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In person's loved purpose. (愛する人のため)

 雪が降っていた。

道路を白く覆っていた。

道行く人は、樅ノ木を担いでいた。

クリスマスが近づいていた。


 本来なら、新谷は帰国していなければならなかったが、ある事情から帰国を遅らせていた。

あの日、Charlotteに思いを告げた日に受け取った手紙のせいだった。


 「Araya Do you have coffee?(コーヒー飲む?)」


とCharlotteはタイプライターキイ押しながら訪ねた。

新谷は、手をあげて答えた。


新谷が勉強用に使っているテーブルの上には、たくさんの書類があり、横にはタイプライターがあった。

タイプライターが苦手な、新谷の代わりにCharlotteがタイプしてくれていた。

公式な文書はタイプでなければならないので助かっていた。


 「I'm sorry, please ask you for a difficulty.(面倒なことを頼んでごめんね)」


と新谷はCharlotteに言葉をかけた。


 「I expect it of a Christmas present.(クリスマスプレゼントに期待するわ)


とCharlotteは笑った。


1951年9月に締結されたサンフランシスコ講和条約により、日本とアメリカの戦争状態は終結して日本の主権が回復されたのだ。


 静子から手紙には、Rechardの子供を生んだことが記されていた。

しかしながら、Rechardの認知がないためアメリカ国籍が取れないでいた。

静子は、何とかして子供だけでもアメリカ国籍の取得ができるようにと、新谷に連絡してきたのだ。

日本の法律では、父系血統主義を取っているため静子が産んだ子供は、私生児となり無国籍になる可能性があった。

静子としては、それが避けたかった。

ただ、Rechardと正式に結婚しているわけではないので、アメリカ国籍の取得は難しかった。

唯一残されているのは、養子として子供を渡米させることだった。

ただし、養子縁組は受け入れ先が問題だった。

できれば、Rechardの生家での受け入れを望んでいた。


新谷もそうすべきだと思っていた。

しかし、Rechardは今もMIAとして行方不明だ。

303高地の虐殺の虐殺が伝えられると、MIAのほとんどは死亡しているものと理解された。

戦闘中の捕虜の管理ほど難しいものはない。

戦時中の日本軍も、部隊の数より多い捕虜に対して、パターン死の行進などとして捕虜の管理を粗雑にしていた。

中には、東京裁判で争われたように、銃弾がもったいないので刺殺や斬首されたものもいるといわれていた。または、十分な食事や休息を与えずに不衛生な環境で酷使して死に至らしめたとも言われている。


 新谷は何としても、静子とその子供をアメリカに呼びたいと思っていた。

それが、Rechardの願いだとも思っていた。

だから、日本政府とアメリカ政府への嘆願を願い出ているのだ。


それには、まず解決しなければならないことがあった。


Rechardの家族への説明だった。


Rechardの厳格な父が、かつての敵国の女性を許すとは思えなかった。

ましては、政治家である。

国民的な英雄が、敵だった国の女性と子供をもうけるなど考えられるはずもなかった。


新谷は、まずは説明をしようと思いRechardの家に行くことにした。


手紙を受け取った夜に、新谷は静子のことをCharlotteに話した。

Charlotteは、同封されていた数枚の子供の写真と母親の静子をみて、何故か顔を曇らせた。

そして、Rechardの家に行くときに自分一緒に行きたいと言い出した。

特に止める理由もなかったので、新谷は、Charlotteと一緒に行くことにした。


 テールフィンの真っ赤な車をCharlotteは、実に快適に飛ばしていた。

盛夏の中をオープンにして風を切っていた。

ラジオからは、軽易なカントリーが流れていた。

新谷は、この国の乾いた空気のようには馴れずにいた。

ましては、Rechardにこれから行って話すことのが少し憂鬱になっていた。

どんな風に話を切り出せばよいのか、考えあぐねていた。

電話で訪問して、話したいことがあるとだけ伝えてはいたが、その内容の重さがRechardの家に近づくほど重くなっていた。


 「What do you think of?(何を考えているの)」


とCharlotteは、心配そうに顔をしている新谷に尋ねた。


 「I'm thinking how to speak.(どう切り出せばいいか考えている)」


 新谷は前方の景色を眺めながら答えた。


 「Even if I think, it's better not to think how can't it be done. I think you should speak about your thinking really by your words.(考えてもどうしようもないことは、考えない方がいい。貴方が、本当に思っていることを貴方の言葉で話せばいいと私は思う。)」


 Charlotteの言葉は正論だが、割り切れない思いはある。

外見も文化も言葉違う者同士が、どう理解したらいいのだろう。

そもそも理解できなかったから、戦争が起きたのだ。


新谷は、腹を括った。


 「It won't be only as it'll be.(なるようにしかならない)」


車は、Rechardの家に着いた。


車のエンジン音に気づいたのか、Rechardの家の使用人がドア開けて近づいてきた。


 使用人に案内されて、新谷とCharlotteは、応接間に通された。


 そこには、Rechardの両親と姉妹がいた。


 Rechardの母親は、新谷の傍にきて優しく抱きしめてくれた。


 新谷は深呼吸をした。


 「実は、Rechard家の皆様にお願いがあって今日は来ました。」


 Rechard家の皆は、改まった新谷の言葉に怪訝な顔をした。


 「どうしたの、今日は改まって、何か困りごとでもあったの」


 のRechardの母親は、新谷に声をかけた。


 新谷は単刀直入に話すことに決めた。


 鞄から、写真を出してテーブルの上に置いた。

 それは、Rechardと静子が写ったものだ。


 「日本でRechardが一緒に暮らしていた女性で、静子さんといいます。Rechardは、悩んでいましたか゜彼女を愛したいました。また彼女もRechardを愛していました。彼女は、世間的にいう娼婦ではありません。高等教育をうけた淑女です。父親は、元外交官です。」


 一気に話した内容に、Rechard家の人々はあっけに取られていた。

Rechardは静子のことを何も話していなかったのだ。

話せるはずもない理由は山ほどある。


 「何の話かと思えば、そのような話か。Rechardが行方不明を幸いにデッチあげた話ではないのか」


 とRechardの父親は声を荒げた。


 「私は、日本でRechardから、静子さんのことで悩んでいると打ち明けられました。そして、同じように静子さんも悩んでいました。かつての敵同士が愛し合っていることに。でもRechardは真剣でした。だけれども自分の立場上許されないことだともわかっていました。そしてそれは、静子さんも理解していました。いずれ、別れは来ると二人とも理解していました。」


新谷は、うつむきながら静かに語った。


 「Rechardが、かつての敵国の女性を愛するなど理解に苦しむ。息子は軍人だ。自分の立場を忘れるはずはない」


 と父親は怒り心頭にしていた。

白い肌に、金髪で碧眼の血筋は、北欧系だ。もっとも優れているとされている血筋た。

開拓時代から、名の通った名家だ。


 「私も元軍人です。Rechardの立場は分かっていました。だから、Rechardは戦争に行ったんです。愛する人を守るために」


 新谷は声を震わせていた。


 見かねたRechardの母親が


 「新谷さん、少し時間をもらえないかしら、家族で少し話中身の整理をしたの。多分長い話になるのよね」


 と言ってので、新谷は頷いた。


 「すこし、ゆっくりしてらして、そうだRechardの部屋にでもいてくだされば気が落ち着くかもしれませんね」


 といって、新谷とCharlotteは、使用人に促されて応接室を出でいった。


 Rechardの部屋に案内されると、片づけられた部屋には壁一面にRechardの写真が飾られていた。

生まれてから写真が所狭しとフォトフレームに収められていた。


 「きっと、家族のみんなから愛されていたのね」


 Charlotteは、ぽつりといった。


 新谷は、F6Fの前で笑っているRechardの写真の前で立ちつくしていた。


 「F6Fに(こいつ)乗っていた時に、俺が撃墜したんだ。」


 Charlotteは、新谷の言葉に耳を疑った。


 「あなたは、Rechardと戦ったの」


 「ああ、1945年6月に会敵して戦闘で、Rechardの乗った機体を撃墜した」


  「どうして」


 「敵だったから、撃たなければ自分が落とされて死ぬかもしれないから」


 「どうして、Rechardはあなたを許せたの」


 「たぶん、気持ちは同じだから。空の上では生きるか死ぬかのやり取りとかないから。それが戦争だから。でも、人は分かり合える。同じ立場で話せば相手を理解できる。そうやって、Rechardとも分かり合えた。生涯で唯一の友だ。」


 新谷は、写真のフライトスーツのRechardの顔を指でなぞった。


 Charlotteは、背中から新谷を抱きしめた。


 「あなたも、RechardもJImmyもみんな男は自分勝手よ」


 とCharlotteは、泣きながら新谷を抱きしめた。








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