ぶえき
18/33

依頼達成

 ブラットスパイダーは、獲物を追いかけて捕まえる特性から、主に隠れる場所の多い森にいることが多い。

 今回もその例にもれず、ムッチャ村周辺の森にブラットスパイダーが住み着いていた。

 白夜は、ブラットスパイダーから抜け落ちた毛を頼りに、居場所を探していた。


「落ちている毛の量が多い。この近くだな」


 地面に落ちていた毛を掴んで確認し終え、立ち上がり動こうとしたその時、白夜は後ろから殺気を感じた。


「ギュエェ!!」


 白夜が咄嗟に横に大きく飛びのくと、もともと白夜のいた場所を、凄まじいスピードで何かが通過した。


「まさか後ろとは。流石は森のハンターだな」


 白夜は腰からグラディウスを引き抜き、こちらに振り向いたブラットスパイダーと対峙した。

 ブラットスパイダーは白夜を威嚇するように、「ギュエェ……」と前の二本足を上げた。

 側から見れば、大きさ的な問題で、白夜がブラットスパイダーに襲われているように見える。だが、お互いに殺気を漂わせているこの二人の感覚は、見た目とはまったく逆だった。


(ブラットスパイダーが怯えている……?)


 ブラットスパイダーは死角からの攻撃を主とするハンター。しかし、このブラットスパイダーは白夜の前に出て、威嚇行動を取ったのだ。まるで、自分の方が強いのだということを強調するように。

 それは、恐怖を感じているブラットスパイダーでなければ起こさない行動だった。かと言って、それが白夜によって起こされている現象なのかというと、そうとも言えない。

 確かに白夜は、この三ヶ月で力を身につけ、殺気も一層強くなっている。だが、それでも人間の出す殺気だ。肉食のモンスターに、大きな影響を与えるはずがない。

 それなのにも関わらず、ブラットスパイダーは恐怖に怯えている。


(この森には、こいつよりも強いモンスターがいるのか……?)


 白夜の頭に、一瞬だけその考えがよぎったが、すぐに切り替え、目の前の獲物に集中した。

 たとえ、ブラットスパイダーより強いモンスターがいたとしても、白夜がブラットスパイダーを倒さなければいけないことに変わりはないのだ。

 両者はしばらく睨み合っていたが、我慢できなくなったのはブラットスパイダーの方だった。

 威嚇をやめ、姿勢を低くし、ブラットスパイダーは白夜に向かって突っ込んだ。

 白夜はそれをひらりと一回転して躱し、ブラットスパイダーの左側の脚を斬りつけた。

 その一撃だけで、ブラットスパイダーの脚は綺麗に真っ二つにされ、地面を引きずるようにして体勢を崩した。

 そうなってしまえば、もう白夜のターンである。

 白夜はブラットスパイダーの上に飛び乗り、頭の部分を真上から串刺しにした。


「ギュ、エェェ……」


 ブラットスパイダーは、次第に力が抜けたように地面に伏せ、白夜の勝利が確定した。

 白夜は討伐証明部位である、ブラットスパイダーの牙と爪を剥ぎ取り、ポーチに入れると、その場を後にした。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


「「「「「お、おぉ……」」」」」


 これは、白夜の戦利品を見たドワーフ達の反応である。

 白夜は、ブラットスパイダー戦をほんの数時間で終わらせて帰って来た。これにはドワーフもびっくりだったのだ。

 なにせ、ブラットスパイダーのせいで村が滅ぶ可能性さえあったのだ。それを、一日もかけずにあっさりと解決させてしまうとは、誰も予想だにしていなかったのである。


「依頼は達成した。達成書とアフェモラマンティスの羽を使った剣、作ってもらうぞ」

「むぅ…… 約束は約束じゃ、しっかり守ろう。ほれ、ガルト、さっさと作ってやれ」

「わ、わかりました……」


 村長に言われて前に出てきたのは、気弱そうなドワーフの青年であった。


「それじゃあ、えっと、付いてきてください」

「わかった」


 白夜がガルトに連れられて来た場所は、ガルトの家の隣に付いている工房だった。


「へぇ、なかなか立派な所だな」

「あ、ありがとうございます。父が遺してくれた形見のようなものです」


 ガルトは工房を見上げ、少し遠い目をしてしまった。

 だが、白夜はそんなことは気にせずに、すぐに次の質問を飛ばした。


「それにしても、本当にお前がこの村一の職人なんだろうな?」

「そ、それはもちろんですよ! この村で一番上手く武器を作れるのは、この僕です!」

「それならいいが……」


 日本人の白夜からすると、職人というのは、何年も掛けて培う技術がある者のことを指す。それに対して、このガルトという青年は若すぎるのだ。

 もしかするとドワーフの嫌がらせかも……? と思う程度には、白夜はドワーフ達を信用していなかった。


「それじゃあ、素材を見せてください」

「これだ」


 白夜はポーチから、小さく折りたたまれたアフェモラマンティスの羽を差し出した。


「ちょうど一枚分ですか。ギリギリ片手剣にしか出来ませんね」


 ガルトは羽を受け取り、じっくりと吟味するように見ると、すぐに作れる剣の種類を言葉にした。

 白夜は、ガルトが職人である事を今の行動で理解し、ガルトの鍛治の腕は疑わないことに決めた。


「片手剣で構わない。俺はそれしか使えないからな」

「わかりました。作成期間はだいたい一週間くらいです。それまでは、僕の家に泊まっていってください」

「いいのか?」

「ええ、僕は一人暮らしですから。あなたを嫌がる人はいませんよ」


 いい笑顔でそう言われては、白夜も断ることは出来ない。


「それじゃあ、よろしく頼む」


 白夜が軽く頭を下げると、ガルトはクスクスと笑いだした。


「なんだ?」

「いえ、なんというか、全然笑わないんですね?」

「そこは、あまり気にするな。それより、お前もドワーフのくせに、人間が嫌いじゃないのか?」

「え? ああ、まあ、僕はどうでもいいって思ってます。人間とかドワーフとか、別に関係なく、平等に接していきますよ」

「お前みたいなのがドワーフにもう少しいれば、俺も多少は楽なんだがな」


 疲れたような声で、白夜はぼやいた。


「まあ、それはどうしようもないですね〜」


 ガルトはそれを見て苦笑すると、白夜を家の中に案内した。

 モンスターを倒し終えて、今日はもう寝るだけになった白夜は、ドワーフの面倒さについて考え始めたのだった。

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