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The meaning to fight (戦う意味)

紫電改は、着陸時にひどく気を遣う。

零戦のように、素直に脚がでてくれないし、2段回の伸縮脚はバランスを崩す。

また、無理やり低翼にしたため下部の視界もわるい。

離陸はいいとしても、着陸で左に曲がる癖があり、初期の紫電ではよく着陸時に脚を折ったらしかった。

もともと、水戦の強風を無理やり陸上機にしたものだから無理がある。

それでも、零戦の後続機ができない以上、海軍の戦闘機としては、正式採用になった。

能力値でいえば、グラマンF6Fと同等の二千馬力というわけだが、オクタン90を切っているガソリンでは、せいぜい千八百馬力がいいところだろう。

それでも、一万mまで上がるのに、酸素ボンベを使い20分以上、距離にして200km以上も係るのだ。

いくら、邀撃とはいえ10,000m以上で侵入してくる、B29を追撃することはできなかった。

一撃をかけると、2,000m以上も降下してしまい、相手機は過給機として排気タービンを備えて、10,000mでも500km/hの速度を出せる、こっちは、オクタンの低いガソリンと、粗悪な潤滑油では、8000m以上の高高度では出力の半分も出せなかった。

 それでも、新谷は空に上がり続けた。

 それが、竹部との約束だったから。


 「新谷中尉、またですか」


 と整備兵の田中が、カウルを外した誉のいじっている新谷に声をかけた。


 「ああ、こいつ 漏電してて昨日の夜は発動機が光っていたぞ」


 「また、絶縁の紙が燃えたんですか、しかたないですね」


 「今時、裸電線なんて笑いますよね。この前落ちたB29を見たら、なんか被覆がすごかったですもんね」


 と田中は興奮気味にいっていた。

新谷も、八幡に落ちたB29を見ていた。

陸攻の比ではなかった。

B24は見慣れていたが、依然見たB17をはるかに超えていた。

まさに要塞といってもよかった。

12.7mmの連装の機銃が14基もあるのだ。

もちろん、防弾ガラスに自動消火装置もある。

紫電改にも装備されているが、精度はいまいちだ。


 「こいつは、単座の頭に入れるために無理やり小さくしているし、14気筒の零戦と違い複列だが18気筒の発動機だ。無理がある。整備のことを考えてはいない」


 カウルに滲んだオイルを拭きながら新谷はため息をついた。

 竹部がよくいっていたことを思い出した。

 栄の発動機は、一気筒くらい死んでも動いた。それくらい出来た発動機だった。

 実際、誉を積んだ紫電改の稼働率は、3割以下だ。

 80機以上あるのに動けるのは、30機程度だ。


 「仕方ないですよ、発動機を作る金属がないんだし、元は寺の鐘か鍋かもしれませんよ。」

  

 田中は、翼を叩きながらいった。


 「枕頭鋲の位置も、21型に比べれ粗雑だ。よく飛べるものだと思うよ。ただ、艦上戦闘機で軽戦ではなく重戦だから頑丈だ、急降下でも800km/h出せる。20mmも4門 880発ある、初速も早いからしょんぺん玉も少ない。発動機が好調ならF6Fにも引けを取らない。」


 新谷は、塗装の剥げかかった機体を撫ぜた。


 「新谷中尉はなぜ、そんなに機体整備にこだわるんですか」


 と田中は不思議そうにいった。

 一般的に、海軍パイロットは、気位が高く機体の整備は整備兵がするものとしてきた。

 整備兵は、兵役に就くことができない身体的に劣ったものだとの偏見があった。

 しかし、陸軍軍では伝統的に、バイロットも整備に参加しており、誉と同じ「ハ45」発動機搭載の、四式戦疾風を主力機とした陸軍飛行第47戦隊の整備隊では8割以上の稼働率を誇っていたという。


 「比島での私の師匠からの教えだからだよ。どんな時でも機体が助けてくれると、その為には機体の隅々まで目を配ることが大切だと教えられた。」


 「比島にいたんですか、じゃ関大尉とかは知っているんですか。」


 「飛行隊がちがうから直接はしらないが」


 「いまや、軍神ですからね。すごいな、私も目が悪くなければ予科練にいけたのに」


 と田中は悔しそうに地面を蹴っていた。


 「いや、死ぬことだけが、戦争ではないよ。生きて、戦い抜くことも大切なんだ。私の師匠は、特攻に飛び立つときにそう言ってくれた。」


 「まさか、新谷中尉も特攻に志願したんですか」


 新谷は答えなかった。苦い思いが込み上げてきた。

 十死零生の作戦が作戦なわけではない。

 人の命が、機体より軽いなんてわけがない。

 新谷の胸を、白菊に乗って特攻にいった少年の、最後の敬礼姿が締め付けた。


 「なんにしろ、この誉の不調は整備しないといけない。」


 と新谷は、絶縁の紙がやけてリークしている配線に絶縁用の紙を巻き付けた。


 「わかりました、私もお手伝いします」


 といって、田中もエンジンのシリンダー付近のバッキンの整備をしだした。


 能力値だけなら、一万まで上がれるはずなのに、六千をすぎると発動機が息をつく、燃料の質がわるいから不完全燃焼を起こしているのだ。

新谷は、零戦のように始動が良くない、誉の原因は構造的な問題ではないかと感じていた。

零戦のエンジンは低速でも、かなりのACを薄くしても始動するが、誉は回さないと馬力がでない発動機だ

常に高速で回している。

そうすると、必ず出力が落ちてくる。

オーパーヒートと気味になるのだ。

ただ、零戦と違って長距離を飛ぶ機体ではないので、その運用でよいらしい。


 新谷は、初めて紫電改に乗った時に感じたことがあった。


 この機体は、攻めるたものものではない。守るためのものだと感じた。


 そう、新谷ははじめて自分の戦う意味を見つけたのだった。


 新谷は、涙的型の風防を撫ぜた。

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