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~プロローグ~

外伝であり、前作よりもボリュームは少ないです。

 初めては何事においても緊張するものだ。

 初めて自転車に乗った時。

 初めて料理をするために包丁を握った時。

 ――そして初めて異世界に渡る時。

 一月一日、大学卒業を控えている黒羽秋仁は、去年の十月に購入した建物の地下にいる。

 テニスコートほどの広さがある石に覆われた地下空間は真っ暗だ。彼が手にしたライトでは、足元を照らすのが精一杯で心もとない。

「この格好で大丈夫だろうか……」

 不安げに黒羽は自身の姿を確認した。

 紺色一色のジャージに茶色のトレッキングシューズ、背には登山用の大型バックパックを背負っている。

 沖縄ではさすがに北国のような防寒具を着込む必要はないが、冬場にこの服装ではやはり肌寒い。だが、これから行く場所は年中暑い場所だと、この物件の元所有者は言っていたので良しとする。

「じゃあ、行くか」

 彼は己を奮い立たせる意味でわざと力強く呟き、ポケットから緑色の鍵を取り出す。その鍵が向かう先は、巨大な鉄製のドアだ。ぎこちなく、鍵穴に差し込むとゆっくりと捻った。

「うわ、風が」

 両開きのドアが開き、隙間から強い風が入り込む。一体どういう仕組みなのか、ドアは機械仕掛けでないにもかかわらず、大気の流れに負けず外側へと動いていき、とうとう完全に開かれた。

(異世界……か。さあ、何が俺を待っている)

 風が治まり、正面に目を向けた黒羽は、息を呑んだ。穏やかな太陽の光と競争するかのように、自ら青い光を放つ、不思議な木々が立ち並ぶ丘。彼がこの景色を見るのは二度目だが、どうしても驚いてしまうものだ。

 彼は躊躇しつつもドアを通り、地下空間から丘へと移動した。

「凄い景色だな。よっと」

 鉄のドアを後ろ手に閉めた。……瞬間、ドアは音もなく消えてしまう。

「あ、おい! いや、大丈夫だ。……確か、この鍵を使えば、いつでも帰れるって話だったな。落ち着け俺。一個ずつ思い出していこう」

 黒羽にこの物件を譲った老人、神無月の話によると、ここは異世界『トゥルー』にある『光の丘』だ。そして、光の丘は森林地帯『プレンティファル』の南に位置している。

「それと……何か重要なことを言っていたような」

 歯痒くて頭を掻きながら、正面に視線を向けた時、

「あ!」

 忘れていた言葉が何だったのかに思い当たった。

 光の丘の斜面を下ると、広大な森が広がっており、そのちょうど中央に位置する場所に大きな都市が見えた。遠いので細部まで確認できないが、市壁に覆われていて頑丈そうな造りだ。

(商業都市フラデン。まずはあそこを目指した方が良いってアドバイスされていたな)

 バックパックを背負いなおし、黒羽は歩き始めた。

 地下室に到着した時の時間は朝の八時だった。彼は、夕方頃には到着するだろうと考えていた。しかし、数時間もしないうちに黒羽は、己の見積もりの甘さを後悔することになる。

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