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神隠しに遭ったら、異世界に居ました。  作者: 神無月夕
第七章 岐路
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第五十話 VS紫竜/タニア・セレナSide

 

 ガァァ、アアォウウウッ――という、通路の空気を震わせる壮絶な咆哮が、タニアとセレナの表情から感情を失くさせた。

 二人が向かおうとしていた東の通路の奥から、明らかに異様な気配と殺気が放たれていた。

 この威圧、この魔力、先ほどまでの比ではない。間違いなく通路の奥には、魔貴族アール――それも相当に強力な種が存在しているに違いない。

 タニアもセレナも、瞬時にそれを理解した。同時にビクッと身体を緊張させて、物音を立てないよう息を殺して立ち止まる。


 ゥゥゥウ――ッという重低音の唸りが響いてくる。また、通路の奥から血の匂いが漂い始めて、巨大な何かが蠢くような気配が感じられた。


「…………これ、【魔王属ロード】じゃ、ないわよね?」


 セレナが疲弊した表情を凍り付かせたまま、囁くように呟く。返答は期待していない。けれど、つい口走らずにはいられなかった。それほど強大な魔力の気配だった。


「――行くにゃ」


 タニアはセレナの弱腰の呟きを耳にして我に返ると、萎えていた自身の心に喝を入れるように力強く頷いた。そして、決定事項とばかりにそう宣言してから、迷わず一歩を踏み出した。堂々と胸を張り歩き出したタニアの姿を見て、セレナはゴクリと唾を呑んでから、ゆっくりとその後を追う。

 二人が近付いてくる気配を感じたか、通路の奥からは殺意の篭った重低音の咆哮が響いてきた。その咆哮には、重厚な魔力と凄まじい威圧も篭められている。

 それは、タニアでさえ一瞬怖気づくほどの威圧だった。

 圧倒的な存在感、質量を伴う恐怖――たとえば、見上げるほどに高い山のような、限りのない広大な海を相手にするような、そんな威圧感だった。


「……ねぇ、タニア。悪いけど……あたし、役に立たないわよ?」

「そんにゃの承知にゃ――コイツは、あちしが相手するにゃ。セレナは邪魔ににゃらにゃいよう、隅っこで隠れてるにゃ。セレナの仕事は、【魔神召喚】の立体魔法陣の防御結界を解除することにゃ」


 小声でボソボソと会話しながら、タニア先行で二人は通路を歩いていく。通路の奥に進めば進むほど、当然ながら咆哮は大きく鮮明になっていき、その威圧もいっそう強大になる。また、空間に漂う魔力濃度も濃くなってきて、段々と息苦しくなってくる。

 そんな重苦しい空気の中をしばらく歩いて、ようやく通路の奥、咆哮の主が鎮座している大部屋へと到達する。大部屋に足を踏み入れた瞬間、二人は同時に息を呑んだ。


 その大部屋は地下とは思えないほど奥行きがあり、天井も軽く10メートルを超えるほどの高さをしている。濃厚な瘴気と禍々しい魔力が満ちた空間で、そこかしこからは血の臭いが漂っていた。空間には継ぎ目が見えており、その継ぎ目が蜃気楼のように揺らめいている。それは紛れもなく、時空魔術による空間拡張だった。どうやらこの部屋自体、時空魔術で構築された異空間のようである。

 もしかしたらこの地下全体が、攻略されて忘れられたダンジョンなのかも知れない――タニアは、チラとそんなことを考えた。しかし、すぐさまそんな瑣末事は思考の彼方に押しやって、正面に鎮座している脅威の存在に意識を集中させる。


 果たしてそこには――3メートルほどの竜と、毒々しい色をした繭、天井を支えるように直立している巨大な柱があった。


「――――竜種の、魔貴族にゃ」


 咆哮の主であるその竜を目の当たりにして、タニアはギリギリと歯噛みしながら呟いた。

 魔貴族が居るのは覚悟していたが、それがまさか、よりにもよって竜種だとは思っていなかった。これはあまりにも不運過ぎる。完全にハズレくじを引いてしまった。


 魔貴族とは一般的に、知恵があり【魔神語デモンラング】を解して、一つ以上の特殊な異能を持つ存在である。天災に区分される魔族であり、単独で討伐できる存在ではない。とは言えど、タニアも相応に化物である。並の魔貴族が相手ならば、苦戦はすれども討伐は可能だろう。

 しかしそれが、幻想種の中でも特別視されている竜種となれば話は別だった。

 竜種とはそもそも、魔貴族だろうとなかろうと、異常な強さを誇っている。雑魚に分類される下級の竜種でさえも、討伐ランクは【S】か【SS】に区分されるのだ。それが上級の竜種ともなれば、ただそれだけで魔貴族に匹敵する強さを持つ。

 魔族の中で最高位の存在であり、最強と謳われる【魔王属ロード】――純粋な強さだけならば、竜種の魔貴族は、その魔王属をも凌駕するだろう。事実として、魔王属を喰らった竜種の存在と言うのは珍しくない。


 ――そんな竜種の魔貴族が、タニアたちの目の前に居る。これはかなりの想定外だった。


 タニアは【鑑定の魔眼】に魔力を篭めて、射殺さんばかりの威圧を正面の竜――紫色の鱗を持つ竜に向ける。すると案の定、その桁違いの魔力量が表示された。


「魔力値、477……生まれたてにゃのに、これかぁ」


 名前は読めにゃいにゃ、と続けて呟いてから、タニアは疲れたように吐息を漏らす。

 周囲の状況から察するに、紫色の竜は孵化したばかりだ。毒々しい色をした繭――【瘴気の繭】から、まさに今ほど這い出てきた様子である。これは、セレナが危惧していた通りの展開だ。どうやら先ほどの大魔術の衝撃により、【瘴気の繭】が破けて魔貴族が産まれたということだろう。

 吐いた唾は飲み込めない。まったく自業自得だが、『にゃにがあっても、あちしが対応するにゃ』と、気軽に切った啖呵が、かなりの重圧となってタニアを襲っていた。

 一方その時、傍らで驚愕していたセレナが、震える声音で問い掛けてくる。


「……ね、ねぇ、タニア……アンタ、竜種を……相手にしたこと、あるの?」


 そんなセレナの問いに、タニアは少し迷ってからゆるく首を横に振った。今までに、竜種と戦った経験はない。


「…………か、勝てる、の?」


 明らかに脅えた様子のセレナは、タニアの背中に隠れながら囁いた。

 タニアはチラとセレナを振り返る。セレナの身体はカタカタと小刻みに震えており、その顔は死人のように蒼白で、ありありと恐怖の色が浮かんでいる。

 これほど脅えているセレナは初めて見る。どうしてそれほど恐れているのか、とタニアは首を傾げた。

 紫色の鱗を持つ竜――紫竜(しりゅう)が放つ圧倒的な覇気に萎縮したのか、と思考して、ああそうにゃ、とその理由にピンとくる。

 そう言えば妖精族は、竜種全般に対して、畏怖の念と苦手意識を持っている。十七年前に起きた【キリアの天災】――妖精族の聖地を滅ぼしたのは、何を隠そう竜種の魔貴族だ。それゆえ、妖精族にとって竜種とは恐怖の象徴である。


「にゃるほど……セレナ、安心するにゃ――あちしは、負けにゃい」


 弱腰のセレナを苦笑してから、タニアは豊満なその胸を張って力強く断言する。少しの後悔や自身の言葉に対する重圧があろうと、そもそもこれからやることに何一つ変わりはない。目の前の強敵は、ただ殺すだけである。


「……むしろ、アレにゃ。生まれたてにゃら、まだ能力を掌握できてにゃいはず」


 好都合にゃ、と笑って、タニアは全力の【魔装衣】を展開した。ブワッと溢れ出る魔力の膜がその全身を包み込んで、紫竜が放つ威圧をそれ以上の威圧でもって押し返す。


「グゥォ――――ッ、ガァァアアッ――!!」


 タニアの戦意に反応したのか、竜種の本能でタニアを強敵と見抜いたのか、紫竜は威嚇のような咆哮を放った。その大音声はビリビリと空間を振動させて、突風のような衝撃を二人に与える。だがそれ以上、動く気配はなかった。

 タニアは改めて、紫竜を睨みつける。すると、紅蓮に割れた瞳孔と目が合った。【竜眼】はまだ発現していない様子だが、見る者に恐怖を植え付けるだけの眼力はあった。


 紫竜は、四本の鉤爪を持つ前肢が二つと、同じく四本の鉤爪を持つ後肢を二つ持っており、胴体は鎧を思わせる光沢をした紫色の鱗で覆われていた。尻尾はあまり長くないが、胴体と同じくらいに太く、その先端には七本の両刃剣が生えている。背中は刺々しい形状の鱗で覆われていて、1メートルほどある大きな翼が二対、計四枚あった。竜種特有の長い首と、巨大な体躯の割りに小さな頭部、猛禽類のようなノッペリとした顔付きは、無言のままでも威圧感がある。

 魔貴族にしては知性を感じないが、まだ産まれて間もないのであれば、それも当然だろう。となれば、まだ知性が芽生えていない今こそ、殺すのに最適なタイミングと言える。


「セレナ、下がってろにゃ――【魔槍窮】」


 タニアは脅えているセレナをドンと押し退けて、その姿勢から流れる動作で魔槍窮を撃った。紫竜がタニアを警戒しているうちに、一息で殺しきるべきである。

 巨大な柱を背にした紫竜を目掛けて、魔力の槍が襲い掛かった。竜眼の発現していない今のうちならば、この魔力を霧散することはできないだろう。

 避けるか、防ぐか、反撃か――何をするにしろ、応じて追撃する用意がある。

 しかし紫竜は、タニアのそんな想定を当然のように裏切った。鼻先に迫る強烈な魔槍窮を、まるで意に介さない態度で、身構えることもなく甘んじて受けたのだ。


「にゃにゃ!?」


 無警戒に思えるほどあっけなく直撃する魔槍窮に、タニアは違う意味で驚愕する。まさか何もしないとは――何らかのアクションを取ると想定していただけに、その予想外には、一瞬戸惑ってしまう。

 けれど、それはそれで好機でもある。タニアの全力の魔槍窮が直撃して、無傷なはずはない。


「――――にゃあぁっ!!」


 タニアは気合の声を上げた。その声に応じるように、タニアを包む魔装衣が巨大な竜を形作る。

 それは【魔装衣・幻想種】と呼ばれる魔装衣の形態変化の一つだ。魔装衣の中で、最も魔力消費量が激しいが、その代わり最硬度の防御力と最強の突破力を誇る形態である。


 タニアを包み込んだ巨大な魔力の竜は、次の瞬間、天井ギリギリまで高く飛翔して、まるで彗星が落下するかの如く紫竜に突撃した。同時に、魔槍窮の衝撃が大部屋の空気を揺らす。紫竜を中心に、爆風が巻き起こった。


「グゥウウン、ァア――」


 爆風の中心で、紫竜の悲しげな咆哮が響いた。それを聞き流しながら、タニアが纏う魔装衣の竜は、紫竜を押し潰さん勢いで激突する。


 ――――あらゆる音が弾けて、室内は緑色の閃光で染まる。


 先ほどの魔槍窮が直撃した時の衝撃とは比べ物にならないほどの爆風が、地下全体を大きく揺らした。巻き起こった衝撃波は、大部屋の入り口で成り行きを見守っていたセレナをも吹き飛ばす。セレナは受身も取れずに壁に激突して、可愛らしい悲鳴を上げている。

 一方で、紫竜に激突したタニアは、驚愕でその表情を凍りつかせていた。

 まったく信じがたいことだが、紫竜は魔装衣の突撃を、前肢一つで受け止めていた。これにタニアは苦笑いを浮かべるしかない。


「硬すぎる、にゃ――ぎにゃ!?」

「――グォッ、ガァッ!!」


 タニアが呆れた声で呟く。直後に、紫竜が短い呼気と共に身体を反転させて、その尻尾を振るった。すると、尻尾の先端から生えていた七本の剣のうち三本が姿を消して、次の瞬間には、魔装衣に包まれたタニアの脇腹に、最初からそうだったかのように突き刺さっていた。


「……ぐぅ!? にゃ、にゃんで!?」


 突如現れた三本の剣は、驚愕しているタニアの脇腹を抉り、魔装衣の内側を縦横無尽に飛び回って魔力の竜を破壊した。

 たったそれだけで、タニアを包み込んでいた魔装衣は強制解除されて、魔力の竜はいとも呆気なく霧散した。


「ォオ、ゴオガァゥ――ファゥ!!」


 血に染まった腹部を押さえながら、魔装衣を破壊されたタニアは、咄嗟に紫竜から飛び退く――しかしその行動は一テンポ遅かった。

 紫竜が咆哮と同時に、その口から毒の息を吐いていた。恐ろしいほどの腐臭と、凄まじい風圧がタニアを襲う。

 タニアは毒の息を浴びたうえで、その風圧で吹っ飛ばされた。


「ちょ、ちょっと、タニア!? 大丈、夫――ひっ!?」


 ドガン、と轟音を立てて、タニアは大部屋の壁に身体をめり込ませる。それを見たセレナが慌てて身体を起こして、タニアの元に駆け寄ろうとした。

 けれど、その一歩を踏み出そうとして、紫竜の眼光に射竦められて立ち止まる。無言で凄んでくる紫竜に、セレナは金縛りにあったように硬直していた。

 巨大な【生贄の柱】を護るように立ちはだかる紫竜――その身体には、見渡す限り傷一つ付いていなかった。タニアの本気の攻撃が、まったく効果なしだったようである。

 その事実を見せつけられて、セレナはいっそう震え上がった。


「…………獣化は、しばらくできにゃいし……この毒、割とヤバイ、にゃ」


 その時、苦しそうな呟きを漏らしながら、壁にめり込んでいたタニアが、ガラガラと壁を崩して床に着地する。だがその顔色は蒼白で、着地の衝撃を逃がせず無様に這い蹲った。もはや足に力が入っていない。

 ――毒の息の影響である。

 紫竜が吐いた毒の息は、絶大な効力を持っていた。魔術耐性の高いタニアでさえ、まったく防げないほどの極めて強力で凶悪な毒だった。


「……にゃ、セレナ、お前、この毒、治癒できにゃい、か?」


 虚ろな双眸で紫竜を睨みつけながら、タニアは息も絶え絶えにセレナに問う。けれどセレナはガチガチと歯を鳴らすだけで、何一つまともに答えられなかった。

 蛇に睨まれた蛙の如く、セレナは紫竜の鋭い眼光に射竦められて動けない。

 タニアはそんなセレナを一瞥してから、タニアなど既に眼中にないとばかりの紫竜に視線を向けて、チッ、と大きく舌打ちをした。


(マズイにゃぁ――この毒、魔力操作を乱す、にゃぁ。このままじゃ……最悪の事態にゃ)


 タニアはダラダラと冷や汗を流した。毒の効果だろう、魔力の操作が阻害されており、魔術一つ展開できそうになかった。このままだと本気で死ぬ危険性が出てきていた。現状、冷静な判断力さえ失われ始めている。

 どうやらタニアが浴びた毒は、即効性の麻痺毒の類らしい。思考力、判断力を奪い、全身の反応を鈍くするようだ。しかも、魔力操作まで乱すおまけ付きである。


「ガゥウァアア――――■■■■■」


 タニアは反応の鈍くなっている身体を押して、何とかその場に立ち上がる。すると、紫竜が驚愕したように吼えて、何やら意味の分からない言語を口走る。

 その言語は、紛れもなく【魔神語デモンラング】と呼ばれる言語だった。

 先ほどまで雄叫びを上げるだけで知性が見えなかった紫竜だが、ここに至り知性が芽生えたらしい。なるほど間違いなく【魔貴族(アール)】である。知性があり理性があり、何より冷静な様子だ。

 厄介なことに、事態はより厳しくなった。


「■■■■■■」


 紫竜は立ち上がったタニアに向かって、何やらボソボソと語りかける。そして翼を大きく広げて、上から見下ろすようにタニアを睨んだ。けれどそれが何を言っているのか、内容はまるで理解できない。


「…………にゃに、言ってる、にゃ?」


 タニアは朦朧とする意識を必死に繋ぎ止めて、まだまだ平気だと言わんばかりの態度で首を傾げた。それは明らかに虚勢だったが、傍目から見る分にはそうとは思えない。それゆえに、紫竜はタニアの挙動を警戒していた。

 ――実際のところ、タニアの視野は既に暗くなっており、立ち上がるのはおろか喋るのさえ厳しい状況である。このままではとてもじゃないが、戦いにはならない。


「■■■。グァアゥウウァッ――」


 紫色の竜がまた何やら喋って、直後に絶叫のような咆哮を上げた。その咆哮はビリビリと空気を震えさせて、瞬間、紫竜の周辺に幾つもの黒い球体を出現させる。それら黒い球体はフワフワと空中をたゆたいながら、強烈な悪臭を放ち、粘りつくような禍々しい魔力を垂れ流す。

 黒い球体が次々と現れる光景に、あぅ――と、セレナが息を呑んで、身体をビクリと震わせた。黒い球体の禍々しい魔力とその存在感は、見た者に絶対的な恐れを抱かせた。


「ぅ、く――セレナ、解毒、してにゃ」


 恐怖が大部屋を満たしたのを肌で感じて、タニアは震える声でセレナに告げる。その声は普段のタニアからは想像できないほど弱々しく、切迫した声だった。


「え――あ、ぅ? ど、毒?」


 タニアのその必死の懇願に、セレナはハッとして我を取り戻した。慌ててタニアに視線を向けると、彼女は不敵な笑みを紫竜に向けている。しかしその立ち姿からは、何の圧力も覇気も感じない。


「頼む、にゃ……実は、意識、飛びそう、にゃ」

「あ――は、はい」


 タニアの懇願――その切実な願いを耳にして、セレナは素直に頷いた。すかさずタニアの背中に駆け寄ると、その身体に手を当てて意識を集中させる。解毒の治癒魔術である。

 ――けれど当然ながら、そんなことを許すほど紫竜は寛容ではなかった。


「ォオオオオオッ――ゥ!!」


 セレナが治癒魔術を行使しようとした瞬間、紫竜が天井に向かって咆哮する。途端に、黒い球体がタニアに向かって飛び掛る。

 それがどんな効果かは分からない。だがその禍々しい魔力から察するに、当たれば致命的な状況になるのは理解できた。タニアもセレナも回避優先に、その場から飛び退こうとした。


「ぅ――ぁ、にゃ」


 しかし、セレナはかろうじて避けることに成功するが、そもそもタニアは限界である。既に身体は自由に動かず、立ち上がっているのさえ困難――当然、足がもつれてその場に崩れた。


「タニ、ア――ぅ!?」


 セレナはその悪臭につい鼻を押さえる。

 黒い球体は接触した瞬間、爆裂して黒い液体を撒き散らすと、あらゆる物をドロドロに溶かした。壁、床、タニアの皮膚――瞬きの間に、それらが焼け焦げて、異臭と共にドロドロに溶ける。

 撒き散らされたその黒い液体は強力な酸だった。


「■■■■■、■■」


 紫竜がまた何かのたまった。その視線の先には、重篤な火傷を負った死に体のタニアが居る。

 セレナは慌てて、再度タニアに駆け寄ろうとしたが、瞬間、紫竜の鋭い眼光に射竦められて、ビクリと足を止めてしまった。恐怖で身体が硬直していた。

 セレナが立ち尽くしたのを見て、紫竜はすぐさま意識をタニアに向ける。敵はタニアだけとでも言わんばかりの態度で、その全神経は死に体のタニアに集中していた。


「■■■――――ガグァアアアッ!!」


 紫竜が呪文じみた何かを呟く。直後、轟く咆哮と共に大きく口を開いた。すると、その大口に黒い球体が集まり見る見ると凝縮されていき、程なく紫竜よりも巨大な立方体が生まれる。それはあまりにも禍々しい魔力と、吐き気を催すほどの生臭い異臭を放っており、圧倒的な存在感があった。

 紫竜が一歩、倒れ伏して痙攣しているタニアに踏み出すと、黒い立方体はスッと天井付近まで浮かび上がり、タニアの身体に影を落とす。


「ぁ、ぁ――っ、くっ、タニアッ!」


 セレナは悲鳴じみた声を上げて、全身を縛り付けていた恐怖を振り払う。そしてタニアを庇うように紫竜の前に躍り出ると、無詠唱でもって光の結界魔術【光牢】を展開する。

 上級魔術とはいえ、その程度の結界魔術ではどうにもならないだろうが、何もしないよりマシである。

 震える身体で立ち塞がるセレナと、何もかもを拒絶するような光の壁。それらをつまらなそうに眺めてから、紫竜は前肢を大きく振り上げた。


「■■■■■」


 振り上げられた前肢は、ただただ力任せに振り下ろされた。魔術を伴わない単純なその一撃は、しかし光の壁を呆気なく破り、身構えていたセレナを軽々と吹き飛ばした。当然、セレナも自身に光盾を展開していたが、そんなものではまったく防げなかった。


「ガァ――――ッ、ぐぁ……」


 セレナは無様に床をゴロゴロと転がって、タニアのすぐ傍で血反吐を吐いた。直撃してもいないその一撃で、セレナの右腕と肋骨は折れた。脚はガクガクで力が入らない。冗談に思えるほど狂った攻撃力である。ここまで力量に差があると、もはや笑い話だろう。

 セレナは苦痛に顔を歪めて、体勢を立て直そうと上体を起こした。同時に、治癒魔術で全身の怪我を癒そうと集中しようとして、頭上からの凄まじい威圧に全身を粟立たせる。


「――――なっ!?」

「■■■■」


 慌てて空を仰ぐと、頭上に浮かぶ黒い立方体から手のような影が幾つも伸びてきて、タニアとセレナの身体に纏わり付いた。冷たくおぞましい感触のその影は、二人の身体に纏わり付くが否や硬く重くなる。

 セレナは振り払おうと身動ぎする。だがその影は振り解けず、凄まじい圧力でもってセレナをその場に押さえ付ける。これでは逃げられない。


「ヤバ、っ――!!」


 ゆっくりと落下してくる黒い立方体――セレナは思わず死を覚悟する。見たことのない魔術だが、それが内包する魔力量は、到底セレナでは防ぎきれない。

 直撃すれば即死に違いない。しかし、影に押さえ付けられている今、もはや回避することもままならない。


「――ッ!!!」


 黒い立方体が二人を押し潰す――刹那、セレナの足首が強く掴まれた。

 足元を見れば、それはタニアの手だった。異臭を放つ酸を浴びて焼け爛れた腕で、タニアは縋るようにセレナの足首を握っている。

 何を訴えているのか、セレナは瞬時に理解する。そしてその一縷の望みに賭けて、渾身の魔力でもってタニアに治癒魔術を行使した。


 果たして――――黒い立方体が、内側から弾け飛んだ。


「グゥゥゥ――■■■■」


 弾け飛んだ黒い立方体の破片は、強力な酸の液体となって床や壁に掛かる。ジュワァ、と嫌な音を立てながら、それは悪臭を振り撒いていた。

 そんな光景を前に、紫竜が苛立った様子で何事か口走った。すると、その言葉に応じるように、タニアの声が大部屋に響いた。


「さすがのあちしも、肝が冷えたにゃぁ。さっきのは、ヤバかったにゃ」


 紫竜の視線の先には、満身創痍のタニアが不敵な笑みを浮かべながら仁王立ちしていた。そのタニアの全身からは、湯気のような熱気を伴った膨大な魔力が垂れ流されている。またその傍らには、ぐったりとした様子で座り込むセレナがいた。


 ――黒い立方体が直撃する寸前、セレナの治癒魔術はタニアを蝕んでいた毒を治療して、致命傷のいくつかを治癒することに成功していたのだ。

 そのおかげで、復活したタニアが黒い立方体を破壊することができたのである。まさに紙一重、九死に一生だった。


「■■■■■――」

「――にゃに言ってるか、全然分からにゃいにゃ」


 紫竜の台詞に被せて、タニアは首を回しながらビシッとその胸部を指差した。途端、タニアの全身から垂れ流されている魔力が膨れ上がり、指先の一点に集約し始める。その凄まじい魔力量は、タニアが持てるほぼ全ての魔力のようだった。


「まぁ、けど、お前がにゃにを言っていようと、どうでもいいことにゃ――最期は、一瞬にゃ」


 タニアは高らかにそう宣言して、ニヤリと会心の笑みを浮かべる。そして、これでトドメとばかりの態度で、指先に集まった渾身の魔力を解き放った。

 途端に指先から拡散する緑色をした魔力の光――眩い閃光を伴った幾筋もの光線は、まるで放電現象のようにあたり一面にその枝を伸ばす。タニアの全身全霊とも言える魔力が、大部屋の中を縦横無尽に蹂躙した。

 そんな大魔術を前に、紫竜は警戒した様子で身構える。咄嗟に前肢二つを交差させて、心臓の上辺りを庇っていた。

 紫竜のその警戒は正しい。追い詰められた獲物が放つ捨て身の攻撃は、往々にして冠魔術に匹敵する威力を叩き出す。ましてや、タニアの攻撃はただでさえ凄まじい威力だ。そんなタニアがことここに至って放つ渾身の魔術は、いかな紫竜とて不用意に受けるわけにはいくまい――紫竜はそんな理性でもって、数多の選択肢の中から最も悪手を選んでしまった。


「――グァゥ、ア?」


 紫竜に襲い掛かった魔力光線は、まったく呆気なくその竜鱗に弾かれた。あまりにも薄すぎるその手応えに、身構えていた紫竜は拍子抜けしてしまい、一瞬だけ硬直する。理性があるゆえに、タニアを警戒するがゆえに、その有り得ない状況を理解できなかったのだ。これは布石である。

 そしてこの状況こそ、タニアの狙い通りだった。タニアの目的はただ一つ、紫竜に零コンマ数秒の隙を作り出すことである。

 そもそもタニアの放ったそれは、ただの見せ掛けだ。ただただ莫大な魔力を、指向性なく放出しただけである。魔術にもなっていないこの魔力の光線は、威力としては中級魔術に届くか届かないか程度でしかない。わざわざ防御などしなくとも、紫竜には傷一つ付かないだろう。

 本命は、次の一手である。


「――【魔突掌】!!!」


 タニアは紫竜が意識を逸らした隙に、最速の踏み込みでその懐に潜り込み、胸部に掌を当てる――次の瞬間、紫竜の胸元が爆発して、その背中から肉片が飛び散った。

 紫竜は何が起きたか分からず、驚愕に目を見開いたままポカンと大口を開けていた。

 紫竜の胸部には人二人分の大きさの風穴が穿たれて、心臓ごと肉が弾け飛んでいた。

 零距離から放たれる掌打、魔闘術の中で最強の威力を誇る奥義【魔突掌】――相手の外殻がどれほど硬かろうと、接触さえ出来れば防御力を無視できるその技こそ、タニアにとっての切り札だった。


「■■■……グァ……」


 紫竜はグラリとその巨体を傾げて、か細い断末魔を残して床に倒れ伏す。その巨体に巻き込まれないよう、タニアは慌てて飛び退いた。

 ドォォンと、力なく紫竜の巨体は床に転がり、胸部の大穴から大量の血が流れ出す。


「………………にゃ、はは……どうにゃ」


 自身の血の海に沈んで、ビクビクと痙攣する紫竜の死骸。それを眺めながら、タニアは青息吐息で床に膝を突くと、疲れた笑みでガッツポーズをする。

 チラと背後を振り返れば、セレナが目を瞬かせて、キョトンとした表情を浮かべていた。


「か、勝った、の……?」

「……にゃにゃ、疲れた、にゃぁ……」


 恐る恐るとした声音で問うセレナに、しかしタニアは応えずぐったりと項垂れた。紫竜の死骸は、まだ不気味に痙攣を続けている。


「ね、ねぇ……タニア? アレ、もう死んだ、のよね?」


 脅えた表情で、セレナは紫竜の死骸を指差した。その質問に対して、タニアは大きく深呼吸してから、にゃ、と親指を突き立てて力強く頷いた。


「――死んだ、にゃ。あちしの勝ち、にゃ」


 その言葉を聞いて、セレナはようやく安堵の表情を浮かべる。ふぅ、と緊張を緩めて、疲れたように吐息を漏らした。タニアほどではないが、セレナもだいぶ体力と精神力、魔力を消費していた。


「にゃけど……あちし、もう魔力がほとんど尽きてるにゃ……限界、近いにゃぁ……これじゃ、破壊できにゃい、かも……にゃ」


 タニアはガクガクと脚を震わせながら何とか立ち上がると、紫竜の死骸の背後にある【生贄の柱】に視線を向けて、残念そうにそう囁いた。想像以上にギリギリの戦闘になってしまった。


「……セレナ、お前、大丈夫かにゃ?」


 タニアはよろよろとした足取りで、座り込んだセレナに声を掛ける。


「え、ええ……あたしは、おかげさまで、無事だけど……タニア、アンタ……つくづく化物ね。あたし、死を覚悟したわよ……と言うか、最後の一撃、何よ? 竜種の魔貴族を一撃って、どんな魔術?」

「アレは、魔突掌、って言うにゃ。対魔族の、奥義にゃ。接触してにゃいと意味にゃいけど、対象の魔力核を、内側から破壊する必殺技にゃ」


 セレナの質問に淡々と答えながら、タニアはスッと手を差し伸べる。タニアの珍しいその態度に、セレナは驚いた表情を浮かべつつも、ありがとう、と手を掴んで起き上がった。

 よろけながらも起き上がったセレナに、タニアは申し訳なさそうな表情で頭を下げた。


「……セレナ、ありがとにゃ。解毒してくれて、助かったにゃ。冗談抜きに、結構ヤバかったにゃ……ちょっと、油断してたにゃ」


 素直に感謝の言葉を口にするタニアを見て、セレナはついポカンとしてしまった。普段の不遜な態度のタニアからすると、まるで別人みたいである。思わず絶句する。


「あ、え……うん。別に、お礼を言われるほどでもないけど、さ……あたしも、タニアのおかげで、助かったわけだし……」


 そんなタニアの態度に戸惑いながらも、セレナは恥かしそうに頬を掻き、しどろもどろに答える。タニアはセレナにもう一度頭を下げると、ありがとにゃ、と深く感謝していた。


 ――それほど、タニアにとって今回の戦闘は窮地に追い込まれていた。実際のところ、セレナが治癒魔術を使えなければ、間違いなく全滅していただろう。

 タニアは決して、紫竜を侮っていたわけではない。格上の存在であることは理解していたし、単純な力押しで倒せるとも思っていなかった。確かに若干油断していたのは事実だが、それでも冷静な判断でもって考えうる限り最善の戦術を組み立てて戦っていた。しかし惜しむらくは、紫竜が【毒】と言う搦め手を使ってくると、想定できていなかったことだろう。それがタニアの最大の弱点でもある。

 タニアは自分よりも強者であると認識した存在と戦う場合に、その相手が力押し以外の手段を使ってくると想定しない嫌いがある。それゆえに今回の毒は想定外であり、何ら警戒していなかった為、マトモに喰らってしまった。


「ね、ねぇ、タニア――とりあえず、さ。何とか、魔貴族を倒したわけだし、サッサとあの生贄の柱……立体魔法陣を破壊しましょ。こんなとこ、長居したくないわよ」


 セレナは頭を下げているタニアの肩を叩いてから、紫竜の死骸の背後に立っている【魔神召喚】の立体魔法陣――【生贄の柱】を指差した。

 タニアは困った表情で、分かってるにゃ、と小さく頷いてから、にゃけど、と言葉を続ける。


「……ん? だけど――どうか、したの?」

「あちし――いま、下級魔術さえ展開できにゃいくらい、魔力枯渇してるにゃ。とてもじゃにゃいけど、生贄の柱を破壊する威力の魔術にゃんか、使えにゃいにゃ」


 またもや申し訳なさそうな顔を浮かべるタニアに、セレナはキョトンと呆けてしまった。


「………………」

「………………」


 タニアとセレナが、しばし無言で見詰め合う。大部屋には沈黙が満ちた。


「…………あ、えと――じゃあ、どうするの?」


 たっぷり二分ほど無言の時間が流れてから、我に返ったセレナが口を開く。それに対して、タニアは血塗れの耳を掻きながら、目線をあらぬ方向に向けた。


「出直したい、にゃ――ここまで消耗したの、久しぶりにゃ」

「出直す? まぁ、それは別にいいわよ……そもそも、タニアの高威力の魔術だけが頼りだから、あたし一人じゃどうしようもないしね」


 神妙な様子のタニアに首を傾げながら、セレナは気にした風もなく当然とばかりに了承する。そして、クルリと大部屋の入り口に身体を向けた。


「――それじゃあ、一旦、上の小屋に戻りましょうか?」

「違うにゃぁ。出直す、って言うのは――クダラークまで戻る、ってことにゃ」


 ――――は? と。


 一歩、足を踏み出したセレナは、思わず素っ頓狂な声を上げて、その場に立ち止まってしまった。

 聞き間違いか、と振り返ると、タニアが開き直った様子で胸を張る。


「さすがのあちしも……ここまで消耗したら、睡眠だけじゃ回復しにゃいにゃ。ちゃんとした栄養を摂ったうえで、丸一日にゃいしは、半日の休養が必要にゃ――ともにゃれば、クダラークまで戻って、出直すのが一番合理的にゃ」

「…………上の小屋で、丸一日休養を摂るじゃ、駄目なの? 食事だって、森の中を探せばそれなりに獲物がいるでしょ。わざわざクダラークまで戻らなくても……」

「ミルクが飲みたいにゃ。にゃけど、ここにはミルクがにゃい――だから、クダラークまで戻るにゃ」


 力強く口にするタニアのその理由に、セレナは目を見開いて唖然としてしまう。まさかそんな理由で、とついつい呟いた。


「…………クダラークまで戻る、となると、相応に時間が掛かるわよ? それ、分かってて言ってるのよね?」 


 セレナはフゥと疲れたように吐息を漏らしてから、心底呆れた声でそう問い掛けた。

 クダラークまで戻るとなれば、魔動列車に乗って半日、またここまで来るのに半日掛かるので、往復で丸一日掛かる。しかもクダラークに戻る魔動列車も、デイローウ行きの魔動列車も一日一本だけしか運行していないので、必然的に、街に戻ると次の出発は最短でも半日を要する。つまり、戻る、という選択肢を選んだ時点で、移動だけで一日半以上は掛かる計算だった。その上で休息も摂るのであれば、軽く二日以上のタイムロスとなるだろう。

 そんな事情を理解した上での発言なのか、とセレナは目で訴えた。タニアは少しだけ困った表情で、しかしハッキリと頷く。


「分かってるにゃ。にゃけど、それを天秤に掛けても、ミルクは大事にゃ」


 セレナは肩を竦めて、はいはい、とおざなりに頷いた。

 時間が掛かることを承知の上で、それでもタニアが戻ると言うのならば、セレナには反対する理由がなかった。セレナとしては、それほど時間が掛かることに拘りはない。ただ単に、いちいち街まで戻るのが面倒臭いだけだった。


「……分かったわよ、戻りましょ――まぁ、コウヤからは別に、いつまでに、とか期限を設けられてはないから、怒られることはないでしょうし……」

「安心するにゃ。万が一、ボスに怒られたにゃら、あちしがしっかり説明するにゃ――それに、戻った方がセレナにとっても好都合にゃ? 替えの服、欲しいにゃ?」

「…………当然でしょ? それ、喧嘩売ってるの?」


 こうなったのは誰のせいよ、と文句を口にしつつ、セレナはタニアを強く睨み付けた。その睨みを鼻で笑ったタニアは、おぼつかない足取りで大部屋の入り口に歩いてくる。

 よろけながら歩いてくるタニアのその弱々しい姿に驚いて、思わずセレナは駆け寄った。


「ちょ、タニア、アンタ本当に限界なのね――肩、貸すわよ」


 セレナはすかさずタニアの右隣に並んで肩を入れる。するとタニアは、にゃはは、と苦笑しつつも素直にその肩を借りた。セレナの言う通り、もはや強がることも出来ないくらいに限界だったのである。


「とりあえず、サッサとここを出るわよ――今が何時なのか分からないし、クダラーク行きの魔動列車が次にいつ来るのか知らないけどさ。魔動列車は一本逃すだけで、待ち時間が丸一日なんだから」

「知ってるにゃ……ぅく……にゃはは、こりゃ……我にゃがら情けにゃいにゃぁ」


 タニアは自嘲気味に笑いながら、セレナの肩に体重を預けて、腐臭の漂う廊下を進んでいく。カツカツと二人の靴音だけが、不気味に静まり返った地下通路に響いている。


「……アンタ、少し痩せた方がいいんじゃないの? 結構、重いわよ」

「それは申し訳にゃい。あちし、セレナと違って、胸が重いからにゃぁ」

「…………胸が無駄に大きいと、肩凝るでしょ? 良かった。あたしはそれなりの大きさで」

「そうにゃ、肩凝るにゃ。セレナは肩凝らにゃいのか? にゃんと!? それは、羨ましいにゃぁ」

「…………アンタがここまで弱ってなかったら、どつくところね」


 不気味な沈黙に支配された地下通路を歩きながら、二人は下らない軽口を叩き合った。生き物の気配は感じないが、背後からは何か嫌な空気が漂ってきている。

 そんな雰囲気に背中を押されるように、二人は急ぎ足で薄暗い地下通路から脱出した。

※時系列A-3

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