あとがき
あとがき
「まさかこんなことになるとは」
というのは毎度お馴染みの台詞なのですが、今作は今まで以上にびっくりでした。というのも、最初の段階では、原稿用紙150〜200枚程度の短いお話で考えていたので。それが何故にこんなんなってしまったかというと、まあこれも毎度お馴染みなのですが、執筆する中で物語の肉付けしていくうちにこんなことに。
ウン年前の原案からプロットを構築し、さあ書こうという段階では、50P読み切り漫画的な内容しか持たせませんでした。ちなみにその段階のタイトルは『闇に棲まう者』で、細かい設定はほとんど決めておらず、ストーリーも以下のようなものでした。
転校してきた紗夜に、異様なオーラを感じる武斗。その数日後、武斗は闇に棲まう化け物同士の戦いに遭遇。その戦いに勝利したヤナガは意味深な言葉を武斗に残し消え、気を失ってしまった紗夜を武斗は自分のアパートに連れて帰る。そして翌朝、昨夜のことを聞くが紗夜は覚えてない。
これがきっかけで二人は親しくなるのだが、紗夜のことがどうも心配な武斗は、夜な夜な町中をうろつく。そして数日後、再び化け物同士の戦いに遭遇。やはり紗夜もいる。武斗は劣勢なヤナガに加勢。敵を打ち負かすも、ヤナガは死んでしまう。そのときヤナガは、紗夜が敵をおびき出す囮であること、自分はそんな彼女を守るために仕えてきたのだと告げる。そして武斗が、御子杜家を代々守ってきた、特殊な力を持つ一族の末裔だということも。
ヤナガは命尽きる直前、自分の代わりに彼女を守ってやってくれと頼む。武斗は、何も知らないまま囮にされている紗夜を思うと怒りに震え、そんな彼女を守ることを誓う。
人であることを捨て、闇に棲まう者となって。
という、キャラクターは少々お座なりに、とにかくストーリーを追いかけてといった代物でした。
本作とは大きく異なり、武斗と紗夜は恋人同士までにはなりませんし、武斗とヤナガの関係も希薄なもの。物語の背景もまったくと言って良いほど描かれず、武斗の過去も紗夜の過去もほとんど語られません。さらにシンエンも出てきません。堂本や朝日荘の人々も出てきませんし、文江様も出てきません。なんと照臣もちょい役程度でしか出てきません。
そのような内容でいざ書き始めると、ようやくそこで気付いたのでした。短いお話にするにしても、これでは読み終えた人は「何が何だか」と首を捻るばかりで、面白かったとは思ってもらえないだろうし、薄っぺらだし、何より武斗が紗夜を守ると決めたその動議付けが弱いどころか、説得力がまったくないと。
そこでプロットを再構築し、曖昧にしていた設定もある程度考え、再出発となりました。その趣旨は、"やっぱりちゃんとキャラクターに命を持たせよう"というもの。や、これ物語を書く上で基本以前の話なんですがね……。
そして、武斗がどう苦悩し、紗夜とどうやって想い合う仲になるのかを中心に考え、さあこれで行こうと書き始めたのが、『プロローグ』から第4話『彼女たちの見解』あたりまで。
この段階では、原稿用紙で300〜400枚ぐらいで考えていました。がしかし、書けば書くほど「こういうエピソードも必要だな」「だったらこういうシーンも必要だな」「ここは間に何か置かないと流れがよろしくないな」などと、なかなか先に進まず、正直、まだまだ物語の序盤である第12−14話『駒井沢戦線異状あり』で原稿用紙150枚を越えていたので、果たして最後まで書き上げられるのだろうかと、かなり不安になりました。
だというのに、読者に「主人公に近い人は誰も死なない物語」と思わせないために堂本のエピソードをわざわざ追加。その後も順調に予定外のエピソードやシーンが加わり続け、「いつになったら終わるのだろう」と思いながら執筆していましたし、第46話の『彷徨う心』あたりでは、本気で「途中で力尽きて、完結できないんじゃなかろうか」と思ってもいました。
ゴールが見えたのは、第57話『シンエン』をひとまず書き終えたとき。このときはさすがに「やっと終わりが見えたあ〜!」と何度も何度も声に出して喜びました。ゴールには辿り着いていませんでしたが、気分はもう観鈴ちんでした(注:劇場版の観鈴ちんではありません)。
そして、終わってみれば原稿用紙約900枚というボリューム。いやあ、ほんとびっくりです。最初は「オリジナル作品を初投稿するにあたり、まずは手始めに短い作品を書こう」と書き始めたものが、初のオリジナル長編作品になろうとは。
というか、どうしてこういつも、プロット段階で煮詰められないんだろう……。しかも、終わってみればストーリーとタイトルが一致してないし……。あう、タイトル変えたい。もう遅いけど……。
最後に、私の稚拙な小説を読んで頂き、誠にありがとうございました。この場を借りて心より感謝申し上げます。