始まりの光
別作品の方は魔法ワールドなので、この作品には魔法は登場しません!
自分の身一つで生き抜く主人公の強さと、罪に苦しむ主人公の弱さとのギャップをお楽しみください!
久我家の夕方はいつも通りの光景だった。
テレビを見る父、夕食の準備をする母、日課となっているランニングの準備をする息子。そして、包丁で野菜を刻む音と、新発明だと喚くテレビ。
どれもこれもが日常で、ほとんど変化のないものだ。
「白夜もこれくらいの発明をしてくれれば良いのになあ」
「父さんは文系の俺に、一体何を求めてるの?」
テレビでやっていた、新しい発電装置を完成させた博士を見て、息子をチラ見した父。そして、それをヒラリとかわした息子の久我白夜。
「なら、作家とかいいんじゃない?」
「そんな文章力があれば、今頃もっと良い高校に行ってるよ」
文系と言う言葉を聞いて、とりあえずそれらしいことを言う白夜の母。そして、さらにそれをヒョイとかわした白夜。
久我家の日常である。
「それじゃ、ちょっと行ってくるわ〜」
「最近、行方不明事件が多いから気をつけてね〜」
そんな母の心配を軽く聞き流し、白夜は家のドアを開けて外に出ると、そのまま道路まで歩いて行き、屈伸を始めた。
彼は毎日午後六時頃になると、ランニングをする。高校受験のせいで落ちてしまった体力を、早く取り戻すためだ。
「よしっ」
準備運動で体を温めた白夜は歩き始め、徐々に早足になり、ランニングを開始した。
周りは既に日が沈んで真っ暗になっており、見えるのは道路脇の家と、十メートル先にいる小さな動物くらいだ。
「…… にゃぅ……」
どうやら猫らしい。
白夜は闇の中を、一定のペースで走っていった。
通るコースは毎日変わらない。家から百メートルほど離れた所にあるコンビニを通り過ぎ、交差点を曲がる。そこからさらに一キロほど進み、左の小道に入る。そこは家と家の間で、人一人しか通れないような小さな砂利道を、白夜はペースを緩めずに進んでいった。すると、大きなデパートの目の前の大通りに出た。
デパートの看板は、遠くからでも見えるようにライトで照らされており、大きな駐車場は車でいっぱいだった。
大きなビニール袋を両手に持ち、重そうにしながら車に乗り込む中年の男性。カートを押して、ダンボールを持ち上げると、車のトランクの中に押し込み始める若い女性。
白夜は、そんな光景を眺めながら信号を渡り、脇道を抜けていった。
一定の間隔で外灯のある道を走っていき、また左に曲がる。そのまま真っ直ぐに一キロ進むと、白夜の家だ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
白夜は息を整え、体に熱が溜まっているのを感じながら、家の中に入った。
「ただいま〜」
いつもは白夜の母が出迎えてくれるのだが、今日はそれがなかった。白夜は不思議に思ったが、たまにはそういうこともあるだろうと考え、リビングへ向かった。
白夜がリビングのドアを開けた時、そこには一人と二つがあった。
一人は手に刃物を握っており、その刃物からは血が滴っている。
二つは血塗れになっており、全身脱力したように横たわっていた。
そして、白夜はその二つの顔に見覚えがあった。毎日見ていた、もうとっくの昔に見飽きた顔。
「父さん……? 母さん……?」
それは彼の両親であったものだった。
白夜はそれを認識した途端、頭が真っ白になり、動けなくなった。
おそらくそのせいなのだろう。血走った眼をした男が、刃物を持って突進してくるのを、白夜が認識できなかったのは。
「がふっ……」
気がつくと白夜の腹には刃物が刺さっており、服を真っ赤に濡らしていた。
「あ……」
白夜は痛みによって、我を取り戻した。
だが、刃物を持った男は、容赦をすることはなかった。男は刃を引き抜き、もう一度白夜に向かって、刃物を突き出した。
白夜は渾身の力を振り絞り、その刃物を握り止め、拳を一発、男の顔にお見舞いした。そして、怯んだ男の太ももに、奪った刃物を突き刺した。
男は刺された箇所を両手で抑え、痛みに耐えるように歯を食いしばっていた。その隙に、白夜は家の外へと駆け出した。
「あ…… ぐっ…… ぐあっ!」
しかし、失血のせいで上手く走れず、道路に倒れ込んでしまった。
白夜は男から逃げるため、這いつくばって移動しようとした瞬間、突然白い光に飲み込まれた。
後日、警察の調べによると、この白い光は日本全国、四十七都道府県すべてで確認された事が分かった。
そして、この光に飲み込まれた者達は、忽然と日本から姿を消した。その数は十万人に及んだという。




