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第6話

 翌日の早朝、修一は物音で起こされた。


『被害状況の確認はまだか!』

 『相手の規模は…進行速度は…』

 『近隣の村の被害状況は…』


 「ん、んー…なんだ? 騒がしいな…」


 どうやら場内のあちらこちらで兵士が騒いでいるらしい。


 何かあったのか?


 ボーっとする頭でそんなことを考えていると、慌ただしくシロナとクロエが入ってきた。


「起きてますか! 兄様?」

 「ん? あぁ、おはよう二人共」

 「おはようございます兄様♥…じゃなくって! 至急、謁見の間まで来るよう魔王様からの言伝です」

 

 魔王様からの呼び出し?

 本当に何があった?

 

「場内が慌ただしいのと何か関係があるのかな?」


  未だ覚醒していない為か、のんびりとした口調で質問する修一に対し慌ただしく答えるシロナ。


 「詳しい事は魔王様にお聞きください! 私達もこの後すぐに城を出なければいけないので口惜しいですが、これで失礼します。ほらクロエ行くよ!」


 急かすシロナ、しかしクロエは部屋を出ていこうとはせず修一の事をずっと見つめる。


 「クロエ!」

 「待ってシロナちゃん…」


 早くと言わんばかりのシロナを横目にクロエは修一に近づく。


 「お兄様、ボク達はこれから、任務で少しだけ危ないところに行きます…ですので、わがままだとは思いますが、少しだけ勇気をください」


 そう言って修一に抱きつくクロエ。


 !?!?!?!?


 突然の行為に絶句する修一とシロナ。


 「ちょ…クロエちゃん?」


 どうしたの?と聞こうとした瞬間、ふと数百メートル全力疾走した後のような疲労感に襲われる。


 あれ?


 何が起きたのかわからず困惑していると、今まで固まっていたシロナが騒ぎ出す。


 「ちょっとクロエ! アンタ何やってるのよ!! ずるい! 私も!!」


 そう言って抱きついてくるシロナ。


 ええええ!?

 本当に何この状況?


 美少女姉弟に抱きつかれると言う現実では到底ありえないシチュエーションに先ほどの疲労感も忘れ鼻の下を伸ばす修一。


 しかし、次の瞬間先ほどとは比べ物にならない程の疲労感に襲われる。


 「ちょ…本当に…何…これ…?」


 意識が朦朧としてきた修一に気づき咄嗟に離れる二人。


 「シロナちゃん…吸いすぎだよ…」

 「元はといえばクロエが抱きついたのが原因じゃない!」


 言い争いをするシロナとクロエ。


 「二人共…何か…した…?」


 息も絶え絶えに二人に質問する修一。


 「あ、あはは、ごめんね兄様! 私達時間が押してるから行くね!」

 「お兄様ごめんなさい!!」


 逃げるように部屋を出ていくシロナとクロエ。


 本当に何されたんだ…俺…


 修一は、未だ朦朧とした意識のまま二人が出て行った扉を見つめていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 意識は回復したが、未だ疲労感は消えない体を引きずり謁見の間の前までやって来た修一。


 謁見の間の扉は既に開け放たれていて、忙しなく兵士達が出入りしていた。


 「失礼します」


 そんな掛け声と共に謁見の間へと入室する。


 その声に魔王が気づき声をかける。


 「お! 来たかシューイチよ、待っておったぞ! ……どうした? 顔が青いぞ?」


 魔王のその言葉に隣で兵士達の報告を聞いていたイルも修一の方を見て驚く。


 「シューイチ様! どうなされたのですか!! ご気分がすぐれないのですか?」


 二人の心配そうな顔を見る限り、相当青い顔をしているようだ…


 「いやぁ、ここに来るように伝えに来てくれたシロナちゃんとクロエちゃんに、自分たちは任務に行くから勇気を分けて欲しいと抱き着かれて…それから何か疲労感が抜けなくて…」


 修一の説明に頭を抱えるイルと魔王。


 「あやつ等…やりおったな…」


 「申し訳ありません魔王様、あの二人には戻ったらキツく言い聞かせますので…」


 どうやら本当に何かされたようだ…


 「俺、何されたんですか?」

 「ソウルドレインじゃな…」


 ソウルドレイン?

 それってつまり…


 「シューイチ様はあの二人に生気を吸われたという事です」


 未だこめかみに手を置き、困り顔のまま説明してくれるイル。


 「生気って…じゃあ俺の寿命吸われたって事か!?」


 冗談じゃない!

 いくら可愛い顔しているからってやっていい事とダメな事があるだろ!


 「安心してくださいシューイチ様、生気と言うのは寿命ではなく体力です。しかし、その顔を見るとあの子達加減なしで吸ったようですね…」


 「まぁしばらく休めば楽になるじゃろう」


 なんだ、寿命を吸われた訳ではないのか・・・

 良かった…って全然良くねぇ!

 淫魔怖い…


 「まぁそれはそれとて、シューイチよ、お主を呼んだのはちと話があってな」


 そうだった、魔王様に呼ばれてここに来たのだった。


 あまりの事に本題を忘れていた修一は、改めて自分が呼ばれた理由を魔王様に尋ねた。


 「それで、何かあったんですか?」

 「うむ、とりあえずシューイチよ、その状態では立っているのも辛いであろう。生憎椅子は無いが、そこで良ければ座ってくれ」


 魔王のご好意に甘えてその場に座る修一。


 「うむ、では改めて。実はの、最前線の砦が勇者の襲撃を受けておってな…」


 勇者だって!?

 勇者って魔王を倒して世界に平和をもたらすとか言う、あの勇者か?


 「最近はまったく動きがなくての…完全に油断しておったわ…」


 困り顔の魔王。


 「で、でも、勇者ってくらいだから人間側の代表なんだろ? だったら俺が行って交渉すれば!」

 「無理じゃな…」


 きっぱりと否定する魔王。


 「奴はどういう訳か魔族を憎んでおる。過去に架け橋役を請け負ってくれた魔族と友好的な人間に頼んだ事もあったんじゃが…話をする前に切り捨ておったのじゃ…」


 何だよそれ…


 「切り捨てたって…同じ人間なんだろ? じゃあどうして…」


 その疑問の言葉にイルが割って入る。


 「魔族と関わったからです」


 は?


 「勇者は魔族を憎んでおります。そして、魔族と友好的な人間も同じように憎んでいるのです」


 とイルは静かに告げた。


 「そんなのおかしいだろ!! 同じ人間同士なのに何で!!」


 何で…そんな簡単に殺せるんだよ…


 「お主が怒るのも無理はない…しかし、奴はそういう人間なのじゃ…」


 そう言って魔王はどこか諦めた顔をした。


 アンタがそんな顔するなよ…

 アンタが諦めちまったら、誰が魔王軍を引っ張っていくんだよ…


 何かいい方法は無いものかと考える修一に魔王の声がかけられる。


 「それでじゃな、シューイチよ、お主を呼んだのは一つ忠告をしようと思っての」


 魔王の言葉に修一は訝しげむ。


 「お主は今後最前線へ行ってもらう事もあるじゃろ?」


 その言葉に背筋が凍る。


 そうだ、俺は最前線に行かされるんだ…

 そこでもし勇者と遭遇したら?

 勇者は魔族と友好的な人間も殺す…

 死ぬ…


 最悪の事態を想像してしまう修一。


 「逃げるのじゃ!」

 「へ?」

 「もし最前線で勇者の襲撃にあったなら、交渉せずにこの城に逃げ帰ってこい。お主にはこの城に出来るだけ近い村が転送先となっておる魔法石を渡しておく。それを使って逃げるのじゃ」

 「で、でも、勇者ってくらいだから物凄く強いんだろ? そんな奴相手に逃がしてもらえるかどうか…」

 「それくらいの時間なら我が軍が稼いでやる! 兵士達には申し訳ないが、お主を失うわけにはいかないのじゃ! この国の未来の為にもの…」


 この国の兵士達に犠牲になってもらう…と。


 その言葉を聞いてどこかホッとしている自分に気づく…

 情けない…


 「こんな事態ではゲイルも今日は忙しいじゃろ、騎士団の訓練も今日はお休みじゃ。シューイチも自室でゆっくりと休むが良い」


 そう言って魔王は、話は終わったと言わんばかりに兵士達の報告を受ける。

 

 今更ながら実感した。


 軽い気持ちで引き受けた架け橋役という仕事は、修一が想像していた以上に責任が伴うという事を。


 修一の背中には国一つの未来がのしかかっているという事実を。


 ここに居ても邪魔になるだけだ…


 修一は重い気持ちを引きずりながら自室へと戻った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 辺はすっかり夜になり、城もいくらか騒ぎが収まった。


 謁見の間から戻った修一はその後も何もやる気が起きず、部屋の明かりも点けずにベッドで横になっていた。


 コンコン


 部屋をノックする音。


 「どうぞー」


 修一は無気力な返事を返した。


 「失礼します」


 イルが静かに部屋に入ってくる。


 「灯り、点けますね」


 部屋の灯りが点される。


 イルが心配そうな面持ちで近づいてくる。


 修一はそんなイルに咄嗟に縋り付く。


 「シューイチ様!?」


 イルは驚いた声を上げるが、秀一が震えていることに気がつき、そっと頭に手を添える。


 「ごめん…イル」

 「はい…」

 「少しだけ、このままでいさせてくれ…」

 「シューイチ様のお気が済むまで、このままでいて構いませんよ」

 「うん…」

 「シューイチ様」

 「うん…」

 「私はいつでも、シューイチ様のお近くにいますからね」

 「…」


 そうして秀一はイルの優しさに甘えるように、いつまでも泣き続けた。 

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