~終章 アナザー開店~
「仕込み完了。あとは……皿でも拭いとくか」
喫茶店アナザーは今月二月に、沖縄の琉花町にて、無事開店する運びとなった。
この日を迎えるまでの苦労を考えると、黒羽はため息が出そうになるが、やっと長年の夢を現実にする時がきたのだ。
はやる気持ちを抑えるように、丁寧に皿を指紋ひとつ残さず拭く黒羽は、店内を見渡した。
アンティーク風のレイアウトで統一された店内は、暖色系の蛍光灯で照らされている。少し薄暗いのは彼なりのこだわりだ。
誰も座ったことのない椅子とテーブルには、今日どんな人が座るだろうか。そして、美味しいと言ってもらえるだろうか。
期待と不安に渦巻く心に、緊張で高鳴る鼓動。
黒羽は、チラリと壁掛け時計を見る。
白の長針、黒の短針はどちらも同じ時刻、九時を指し示していた。
「おっと、もう開店時刻だ」
早足でドアに近づくと、すでに人が数名集まっていた。
黒羽は喉を鳴らし、一つ深呼吸をした。外の客達は、黒羽を見るなり期待に満ちた視線を向ける。
「よし、行くぞ」
ドアを開ける。潮を含んだ風が頬を撫でるのはいつものこと。だが、客達の話し声がこの店の前で聞こえたのは、今日が初めての経験だ。
息を吸い、黒羽はハッとするような笑みを浮かべ、言葉を発した。
「いらっしゃいませ。喫茶店アナザー本日開店です。どうぞ中へお入りください」
初めては誰でも緊張するものだ。
異世界に渡り、そこで仕入れた品で作った料理と飲み物を提供する喫茶店アナザー。
その経営者である黒羽秋仁は、世界で初、異世界産の原料を扱う経営者となった。
※読んでくださった方、ありがとうございました。
現在、続編にあたる長編を執筆しており、完成次第投稿いたします。
機会がありましたら、またお会いしましょう。