人嫌いのドワーフたち
白夜は三日かけて歩き、ムッチャ村の到着。入り口の門まで来ていた。
「誰だ貴様!」
「討伐者だ」
「何のために来た!」
「討伐依頼を達成しに来た」
白夜は現在、ドワーフの門番トリオに絡まれている。
ドワーフは人族が嫌いなのだ。そのため、身元の分からない人間を村の中に入れることは、決してない。
「証拠はあるのか!」
「ほら、これだ」
白夜は、ポーチの中から受注書を取り出し、門番に見せた。
門番はそれをチラッと確認すると、後ろにいた仲間に合図をして、「入れ」と言って、白夜を村の中に入れた。
「今からお前を村長の元へ連れて行く。変な真似はするなよ?」
「はいはい」
ドワーフは茶色い皮膚に、小さい身長、肉付きのいい体をしている。
白夜は何もするなと言われたので、適当にドワーフの観察をしながら歩いていた。
道行くドワーフに白い目で見られたり、家の中から覗いていた子供に、「あんなもの見てはいけません!」と言うように、その子の母親がカーテンを閉めたりと、嫌われ方が尋常じゃないのだということを理解した。
「一体過去に何したらこうなるんだよ……」
「お前に答える気はない」
挙句には、呟いた独り言にさえ毒を吐かれる始末であり、白夜は軽く肩をすくめた。
木材で作られた、そこそこ良い家を何軒も通り抜け、村の中心部に来ると、一際大きな家があった。
「ここが村長の家だ。早く中に入れ」
案内されたドワーフにそう言われたので、大人しく白夜は中に入った。
家は中もほとんど木で造られていて、どこか日本の建築と似ているものがあった。それも普通の家ではなく、神社などの建物に近い。
「ほぅ、おぬしが依頼を引き受けた小僧か。人間どもに頼むのも怒りが湧いてくるというのに、よりにもよってこんな弱そうなのが来るとは、ギルドも末期よの」
白夜を迎えたのは、ドワーフの中でも一際小柄な、皮肉ばかりを言ってそうな爺だった。
「……」
「どうした? 黙り込みおって? 反論する口もないか?」
白夜は、面倒なジジィだと一瞬思ったが、すぐに気にしないようにした。なぜなら白夜は、目的を達成するためにここに来たからだ。
「モンスターはどこだ?」
「ふむ、そんなにモンスターと戦いたいかの?」
ドワーフの村長は、皮肉を無視されてもまったく気にした様子もなく、膝まで伸びている顎髭に手を当てた。
「俺はそのためにここに来た。いや、もう一つあったな」
「そのもう一つとはなんじゃ?」
「職人のあんたらに武器を作って欲しい。アフェモラマンティスの羽でな」
「ふ、ふふふ、ふぉっふぉっふぉ! それは、我らドワーフが人間嫌いなのを知ってのセリフかの!?」
白夜が二つ目の目的を口にすると、ドワーフの村長は腹を抱えて笑い始めた。
「そんなことはどうでもいい。モンスターを狩る代わりにやってもらうだけだ」
「それには報酬金を払うはずじゃが?」
「武器を作ってくれるのであれば、報酬金は必要ない」
ドワーフの村長は、しばらく白夜の目を見つけていたが、やがて諦めたような一息ついた。
「はぁ…… おまえら、ここで一番の職人を呼んでくるのじゃ」
「「「「村長!?」」」」
村長の周りにいた取り巻き四人は、まさか自分たちの村長が人間の言う事を聞くとは思っておらず、目を見開いた。
「こやつは絶対に折れんぞ。儂らが武器を作らなかったら、そのまま帰る気でいる」
「し、しかし……!」
「どうしようもないんじゃ。儂らがいくら強がっていても、この村が危険なのに変わりはないのじゃからな。まずは、村のことを考えるんじゃ。それに比べて武器の一つを作れなど、安いもんじゃい」
白夜は、自分の考えを今の会話だけで理解した村長に、心の中で賞賛を送った。
「話が分かるようで助かる」
「ただし! これはモンスターを狩った後の話じゃ。やっぱり無理でしたなど通らんぞ」
「安心しろ。俺はランクⅨだ。並みのモンスターには負けん」
「ふ、やってみるがいいわ」
「言われなくてもそのつもりだ」
村長の不敵な笑みを、白夜は軽く流した。
その後、白夜は村長からブラットスパイダーのいる場所を聞き、日が暮れる前にその場所へ向かった。




