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灯火朝陽、23歳。
母子家庭で母親は病気持ち。母の病院の入院費や治療代を用意する為に高校生でそれなりに稼げる仕事はないかと探したところ、見つけたのがアイドルの新人発掘オーディション。実力が認められれば早期デビューが叶う、人気が出れば儲かる。
要は世間に歌と笑顔とついでに一時の夢を与えるだけでお金が入るのだ。俺は迷わず応募した。
幸い歌もダンスも苦手じゃなかった。話すのだって好きだった。受からなくても別の高時給のバイトを探せばいい。そんな軽はずみな気持ちで応募したものだった。
オーディションに参加して数日、家に合格を知らせる手紙が届いた。同じオーディションを受けた俺以外の3人とグループを組んで即デビューらしい。
顔合わせもそこそこ。お互いに可もなく不可もなく。あまり干渉しない奴らだった。その時は挨拶をして解散した。連絡先を聞くわけでもなく、自然と。
次に会ったのはデビュー曲のレッスン日。同じ部屋にいるにも関わらずバラけて座り、各々好きなことをやっていた。勿論俺も誰も使っていなかった椅子に座り机に学校で出た課題を広げていた。前回の顔合わせの時にいたマネージャーが入ってきて初めてまとまって椅子に座った。
マネージャーからの説明が終わって早速レッスンが始まった。筋肉質で強面な奴はアクロバティックな動きが得意だった。妖艶な顔立ちをした長髪は歌が得意。マネージャーが来た瞬間にへらへら笑いだした奴は演技が得意だった。俺は司会進行が上手かったらしい。
全員の特技が一致しなかったからか、仕事は個人のものが多く入れられるらしい。
その日もレッスンが終わってから解散した。
その次も、またその次も。
マネージャーが用意してくれた親睦会もそれぞれ用事があったので誰も行かなかった。マネージャーは俺達が集まると落ち着きがなく常にキョロキョロと目を回していた。
デビューの日。
とある音楽番組が俺達の初舞台だった。収録前はマネージャーに連れられて全員で挨拶回りをした。名前を言って頭を下げてのエンドレスだった。楽屋に戻っても何時も通り好きなことをして過ごした。
本番。楽屋での様子を聞かれたので強面が答えた。隅でマネージャーが顔を青くしているのが見えたので適当に話を広げた。あからさまにホッと息を吐いたので正解だったのだと思う。
収録終わり、マネージャーから次の仕事について説明を受ける。途中、出演者の方から声をかけられたので帰りは全員で同じ車に乗って帰った。
1ヶ月後、俺達は久しぶりに顔を合わせた。特に変わった様子はなかった。
この1ヶ月、俺達は一度も仕事が被らなかった。俺はバラエティーやニュースのコメンテーター。高校生の意見は貴重らしい。また、バラエティーとニュースのノリの違いがファンからうけているらしい。ギャップだとか。冠番組も出来た。
強面も俺とは違うニュース番組に良く出ている。体育会系の番組も多い。前までサッカーやらバスケやら様々な競技に触手を伸ばしてきたらしい。
妖艶な奴はバラードのシングルを出していた。マネージャーがくれたものを聴いたが、甘い声で紡がれるのは優しいラブソングではなくて切ない失恋ソングだった。PVも注目を集めているらしい。
へらへらした奴はドラマ撮影。初めて演じたドラマでは主役を食って数時間の間検索ランキングを独占していた。映画の主演が決まったらしい。
そんなこんなで1ヶ月。グループでの2回目の仕事。シングルの発売記念のPRだった。やっぱりバラバラに座りバラバラに解散した。
そんなんでも俺達のグループは成り立っていた。それなりにグループでの仕事が入り、多くの個人の仕事をして。
そんな時、母が死んだ。限界だったらしい。母の治療費の為に貯めていたお金の使い道が無くなった。高校を卒業した後だったからか、暫く働かなくても十分事足りる。
後、俺が殺人事件の冤罪で逮捕された。俺は取り調べで黙秘を続けたし、まずやってない。殺してないのに凶器の場所なんて分かるわけがない。
ちなみに、犯人は同じ事務所の先輩グループのリーダーだった。デビューしたばかりの俺達がどんどん自分達を追い越しそうで怖かったらしい。そこでディレクターが先輩の冠番組の司会を俺にやらせるっていうからキレたらしい。勢いで殺してしまい、丁度良いからと俺を犯人に仕立てあげたそうだ。なんて迷惑な。
そして、俺は無事釈放された。