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生と罪  作者: 無射/ぶえき
12/33

撃退

 ライトは牛車を全力で走らせ、渓谷の崖のすぐ脇を駆けていた。


「白夜くん! ここら辺でいいかい!?」

「そのまま崖のギリギリを走ってください」

「わかった! 後は頼んだよ!」


 白夜は、牛車の屋根の上に登った。

 アフェモラマンティスは上空からこちらを見ており、いつでも襲えるように姿勢を整えていた。


「哲也! 恵理! 今だ!!」

「おう!」

「わかったっす!」


 白夜の合図で、哲也と恵理の二人が牛車から飛び出した。

 二人は手に持っていたモンスターの糞を、アフェモラマンティスに向かって投げた。

 アフェモラマンティスはそれを軌道を変えて避けたが、避けた先には白夜の投げた玉があり、それが弾けると、閃光となった。

「キシャー!?」という悲鳴を上げ、若干渓谷の方に体が傾いた瞬間、白夜はアフェモラマンティスに向かってジャンプした。

 そのまま足に捕まり、背中に登っていくと、腰からグラディウスを引き抜き、羽に向かって剣を振る。

 剣が羽の中程までに食い込むと、それを察知したアフェモラマンティスは羽を硬質化させて、剣を止めようとした。


「ぐっ! …… おりゃああ!!!」


 だが、白夜はそれを気合で振り切った。

 一枚の羽を真っ二つに切断されたアフェモラマンティスは、バランスを崩して渓谷に落ちていった。

 一方で白夜は、落ちていくアフェモラマンティスの上から飛び降り、崖に剣を突き刺して止まった。


「あぶねぇ…… 一緒に落ちるところだった」


 白夜は冷や汗をかきつつ、崖から剣を引き抜き、手足だけでひょいひょいと登り始めた。

 崖の上まで辿り着くと、哲也と恵理が白夜を出迎えた。


「白夜さん、凄いっす! あのアフェモラマンティスを追い払ったっす!」

「さすがは白夜だ。俺の見込んだ男だけある」

「おう、一応なんとかなったぞ。そういえば、アフェモラマンティスの羽はどうなった?」

「それならあそこにあるぞ」


 白夜は、哲也が指差した方に顔を向けた。

 するとそこには、地面に全体の三分の一が刺さっている状態の羽を見つけた。


「うわぁ…… 凄い切れ味だな」

「さすがは危険度Ⅷってところだな」

「あれ、どうやって持ち帰ろうか?」

「羽に折り目をつけて、無理やり折りたたむってのはどうだ?」

「なるほど。やってみるか」


 白夜は羽に剣で切り傷をつけていき、ある程度強度が落ちたところで曲げていった。

 すると、羽は意外と綺麗に折りたたまれ、バックの中に入る程度の大きさにまでなった。


「ふふふ…… これでみんなの武器も強化できるっすね!」

「いや、羽一枚じゃ一人が関の山だろ?」

「確かに白夜の言う通りだな。なにせ、その羽は硬いとはいえ、かなり薄くできているからな」

「え!? じゃあなんすか!? 白夜さんの独り占めっすか!? ずるいっすよ!!」


 恵理は自分の武器が用意できないと聞いて、地団駄を踏み始めた。


「何言ってんだ恵理、あれは白夜の仕留めた獲物だろう?」

「ええー! それでもずるいっす! 私も新しい武器が欲しいっす!」

「残念だったな、恵理。これが欲しくば、次は自分で仕留めることだ」

「ぐぬぬ……」


 完全に苦い顔をしてしまった恵理を横目に、ライトが牛車で近づいて来た。


「いやあ、お見事! まさか撃退するなんて思わなかったよ! さあ、早くボトップの町に向かおうか!」


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 ボトップの町は闘いの町と言われ、昔から闘技大会を開き、強者を讃えてきた。だが、最近になって奴隷による大会が主なものとなり、強者を讃える風習が薄くなっている。

 しかし、それはあくまで一般人の話だ。遠くから大会を観に来る者、大会に参加する者にとって、最強を決める大会は娯楽以上の意味を持っていた。


「いやぁ、おかげで無事に町に到着したよ。ありがとう、三人の討伐者さん」

「いえ、俺も良い素材が手に入ったので良かったです」

「白夜さん、ずるいっす……」

「いつまで駄々こねてるんだ。いい加減にしろ」

「哲也さんまで。本当は欲しいくせに……」


 最後まで仲の良かった三人を見て、ニッコリと笑ったライトは、ポーチに手を入れて、紙を取り出した。


「三人ともお元気で。ほら、これが依頼達成書だ。ギルドから報酬を貰うといい」

「ありがとうっす! これで美味しいものが食べられるっす!」


 その瞬間、駄々をこねていた恵理はどこかへ消えていた。


「切り替え、早いなあ……」


 白夜がしみじみと、この一年で何度も分かってきたことを口にした。


「白夜、いつものことだろ?」

「気にしても無駄か」

「ふふ、それじゃ、僕はこれで失礼するよ」


 ライトは白夜達に一礼して、町の中心にある闘技場の方へ向かっていった。


「ほらほら、何してるんすか二人とも! 早くギルドに行くっすよ!」

「哲也、ゆっくり行こう」

「賛成」


 ボトップ到着までの道のりで疲労がかなり溜まっていた二人は、スキップして先を急ぐ恵理を無視して、ゆっくりと歩き始めた。

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