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生と罪  作者: 無射/ぶえき
13/33

哲也

 白夜達はギルドから報酬を貰い、宿を取って休んだ。

 一週間ほどは町を巡ったり、討伐依頼を受けたりしてすごしていた。


「ようやく明日は大会っすね!」

「別に観なくても良くないか?」

「何言ってるんすか、哲也さん! 男の闘いを観戦せず、どうして二ブルに帰れるんすか!?」

「哲也、何言っても無駄だ。恵理は止まらない」

「はぁ…… 諦めるか……」


 哲也はがっくりと肩を落とし、深くため息をついた。


「そんなに嫌なのか?」

「いや、別に嫌って訳じゃないんだが、気は進まないな」

「気分が悪くなるとか、そんな理由っすよね!」

「まあ、そんな感じだ」


 哲也は若干目を逸らしつつ、そう言った。


「それって、大丈夫なのか?」

「まあ、少しだけだから大丈夫だ」

「休んでもいいんだぞ?」

「いや、一人で待ってるのも寂しいし、ついて行くよ。それに…… もう、治ってるはずだから……」


 最後の言葉は、白夜と恵理の耳には届かなかった。


「ん? 最後なんて言った?」

「いや、なんでもない。とにかく、三人で行こう」

「まあ、哲也が大丈夫って言うなら、大丈夫なんだろうが。気分悪くなったら、すぐに言えよ?」

「わかってる。ありがとう、白夜」


 哲也はそのまま部屋を出ていってしまった。


「哲也さん、なんかトラウマでもあるんすかね?」

「それなら打ち明けるだろ。一年間一緒にいるんだぞ?」

「ほうほう、一年経っても話す気にならない人がよく言えるっすね?」

「うっ…… それとこれとは別だ」

「そうっすか。まあ、話さないなら話さないでいいっすけどね。それじゃ、私も出かけて来るっす!」

「おう、いってら〜」


 哲也に続いて、恵理も部屋を出ていった。


「話せるわけないよなぁ……」


 白夜は、結局この一年の間に、親や美加子の話を伝えることは出来なかった。

 理由も一年前と変わらず、怖いからだ。しかも、一年間仲間として一緒にいて、今まで以上に、嫌われることに対して恐怖を覚えていた。

 だから打ち明けられない。一緒にいて仲良くなってきた分、余計に嫌われるのが嫌になってしまった。

 そして、それは哲也も同じなのだろう。

 例え、哲也の過去で闘いに関する何かトラウマを持っていたとしても、それを打ち明けることは相当な覚悟がいる。そのことを、白夜は身に染みて分かっていた。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 哲也は宿を出て、昼の商店街を歩いていた。

 二ブルほどの規模ではないが、明日の闘技大会のおかげで、ここの商店街も凄まじい賑わいを見せている。

 哲也はそんな商店街を、特に理由もなく歩き回っていた。様々な商品を見て、特に感想を抱くこともなく淡々と進んでいた。

 すると、ある店で騒ぎが起こったのを目にした。哲也は駆け足になり、騒ぎのあった方に向かった。

 そこには、泣きじゃくっている小さな女の子と、それを抱えたおっさんがいた。


「どうしたんですか?」


 哲也は、怒った顔をしたおっさんに話しかけた。


「あ? なんだ兄ちゃん、こいつの連れか?」


 おっさんは、明らかに不機嫌そうに、哲也に反応した。


「いえ、違いますけど……」

「ちぇっ、まあいい。こいつ、俺の店の肉を勝手に取ろうとしやがったんだよ。だから、今から憲兵の所に連れて行くのさ」


 それを聞いた瞬間、抱えられていた女の子が騒ぎ始めた。


「うぁぁぁんっ! ごめんなさい!ごめんなさい! もうしませんからぁ!」

「うっせぇ! そんなの信用なるかよ!」


 少女の服はボロボロの布で出来ていて、とても裕福そうには見えなかった。そのため、食べ物欲しさに万引きをしたのだろう。

 哲也は少女を可哀想だと思った。日本人の感覚としては、それは一般的なものなのだろう。

 だが、この世界の人々は違った。金がないのは自己責任だし、ましてや自分の店の物を勝手に取るなど言語道断。さっさと面倒なこいつを憲兵に取っ捕まえさせる。というのが、一般的な考えだった。

 もちろんこの世界の人間にも、この女の子をかわいそうだと思う人間がいないわけではない。だが、それが少数派だというのは、紛れも無い事実だった。


「おやっさん。そのお肉、いくらだったんです?」


 哲也は少し考えると、通り過ぎて行こうとしたおっさんに、もう一度声を掛けた。


「あ? まあ、銀貨一枚くらいだな」

「なら、これでその子を離してくれませんか?」


 哲也が肉屋の手に握らせたのは、金貨だった。一枚だけだったが、それでも盗もうとした肉の十倍の価値である。


「な!? あんたこれ! いいのかよ!?」

「はい、差し上げます。ですから、その子を離してやってください」


 肉屋は少し考えたが、仕方なさそうに少女を離した。すると少女は、何度か転びながら、路地裏に駆け込むようにして逃げていった。


「今回だけだからな!」


 肉屋は哲也を指差して、そんな捨てゼリフを吐くと、自分の店へ戻っていった。

 哲也はそれを軽く流して、再度歩き始めた。

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