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第8話

 イルと城下町を散策してから数日後、秀一は魔王に呼び出され謁見の間に来ていた。


 「おはようシューイチ、よく眠れたか?」

 「おはようございます魔王様、よく眠れる訳ないでしょ…俺、なんで呼ばれたんですか?」


 時刻はまだ夜明け前、正直言ってまだ眠い。


 「ふむ、お主を呼んだのは他でもない。お主にはこれから最前線近くの砦に行ってもらおうと思う」

 「はぁ!?」


 修一は一瞬で目を覚ます。


 とんでもない事お言い出したぞ、コイツは…


 「ま、待ってくれ! 最前線近くの砦ってこの間勇者が襲撃したところじゃ…」

 「いや、そことは別の砦じゃ。近くではあるがの」


 絶句する修一。


 「実はの、この間の襲撃で近隣の村々を安全圏まで避難させたのじゃが、どういう訳かその村だけ避難を拒んでおっての、お主もだいぶ鍛えられたはずじゃし、そろそろ人間達との交渉も経験してもらおうと思っての」

 「それはいいけど、勇者が攻めてくる可能性もあるんだろ?危険じゃないのか?」


 勇者を殴りたいと思ったし、いくら逃げてもいいと言われても流石に怖気付いてしまう。


 「もちろん危険じゃ…しかし、友好的な人間の村を見捨てるわけにもいかぬ。それに先も言ったが、お主が逃げる時間は兵士達が全力で稼ぐ。だからその点は安心しろ」


 いや、安心できないだろ…


 「それと、護衛役にはイルを同行させる。こう見えてもイルは我が軍一の魔導師じゃ、道中も安全は保証しよう」


 それは、頼もしいが…


 「でも、いいのか?イルが居ないと城が困るんじゃないのか?」


 仮にもイルは魔王城に数少ない常居幹部の一人だ、そんなイルを護衛役に付けてしまっては城の守りが手薄になってしまうのではないだろうか。


 「構わん。確かにイルは、城を守る幹部じゃ。が、最悪ワシとゲイルが居れば何とでもなる。それよりも道中お主に死なれる方が困るのじゃ」

 「道中死ぬって…転移魔法とかで飛ばしてもらったりとかはできないのか?」


 修一のそんな疑問に対し魔王は


 「できぬ。仮にも魔王領土の最奥地、召喚魔法ならまだしも、転移魔法は空気中の魔力濃度が高すぎて失敗する恐れがある。お主に渡した魔法石が魔王都に座標されていないのもそれが理由じゃ」

 「失敗するとどうなるんだ? 転送できないだけじゃないのか?」

 「そうじゃな…体の表裏が入れ替わったり、二人以上の転移ならば、転移先で混じり合ったりと言う報告を受けておる…」


 なにそれ…怖い…


 「故に、魔王城への移動手段としては、主にワイバーンを用いる事が多いのじゃが、ワイバーンは一人乗りの上、扱いが難しくての。お主達には馬車で向かってもらう事になる」


 なるほど、それでこんな朝早くに呼び出された訳か。


 「危険な旅になるとは思うが、お主の働き期待しておるぞ」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 謁見の間から退室した修一は、旅の支度をする為一旦部屋へと戻った。


 「まったく、簡単に言ってくれる…」


 旅で必要な物はイルが用意しくれるらしい。


 修一は回復薬などの細々とした物を袋に詰め城門へと向かった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 城門に着くと既に馬車が用意され、横でイルが待っていた。


 「おまたせ、早いね」


 これでも急いで準備したのだが、イルは既に荷物を積み終わりいつでも出発できる状態だった。


 「私は、昨晩の内に魔王様から伝えられていましたから」


 知っていたのならもっと早く教えて欲しかった…


 そんな思いを読み取ったのかイルは申し訳無さそうな顔で言う。


 「申し訳ございません。お伝えしようとは思ったのですが、昨晩は大変お疲れなご様子でしたので…」


 確かに昨日は、久しぶりの訓練でやたらとゲイルが張り切り、それに付き合わされた修一は夕食も取らずに眠ってしまった。


 「それで夜明け前に起こされた訳か…」


 疲れが取れていないのか、未だに体はだるい。


 「馬車での旅は長いので、あまり快適ではありませんが、お休みになられる事はできますので」


 それはありがたい。

 この際、寝心地は我慢しよう。

 そう言えば、向こうの世界でも馬車なんて見たことなかったな…


 そう思って修一は、人生初の馬車というものを改めて観察した。


 「これが馬車か…馬車…なのか?」


 見た目は確かに漫画とかで見る馬車だった。


 ただし、繋がれている馬が黒いオーラを放った骨だという事を除けば。


 「馬車ですよ! しかも、この子達は国で一番の駿馬と呼ばれて子達です!」

 「どう見ても馬の骨格標本なんだが…」


 さっきから微動だにしないし…


 「失礼な! この子達もれっきとしたスカルホースと言う魔族なんですよ!!」

 「名前、そのまんまなんだな…」


 まぁ、ここの騎士団の人にも鎧だけの人もいたし、騎士団長に至ってはデュラハンだし、こういうのもあるのかもしれないが…


 「なんか、昨日の疲れも交えて、どっと疲れた…」


 俺、この世界でやっていけるのだろうか…


 そんな不安を抱きつつ、修一は馬車へと乗り込んだ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 どれくらい眠っていたのか、太陽は既に真上に登っていた。


 「おはようございますシューイチ様、よくお眠りになっていましたよ」


 笑顔で言ってくるイル。


 「おはようイル、俺どのくらい寝てた?」

 「そうですねぇ、7時間くらいでしょうか」


 なるほど、太陽が真上に来る訳だ。


 「ごめんな、イルも早かっただろうに…俺だけ眠らせてもらって」

 「いえ、私はなれていますから」


 どうやらイルは、普段から早起きをしているらしい。


 「ちなみに、イルの平均睡眠時間って何時間くらいなの?」

 「私ですか? そうですねぇ…大体2時間くらいでしょうか」

 「短!? そんなんで体持つのかよ?」

 「慣れると意外と平気なものですよ」


 そう言って微笑むイル。


 「まぁ大丈夫ならいいんだけど…睡眠はしっかり取った方がいいぞ?」

 「そうですね、今後はもう少し睡眠をいただく事にしますね」


 そんな些細な会話をしつつ、修一は馬車の外を眺めた。


 どうやら今は草原地帯を走っているようだが、背景が目まぐるしい速度で流れていく。


 「な、なぁこの馬車ちょっと速すぎないか? 馬車ってこんなに速いものなのか?」


 下手な車より速度が出ている気がする…


 「言ったじゃないですか、この子達は国市の駿馬だと」

 「だからって速すぎるだろ…」

 「それでも、ワイバーンよりは遅い方なんですよ?」


 マジかよ…

 俺がワイバーンに乗れる日は来ないんじゃないのか…


 「ところでイル、目的の砦まではどれくらいかかるんだ?」


 この速さだし、もしかしたら今日中に辿り着けるのではないだろうか?


 「そうですねぇ、このまま何事も無ければ明日の朝には到着するかと」


 と答えるイル。


 「何事も無ければって何事かある場合もあるって事だよな?」

 「旅は何が起こるかわからないですからね、それでも私の魔力感じ取って、大抵の野良魔族は近づいてこないと思いますが」


 そう言われると改めてイルは凄い人なんだと実感する。


 「それに、もし野良魔族が襲ってきても、私が魔法で片付けてしまうので、シューイチ様は安心して馬車で休んでいてください」


 そう言って微笑むイル。


 なんて頼もしいんだろう…

 ただ、女の子に守ってあげると言われると、男としてはすごく情けなく感じてしまう。


 そんな事を思っていると、急に馬車が偈速度を落とし、やがて停止した。


 「どうやら、言っているそばから野良魔族が出たみたいですね」

 「マジかよ! イルの魔力にビビって近づいてこないんじゃなかったのかよ!」

 「恐らく、私の魔力の強さよりも、シューイチ様の匂いで湧き出た食欲の方が勝ったのでしょう」


 嬉しくねえええええ!!!


 修一は馬車の窓から首を突き出し辺りを見回す。


 少し離れた所からこちらに駆け寄ってくる大型のネコ科を思わせる魔獣が群れを成しているのが見えた。


 「なんか…デカくね?」

 「あれはサーバルキャットですね。この辺りに生息している野良魔族で、体調はだいたい6~7メートルくらいでしょうか?」


 いやいやいや、デカ過ぎるだろ!!

 俺が居た世界にもサーバルキャットは居たが、大きくても1メートルくらいだったぞ!!


 「ささっと片付けてしまうので、シューイチ様は馬車の中でお待ちください」


 そう笑顔で告げたイルは、馬車の外へと出て行ってしまった。


 いくらイルが魔王軍の幹部だからと言って、あの巨体の群れを一人で何とかするのは難しいのではないか?


 「俺だってこっちへ来てからずっと騎士団で鍛えられたんだ…」


 そう言って持ってきた剣を持ち馬車の外へと飛び出した。


 そこで目にしたのは、ちょうど魔法の詠唱を終え、魔法名を叫ぶイル。


 「ヘル・インフェルノ!!」


 その掛け声と共に、こちらへ向かってきていたサーバルキャットの群れに紅い閃光が煌き、次の瞬間には辺は焔の海となっていた。


 なに?…この地獄絵図…


 やがて焔が収まると、あたりの草花諸共サーバルキャットの群れは消滅していた。


 こ、怖ええええええ


 サーバルキャットの群れが消滅したのを確認し、振り返ったイルが修一に気付く。


 「馬車の中で待っていてくださって良かったのに」


 そう言って微笑むイルに、正直魔王軍幹部の実力を甘く見ていた、と実力の差を目の当たりにして少し落ち込む修一であった。

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