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生と罪  作者: 無射/ぶえき
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学ぶことの素晴らしさ

 ボトップへの道のりは、途中からとんでもなく辛いものとなっていた。

 二ブルを出発して半日。牛車は大きく道を東に外れ、急な山道へと突入した。山には木がほとんど生えてなく、今にも崖崩れが起きそうな崖ばかりで、そんな中を進んで行くのには勇気が必要だった。

 時に、荷車の横幅がギリギリの所もあり、毎日命を懸けて戦っている討伐者三人でさえも、ヒヤヒヤしながら荷車に乗っていた。三人とも、たまに石で牛車が弾むのはやめてほしいと、常々思った。

 山を登りきると、次は降りだ。これは登山の話だが、山は登る時よりも降りる時の方が危険だと言う。

 今回もその噂に恥じず、牛車は揺れに揺れた。

 急な坂道では荷車が勝手に落ちていき、牛に突撃しそうになったところを止めねばならず、また、小さな石だらけの道では、後ろから押してやらなければまともに進まない。

 一年の討伐者生活で体力の付いていた三人でも、これには骨が折れた。


「もう…… 無理っす…… 白夜さん、おんぶ……」

「自分で歩け…… てか、いつもの元気はどうした……?」

「消えて無くなったっす……」


 恵理はそれを言い切った瞬間、荷車に乗り込んで、目を閉じて寝た。


「これは、明日は筋肉痛だな……」

「哲也でも筋肉痛になるのか……?」


 一年間で、さらに筋肉量の増えた哲也を見て、白夜は言った。


「まあな。鍛えててもこれは堪えたよ」

「でも、俺達の中では一番疲れてないよな……」

「そこは筋トレしてた成果だな」


 俺も今度から筋トレしよう。白夜はそう思った。


「いやあ、助かったよ。あとは明日、アフェモラマンティスの巣の近くを通り抜けるだけだね」

「今日は休憩ですか?」


 あまりに疲れたせいで、白夜の口からは、そんな言葉しか出てこなかった。


「ああ、もうすぐ丁度いい場所に着くんだ。そこでテントを張ろう」

「よぉし、もうちょっとだな…… やる気出てきた」


 終わりが見えると気力が湧いてくる白夜なのだった。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 それから休憩地点に到着すると、白夜と哲也はすぐに地面に倒れこんだ。

 しかし、そんな中、一人だけ元気いっぱいなやつがいた。


「うぉー! 私、復活っす!」


 恵理は、一時間あまりしか寝てないのに、完全にいつもの元気を取り戻していた。


「恵理、テント張っといて」

「な!? 白夜さん、それはずるいっす! 二人とも手伝うっす!」

「すまん。恵理、よろしく」

「ええ!? 哲也さんまでっすか!?」


 いつもは白夜をたしなめる立場である哲也も、今回ばかりは、と倒れたため、恵理はぐちぐちと口を尖らせながら、ライトと一緒にテントを張り始める。


「なんであんなに元気なんだろうなぁ……」


 白夜の純粋な疑問が、キラキラと光っている夕焼け空に響いた。


「恵理の体は、乳酸が分解されやすいんじゃないか?」

「なんだ? その科学的説明」

「気合であれだったら、俺は恵理を尊敬するぞ」

「俺は気合で動いてるんだと思うけどなぁ……」

「なら、元気なところは尊敬しとけ」

「そうしとく」


 体の疲れをゆっくりと取りながら話していると、恵理が走ってきた。


「いつまで寝てるんすか!? 早く薪を拾いに行くっすよ!」


 恵理はそれだけ言って、森の方へ走り出す。すると、


「おわあっ!?」


 頭からすっ転んだ。


「いったたぁ…… 疲れて足が動かないっす……」


 それを見て、白夜は口を開く。


「ほら、気合で動いてた」

「まじか…… 尊敬するわ、恵理」


 前方向に転んで、強調された恵理の尻を眺めながら、男子二人は頷いた。


「「尊敬するわ」」

「…… って、いったいどこ見てるんすか!? 二人とも意外と変態っすね!? いいから、薪を拾いに行くっすよ!?」


 二人は、恵理に無理やり起こされ、白夜達ら薪を拾いに行った。


 薪を拾い終えた三人は、焚き火の前で携帯食料であるビーフと黒パンを齧りながら、ライトと話をしていた。


「ライトさんって、なんで商人になろうと思ったんすか?」


 恵理がパンを噛みちぎり、咀嚼しながら質問する。


「僕の父が商人でね。僕もそれを継ごうと思って、子供の頃はよく勉強したものだよ」

「へぇ〜、子供の頃からしっかりしてたんすね。私なんか、勉強が嫌いで嫌いで仕方なかったっすよ」

「もちろん最初は嫌いだったよ。でも、ある日気がついたんだよ。自分の周りにあった分からないが、どんどん分かるようになる楽しさに」


 それは、実に現代日本人の学生に言って欲しい言葉だった。

 ただ、地球では調べれば簡単に何でも分かってしまう便利な物があるため、そんな感覚を持っている人はいないだろう。

 一方この世界では、知りたいと思ったら人に聞くしかない。その大変さといったら、夏休み後半、読書感想文の本を買うために家の外に出るくらい面倒くさい。

 そして、それが専門的な知識だった場合。知っている人を探すのに、その本を、夏休みが終わるまでに読み切らないといけないくらい面倒くさい。

 例えはともかく、人に聞くのはそのくらい面倒なため、知識を得ることの素晴らしさが分かってくるだろう。

 しかしながらこの世界では、そういう勉強のできる環境がない子供達が沢山いる。

 ちなみに、この子供達を二ブルに連れて行けば、格安で勉強をさせてくれる施設がある。


 そう、ジ・アースである。


 ジ・アースは、本当に何でもやる組織なのであった。

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