表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の守護者  作者: K-JI
37/62

見知った天井

 武斗が記憶している限りでは、屋上にいるはずだった。だが、目が覚めるとそこは見覚えのある部屋。それは八城照臣の部屋だった。しかも布団の上で横になっている。

「なんで……?」

 武斗はそう呟き、状況確認しようと起き上がろうとするが、途端に偏頭痛のような痛みが走り、思わず背中から倒れるように再び横になると、ようやく右腕と両足の太ももと両足の甲の痛みに気付き、最後の記憶を思い出そうとした。

 覚えているのは、戻ってきたヤナガにうるさいと言いながら、自分を傷つけることで意識をはっきりさせ、左腕の武具を外したところまで。

 そこで武斗は痛む右腕を見てみると、腕には包帯が丁寧に巻かれていた。

「誰が……」

 一瞬、武斗の頭に紗夜の顔が浮かび上がる。泣きながら武斗の手当をする紗夜の顔を。また泣かせてしまったのかと思うと、慌てて「そうと決まったわけじゃねえだろ」と否定していた。だが、この姿を見られたら泣きながら怒るかもしれないと考えると、どのみちまた泣かせるのかとため息を落とした。

 誰が手当をしたという問題もそうだが、どうやって八城神社までやってきたかという問題もある。可能性としては、無意識の中で自力でここに来た可能性が高い。ヤナガは論外として、紗夜があの場に来たとは思えない。自力でないのなら照臣ということになるだろう。

 ただどちらの問題も、今この状況で事実を確認する方法は照臣に聞くことだけだろう。ということで、武斗は偏頭痛をこらえ上体を起こし、布団から出て立ち上がろうとした。だが足の痛みが武斗に「イッ――!」という一文字を言わせ、立ち上がったときに「てえなくそったれ!」と、自分を奮い立たせる言葉を言わせていた。

 すると、ゆっくりとした足音が聞こえてきた。武斗の声に、別の部屋にいた照臣がやって来たのだ。

 無理に立ち上がっている武斗を見ると、照臣は「大人しくしておれ」と叱りつけた。

「大人しく寝てられっかよ」

「まったく……。ならせめて、そこに座れ。傷口が開いてしまうだろうが」

 照臣はそう言って布団の横に腰を座った。そうされては、武斗も座らないわけにはいかず、痛みに顔をしかめながらどうにか座った。

「なあ、なんで俺、ここにいんだ」

「その前に、お前、昨日何をやった」

「なこと関係ねえだろ」

「人に迷惑かけといて、関係ないとは随分と身勝手な言い方だな」

「ちっ……。修行してたんだよ」

「どのような修行だ」

「力を引っ張り出す修行だ! 力を意識して、引っ張り出して、それでこう……、っていちいち細かく説明できるかよ! とにかく強くなる為の修行だ! これでいいだろ! で、どうやって俺はここに来たんだ!」

「己の肉体を傷つけながらか?」

「ああそうだ! 悪いかよ!」

 腹立たしげに答える武斗に、照臣は深いため息を落としていた。

「馬鹿な真似をしおって……」

「だからてめえには関係ねえだろ!」

「紗夜が悲しむのであれば、私には無関係ではない」

「うっ……、きたねえぞ」紗夜の名前を出され、しかも悲しむと言われては、少しばかり罪悪感を感じてしまう。途端に、武斗のトーンが下がった。

「お前が決めたことだ。余計な口はあまり挟むつもりはない。だが、無茶をしすぎて紗夜を悲しませるようなことはするな」

「うるせえ……」

「さて、説教はこのぐらいにして、お前がどうやってここに来たか、だな。お前をここに連れてきたのはヤナガだ」

「は?」

 もっとも可能性の低い、ゼロに等しいヤナガが連れてきたという言葉に、武斗は思わず自分の耳を疑った。

「なわけねえだろ、あのヤローが……」

「嘘を言って何になる。寝ている私の枕元に突然ヤナガが来てな、お前を本殿に置いてきたから、あとは私が面倒を見ろと言って、すぐにどこかに行ってしまったのだ。何があったのかと本殿に行くと、そこにお前が血を流しながら意識を失っていたから、正直驚いたぞ。ひとまずそのまま本殿で傷の手当てをして、それからお前を背負ってこの部屋に連れてきたという次第だ」

「それじゃこの手当ては、あんたがしてくれたのか」

「あんなお前の姿を、紗夜に見せるわけにはいかんだろう。あの子を起こすことなくお前を部屋に連れてくるのは、結構苦労したのだぞ。子供の頃と違って、すっかり大きくなったからな」

「それは……、悪かったな……」

「悪いと思うなら、大人しくここで横になっていろ」

 これで自分がどれだけ迷惑をかけたかを思い知ると、さすがに強気な態度は取れない。渋々、武斗は布団に入り横になった。そして照臣は「それと、お前がここにいることはまだあの子には言っておらん。あの子が帰ってきても動けないようであれば、言い訳を考えておけ」と言って、部屋から出て行った。

 再び部屋に一人となると、武斗は天井を見上げながら呟く。

「言い訳か……。なことしたって、どのみちあいつ、心配するんだろ……? やっぱあいつが帰ってくる前に帰らねえとな。ま、それにしても、あのヤローが俺をここまで運んだって、やっぱ信じられねえよなあ」

 と、いつものように突然「そうか?」と言ってヤナガがあらわれた。

「そうだよ」

「ならば、褒美とでも思え」

「そいつはありがとよ」武斗は不機嫌そうに答えると目を閉じた。

「ところで、昨日の成果はどれほどだ?」

 ヤナガは、武斗が昨日得たものを忘れずにいるか確認する為に尋ねる。その答え次第で、次の行動を決めるつもりだった。横になっている武斗は、偏頭痛を我慢しながら言われたとおりに夜狩人の力を引き出すために集中する。昨日の夜ほどの力ではないが、一秒とかからずにここまで出せることにヤナガは満足すると、「分かってきたようだな」と感心するように言った。

「なめんなよ」

「ククッ。得意げのようだが、まだまだ足りぬことを忘れるな?」

「んなこと言われなくてもわかってんだよ。小姑みてえにいちいち言うな」

「なら、もっと引き出せるようにがんばることだ」

 ヤナガはそれだけ言うと、気配を消した。

 それから一時間ほどして、だいぶ遅くなった昼食を照臣が持ってきた。頭の痛みは相変わらずだったが食欲は回復してきていたようで、きれいに平らげていた。そして食事が終わると、武斗は帰ると言い出した。傷の痛みはあったが我慢すれば歩けないことはないと言って、無理せずにまだ休んでいろと言う照臣の言葉を聞こうとせず、やむなく、武斗のアパートまで車で送ることとなった。

「本当に迷惑をかけるヤツだな、お前は」

「言い訳、見つかんなかったんだからしょうがねえだろ……。それに、あんただって俺が帰った方が助かるだろ」

「そうだな……。お前のこの姿をあの子が見たら、私までなに言われるかわからんからな」

「え? あいつ、あんたにも何か言うのか?」意外な照臣の発言に、武斗は思わず目を丸くした。

「ああ。お前のことになるとな。……以前、お前が神社に来て、紗夜たちがいる前で私に詰め寄ったことがあっただろう? あの後、紗夜に言われてしまったよ。どうしてお前の知り合いだと言うことを隠していたんだとね。それと、お前に関する私の話だけは信じられないとも。それはもう、見たことのない表情をしてな。今でも、たまにあの子は私を不審の目で見つめていることがある。私がそれに気付いてないと思っているようだが、私はそれほど鈍感ではない」

「あいつが……。なんで?」

 武斗のこの質問に、照臣はため息をつくと、「私の口からは言いたくない。知りたければ自分で紗夜に聞け」と答え、内心、不憫な子だと紗夜に同情していた。

 それからアパートに着くまで、武斗は少し疑問に思っていたことを質問し、照臣はそれに答えていた。例えば、闇の者は夜に活動するはずなのに、なぜヤナガは昼夜問わずあらわれるのか。また以前、ヤナガと戦うとなったとき、神社にいる方が安全だと紗夜を連れ戻したことがあったが、ヤナガがこうも自由に出入りしているのは、やはり契約しているからか、など。

 ヤナガに昼夜関係ないのは、御子杜本家と契約を結ぶ際の条件として提示されたものらしい。つまり、御子杜の呪術のおかげということだ。ヤナガが神社内に出入りできるのも、条件の一つに含まれていたからだそうだ。

 御子杜本家からしてみれば、相手が相手なので同意しがたいものだったそうだが、現状を考慮すれば、やむを得なかったらしい。

 アパートに着くと、部屋まで肩を貸そうという照臣の申し出を断っていた。その声で武斗の帰宅に気付いた利根林と巻野は、玄関で武斗を出迎えると、ふらついている武斗に「タケちゃんお帰り、って、また怪我したの?」と驚いていた。

 武斗はそれに対し「有名人の辛いところっスよ」を笑って見せた。その説明に納得した二人は、武斗の肩を支えて行ってしまった。

 そんな武斗に、照臣は「ヤナガの言うとおり、本当に世話の焼けるやつだ」と苦笑していた。

 部屋に置きっ放しだった携帯が鳴ったのは、それから少ししてのこと。番号を見ると、登録されていない見知らぬもの。どうせ勧誘の類だろうと電話に出てみると、スピーカーから紗夜の声が聞こえた。

「楯村くんですか? 御子杜です」

「え?」意表を突かれた武斗は、間の抜けた声を出すだけだった。紗夜が携帯を持っていないことは聞いている。そして発信先の番号は明らかに携帯電話の番号。どういうことだと一瞬考えてしまったのだ。

 紗夜は武斗のこの返事に、番号を間違えて違う人に電話をかけてしまったと思ったようで、すみません間違えましたと謝って電話を切ろうとした。これに武斗が慌てて「いや、待て。間違えてねえって」とそれを止めると、紗夜は、びっくりさせないでくださいと言ってきた。

 紗夜によると、すぐ側にいつもの三人がいるらしい。本当はもっと早く電話をしたかったらしいのだが、校則で校内での携帯電話の使用は禁止されているので、この日の授業が終わって学校の外へ出た今、ちとせに携帯を借りて、こうして電話をしたということだった。

 電話をかけてきた理由は実に分かりやすく、学校に来ない武斗を心配してのものだった。そして休んだ理由を聞かれた武斗は、単にダルかったからと答えた。怪我のことを隠す為に帰ってきたのだから本当のことなど言えるはずもない。もし言えば、今すぐこの部屋に飛んで来かねない。そして怪我の理由を聞かれ、嘘で誤魔化したとしても心配をかけてしまう。ということで、最も現実的な嘘をついたのだ。

 紗夜は嘘に感づいたのか信用していない様子だった。だが、その嘘を正当化するだけのこれまで実績が最後にものを言い、「明日はちゃんと真面目に学校に来てくださいね。また今日みたいに学校休んだら、怒りますからね」と言って電話を切った。そしてその声は、すでに少し怒っていた。

 これには、武斗もある不安を感じずにはいられなかった。

「まさか、俺が休むたんびに電話するつもりじゃねえだろうな……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ