閑話Ⅱ タニア、悪名を轟かす
タニア編 外伝其の弐
煌夜と遭遇する少しだけ前の話
アベリン滞在四日目の朝、タニアは朝日が顔を出すか否かの白んだ空のうちから、宿屋を出て冒険者ギルドに向かっていた。
タニアは今日、約束通りにアベリンワーム退治の依頼をこなす予定である。
その後の予定は何も考えていないが、少なくともここ二日のうちで、もうこの街に滞在する理由がなくなっていた。
「……次はどうするかにゃぁ……やっぱ、東の【聖魔神殿】かにゃ……それよりも、路銀稼ぎかにゃ?」
タニアは途方に暮れたように呟いて、トボトボと中央通りを歩く。
ふと見上げれば、白んだ空は雲ひとつなくどこまでも快晴で、今日一日もきっと良い天気になりそうだった。
この街に来て、一つだけ良かったと思えることは、気候が安定していて過ごし易いことだけだ。タニアは暑いのも寒いのも好きではない。
タニアは故郷を追い出されてから三年、特に目的もなく世界を彷徨っていた。しかしそれも、もはや終わりにする時期だろうか。
故郷を出るときになんとなく決めた区切り――世界の果てに辿り着いたら、生きる目的を決める。
世界の果てが見えた今、そろそろ覚悟を決めるべきかも知れない。
タニアはポリポリと頭を掻いて、哲学的なことは苦手にゃ、と自嘲の笑みを浮かべる。
そんな物思いに耽りながら歩いていると、いつの間にか冒険者ギルドに辿り着いていた。
途端に、ぐー、とタニアの腹の虫が一鳴きする。タニアはとりあえず思考を今日の魔族退治に切り替えて、早朝五時だというのにそれなりに賑わっているギルドの二階に上って行った。
「お、本当に逃げずに来たぜ。いいねぇ、いいねぇ」
「――あ、お前、あの時の門番にゃ」
ギルドの二階、食事処に顔を出すと、そこでは大勢の冒険者たちが酒盛りをしていた。その中で、見覚えのある顔がタニアに声を掛けてくる。
男は、アベリンに来た時、タニアに声を掛けた門番だった。
門番はあの時と変わらぬ好色そうな笑みを浮かべて、タニアの全身を眺めてから舌なめずりをすると、ジョッキの酒を一息に呷る。
タニアはしかし、そんな門番など無視して、とりあえずカウンターの端に座って食事を注文する。そこにゼペックが現れた。
「くくくく、まさか本当に言っていた通りに来るとはな……儂が賭けに負けたのは、久しぶりだ。それにしても、本当に今日でいいのか? 依頼に失敗すれば、キミはもう逃げられないのだぞ?」
「別に、いつやっても結果は変わらにゃいにゃ。にゃら、サッサと終わらせるに限るにゃ――食事するから、黙っててくれにゃいか?」
「ふっ、くくく……そうだなぁ。自由でいられる最後の朝食だ。ゆっくりと味わいたまえよ」
ゼペックは薄笑いのまま、酒盛りをしている冒険者たちの席に戻っていく。
タニアはそれを一瞥して、カウンターに置かれた定食に手を付ける。ライスにサラダ、肉モドキのスープと言う献立で、早い、安い、不味い、を見事に達成しているその定食は、相変わらず今日も空腹を満たすだけで、ちっとも舌を満足させてはくれなかった。
タニアはものの数分で、飲むように食事を食べ終えてから、食後の一息にミルクを呷る。これがこのギルドの食事で、唯一心休まる瞬間だった。
「……さてと、にゃ。腹ごしらえも済んだから、そろそろ依頼をこなすにゃ。にゃぁ、北門の許可証を寄越すにゃ」
ミルクを飲み干してしばし呆としてから、タニアはグーッと背伸びをすると、酒盛りしているテーブルに近付いてゼペックに声を掛ける。
酒盛りしている連中は、みな最初の日にタニアとゼペックのやり取りを眺めていた冒険者たち、つまりは、ゼペックの取り巻き連中だった。
ゼペックは、近付いてきたタニアにニンマリと微笑み、騒がしい連中を右手一つ挙げることで黙らせる。そして、若い冒険者の一人からまた何やら書類を受け取って、それをサッと確認するとタニアに見せた。
「これが、北門の開閉許可証だ。さて、それでは諸君、そろそろ最大の見せ場だ。儂らも、行くとしようではないか」
「――お前たちも来るのかにゃ?」
「当然だろう? 儂らは見届け人だよ。キミが依頼をちゃんとこなすかどうかのね。だいたい、ここでキミに逃げられても困るし、ましてや、死なれたらもっと困る。キミは儂らの大事な大事な玩具になるのだ。しっかりと見守らねばな。何か問題があるか?」
ゼペックは勝ち誇った笑みで顎鬚を撫でている。その余裕の笑みに、タニアもにこやかな微笑を見せる。
これはタニアにとって望外の展開だった。最終的に、ここの連中は皆殺しにする予定だったので、それを魔族退治と一挙に行えるのであれば、まさに一石二鳥、手間が省ける。
魔族退治にかこつけて事故を装い、ドサクサ紛れに皆殺そう、とタニアは楽しそうに考えた。
「……ん? 何だ? 何を笑って――」
「にゃははは、にゃんでもにゃいにゃ。ちなみに、今日はオルドは、いにゃいのかにゃ?」
「あ? ああ、オルドか……くく、今頃は、儂の屋敷でぐったりしておるさ。キミが手に入れば当分の間は、オルドの相手はしないつもりだからな。抱き納めのつもりで、昨晩はここの皆で愉しんだものだ」
下卑た笑みを浮かべて、吐き気のするような台詞を口にするゼペックに、タニアはつい顔を引き攣らせる。思わず、無意識に手が出そうになったが、しかしそれも堪える。
ゼペックが尊大な態度を取っていられるのも、今の内だけである。どうせ、タニアがアベリンワームを駆除すれば、この表情は絶望に彩られて、無様で哀れに許しを請うことになるのだ。
今は嫌でも我慢しよう。
タニアは不愉快さを飲み込んでそれ以上何も言わず、ゼペックの持っている許可証を奪うようにひったくると、そのまま二階から下りていく。
その場にいた冒険者たちは、慌てた様子で酒盛りを中断して、ゼペックを筆頭にして笑いながら付いてくる。
ぞろぞろと、朝日が昇り始めた中央通りを、北にそびえるアベリンの城塞に向けてタニア一同は歩いていく。
その数は三十余名、皆が皆、完全装備をした屈強な冒険者である。
先頭はタニアで、殿がゼペック。傍目から見ればそれは、騎士団か何かの凱旋のようにも思えた。
アベリンの城塞は近付くにつれてその威厳さを増していき、目の前に辿り着く頃には、見る者に言葉を失わせるほどの荘厳さを放っていた。まさに難攻不落の堅牢な城と言った雰囲気で、このアベリンを城塞都市の名前で知らしめるだけの象徴に相応しい様相だった。
そんな城塞の周囲は、5メートルほどの幅をした深い堀に囲まれている。その堀を越えるには、城塞に架かる唯一の跳ね橋を下ろしてもらわねばならず、その操作は城塞内部からしかできない構造だった。
つまり、城塞内部の許可がなければ、跳ね橋を渡ることはおろか、架けてもらうこともできないのである。
また、城塞からは街を覆う外壁が東西に伸びており、城塞を無視して北から街を出る方法はない。一応、西門や東門から回り込んで、北に抜ける方法自体はあるが、それは少なくとも現実的ではない。
北側の外壁には、かなりの見張りが控えており、許可なく北に行こうとする不審者を、二十五時間ずっと監視し続けている。
タニアは、跳ね橋の袂にいる四人の番兵に許可証を見せる。すると番兵は無表情で頷き、城塞に向けて手旗信号を送る。
ほどなくして跳ね橋が稼動して、城塞への橋が架かった。
「……ここを踏み出せば、もはや戻れぬぞ? この世に後悔はないかね?」
タニアが足を踏み出そうとした瞬間、最後尾のゼペックが楽しそうにそう問い掛ける。
その台詞に、タニア以外の一同は失笑していた。タニアは、これ見よがしに溜息を吐いてから、仕方ないとばかりに問い返す。
「あちしの台詞にゃ。アンタたちは、後悔にゃいのかにゃ?」
「「「「ガハハハハハハ――ッ!!」」」」
タニアの台詞に一同は大爆笑した。それを見て、タニアは諦めたように首を振ってから、迷わず足を踏み出す。その後ろを、しばらくの間、爆笑が付き従った。
北門は城塞の入り口を通り過ぎて、真っ直ぐに五分ほど進んだところにあった。
西門、南門、東門よりも尚いっそう巨大な北門は、他の三つの門と違って、強固な魔術結界が施されていた。
タニアはその魔術結界を見て、思わず目を見開いて驚愕する。
この魔術結界は、聖級魔術だ。それも、かなり凄腕の術者が施したもので間違いはなかった。物理的にも、魔術的にも、この北門が凄まじく堅牢なのが見て取れる。おそらく、この門を壊す為には、アベリンの街一つを灰燼に帰すほどの魔力量が必要になる。
これほどまでに堅牢にしなければならないほど、アベリンワームは手強いのだろう。タニアは無意識に笑みが零れた。
「…………諸君。分かっていると思うが、今回はタニア君一人で闘うらしい。手は出してくれるなよ?」
一方、別の意味でゼペックは笑みを貼り付けたままだったが、どこか緊張した声音で三十余名に忠告する。しかしその言葉には、油断するなよ、という意味が含まれているようだった。
爆笑していた冒険者たちは、皆が皆、真剣な表情で息を呑んでいる。
そんなゼペックたちとは裏腹に、タニアはまったく構えずに、轟音を立てて開いた北門から飛び出した。
北の大地は広漠とした砂漠地帯だった。見渡す限り草一本生えておらず、遠目に見えるのは北の国境線――【龍神山脈】である。
西を向けば、急峻な山岳地帯がぼんやりと茶色を見せており、東を向けば、どこまでも続く地平線と、その中にポツポツ点在する森の緑が見える。
タニアは、吹き付けてきた砂塵に目を細める。同時に、スッと自然に身体が身構えた。
すると、ギギィ、と北門が轟音を立てて閉まる。どうやら、決着するまでは街に戻れないらしい。
「■■■■■■!!」
その時、ゼペックが何語か分からぬ言語で、目の前に広がる砂漠に向かって叫んだ。そして右手を大きく空に突き上げる。
見ればその右腕には、不思議な輝きを放つ腕輪が装備されており、そこからうねる魔力が解き放たれている。
それからしばし経ち、ゼペックが腕を下ろした瞬間、その周囲一帯が濃厚で粘着的な魔力で満たされた。息苦しいほど濃密な死の気配と、肺が焼けるような濃度の魔力――それが、砂漠の下から溢れ出してきた。
タニアが素早く鑑定で索敵すると、ちょうど目の前の砂漠に、タニアを凌駕する魔力量を持った巨大な生き物が隠れていることが判明する。
「……にゃんと、魔力量が254もあるにゃ。にゃにゃにゃ、相手にとって、不足にゃしにゃ」
タニアはペロリと唇を舐めてから、両拳に魔力を込める。
敵は確かに、尋常ならざる存在――オルドの言っていた通り、魔貴族に間違いないだろう。その威圧は凄まじく、存在感だけで戦意を失うほどに凶悪な気配だった。
ヒッ、と背後の冒険者の誰かが短く悲鳴を上げた。
うわぁ、と情けない声を上げて、発狂したように砂漠に走り出す馬鹿もいた。その馬鹿は一瞬後に、砂漠から姿を現したそれに丸呑みにされる。
「チッ――馬鹿が。気を強く持て! 先走るとああなるぞ、諸君。くれぐれも、手を出すな」
ゼペックが忌々しげに呟き、他の冒険者たちに釘を刺している。
しかし釘など刺さなくとも、冒険者たちは立ち竦んで硬直していた。どいつもこいつも想像通りの雑魚揃いだった。
グァアァァアア――、と砂漠から現れたそれは、不協和音の雄叫びを上げた。
魔力が含まれているその音響攻撃は、耐性がなければ、発狂するか失神するだろう響きである。
タニアにはまったく効かないが、背後では何人かが失神して、同じ数だけ発狂した輩がいた。ただ発狂した者は、他の冒険者たちに取り押さえられて気絶させられている。
現れたそれは、巨大な大蛇――双頭の大蛇である。
全長はおよそ20メートルを軽々超えるだろう。身体の半分を砂漠に埋めたまま、二つの首を出して長い舌をチロチロと躍らせていた。
その額には、剣のように鋭利な角が生えており、その体表は、一部の隙もなく鋼のような鱗で覆われている。
手や足の類はない。だが、そのうねる胴体から放たれている魔力が、まるで触手のように砂漠一帯に伸びている。
「■■■■」
キィイイン――と、甲高い音を響かせつつ、アベリンワームは先ほどのゼペックと同じ言語を喋った。その瞬間、タニアはそれが魔神語だと知る。
ゼペックは魔貴族アベリンワームと、何らかの取引をしているようだ。
「■■■■■■」
「■■■■」
「■■?」
「■■■■」
アベリンワームは無機質な瞳でタニアを睨み付けながら、ゼペックと二言、三言会話をする。
すると、交渉が成立したのか、はたまた失敗したのか、突如、カロロロロ――と、不思議な鳴き声を上げて、胴体から放たれている魔力の触手を、背後の冒険者たちに伸ばした。
ゼペックを含めて、その場の全員が驚愕に瞳を見開いていた。
「■■!!」
ゼペックが悲痛な顔でタニアを指差しながら叫ぶ。しかしアベリンワームは、その視線をタニアから動かさず、冒険者たちに魔力の触手を巻き付ける。
触手の速度は、弓矢よりも速い。冒険者たちはろくに反応もできず、為すがまま触手に捕まった。次の瞬間、バキボキと嫌な音を鳴らして、冒険者は鎧ごと胴体を握り潰された。
一瞬で、三十余名いた冒険者は半数以下に減る。
「マズイッ――くそ、逃げるぞ!!」
触手から何とか免れたゼペックと他の冒険者は、慌てた様子で北門をドンドンと叩きだす。けれど北門はそう簡単に開かなかった。
「――おい、いったいどうなってんだ! ゼペック爺さん、アンタ【従魔の腕輪】で、魔族を操れるんじゃないのかよ!?」
「チッ――魔貴族は、操るには至らぬ。だが、交渉は出来る」
「交渉出来て、どうして襲われるんだっ!」
「…………代価を、求められている。割に合わぬ、と」
生き残った冒険者たちが北門をドンドンと叩く間、比較的冷静な冒険者の一人がゼペックとそんな会話をしていた。
一方、触手に握り潰された冒険者たちの亡骸は、アベリンワームが綺麗に丸呑みしていく。鑑定で見ると、アベリンワームの魔力量が一人喰うごとに増加していた。
「……にゃるほど、あちしを殺す為に、万全を期すってわけにゃ。上等にゃ」
タニアは額から緊張の汗を流しつつ、不敵な笑みをアベリンワームに向ける。
アベリンワームはしかし、タニアを睨み付けたまま、距離を詰めることなく生き残りの冒険者たちだけを狙っていた。
アベリンワームは、タニアと相対したその瞬間、本能でタニアの強さを理解していた。
タニアが自分と同格レベルの強者であり、まともに戦えば決して無事では済まないだろうことを見抜いていた。
だというのに、ゼペックが先ほど提示した条件は、タニアを戦闘不能にすれば、生贄を何人か提供するというモノである。それは、あまりにも割に合わない。
命を賭けて、しかも無事で済まない相手に、手加減など出来ない。
だからアベリンワームは、その場の全員を先に喰わせることを条件に、タニアと闘うことを了承したのである。その結果が今のこの状況だった。
助けて、と情けない悲鳴を上げて、一人また一人と冒険者たちは触手に捕まり飲み込まれていく。その間、タニアは一歩も動かず、またアベリンワームも微動だにしなかった。
当然、北門は開かない。
しかしその硬直状態も、冒険者たちが残り五人ほどになった時、ようやく動き出した。残った冒険者たちを見て、タニアが口を開いたのである。
「にゃあ、お前ら。助けて欲しいかにゃ?」
アベリンワームから視線は切らず、背後で命乞いをする冒険者たちに問う。冒険者たちは藁にも縋る思いで、叫ぶように懇願した。
「あ――ああ、助けてくれっ! 助けてくれたら、何でもするっ!」
「ホントかにゃ?」
「ああ、本当だ。もう獣族を差別したりもしないし、奴隷に酷いこともしないっ!」
「俺も、俺も助けてくれ、助けてくれたら、金をやる――ぐ、助けてっ!」
冒険者たちは必死に懇願しながら、迫り来る魔力の触手を切り伏せている。その泣き叫ぶ恐怖の声を聞いて、タニアは満足げに頷く。
「にゃにゃにゃ。その台詞を聞きたかったにゃ――【魔装衣・天族】」
タニアは静かに呪文のような宣言をする。それは、集中の世界に踏み込む鍵のような儀式である。
タニアの精神は、その呪文じみた技名の詠唱と同時に、集中の世界に埋没した。刹那、爆発するようにタニアの全身から魔力が迸る。
それは【魔装衣】――ここ五百年の間に、獣族の中で失われてしまった【魔闘術】と呼ばれる戦闘技法の中で、奥義に数えられている技の一つである。
この技は非常に単純で、内在する魔力を身体の外側に解き放ち、無敵の鎧と成す技だった。質量のない魔力が全身を覆う衣となり、身体能力が数十倍から数百倍に跳ね上がる奥義である。
一方で魔装衣はその弊害として、人体以外の異物――つまり、装備している防具や服の重さを数十倍にしてしまう。その為タニアは、極力防具を装備できないのである。
本来、獣族は裸で闘う。それが故に、魔装衣が真価を発揮するのは、何も身に着けない裸だった。だが真価を発揮できずとも、その効力は凄まじい。少なくとも、100キロの重りを身体に付けていてさえ、身体能力が十倍以上になれば苦ではなくなる。
さて、魔装衣はタニアの身体を包み込み、その背中から、まるで天族の如き四対の翼――魔力の翼を展開させた。
タニアの身体が、数センチだけ宙に浮かぶ。
「にゃはは、それじゃあ、お前ら、全員お別れにゃ――潔く死ぬにゃ」
「助け――は?」
「ァガゥォオオ――ッ!」
タニアはアベリンワームに対峙したまま、その両手を広げた。すると五指の爪先から五つの小さな魔力球が生まれて、瞬間、その腕を大きく前に一回転させる。
アベリンワームはその動作を見るが否や、すかさず叫んで土属性の聖級魔術を放った。
アベリンワームの展開した魔術は、飛来する無数の隕石だった。
中空から突如現れる直径5メートルを超える隕石群、それが一斉にタニアたちのいる北門に向かって、驟雨の如く降ってくる。避けることなど出来ない。
冒険者たちは、ゼペックを除いて全員絶望した表情になった。
ドドドドド――と、滝のようにも聞こえる鼓膜を破くほどの轟音。それが一分間ほど、北門とその周辺を穿ち続ける。
やがて、その轟音が鳴り止むと、その周辺には巨大なクレーターが幾つも出来ていた。
北門はそれでも無傷だったが、外壁にはところどころ穴が開いている。そしてその場には、無傷で宙に浮かぶタニアと、磨り潰された冒険者たち、半死状態のゼペックが転がっていた。
冒険者たちは全員圧死しており、ゼペックは半身を吹き飛ばされた状態で虫の息である。
「ぐふっ――化け、物……」
「にゃははは、よくもあちしの【魔喰玉】を耐えれたにゃ――ちょっとだけ見直したにゃ」
タニアはそう言いながら、空中でふわふわと漂っていた魔力球を手のひらに戻した。同時に、ドゥン――と、アベリンワームが砂漠に倒れ伏す。
見ればその双頭は、片方が木っ端微塵に吹き飛んでいた。
タニアはアベリンワームの魔術と同時に、その魔力球を振るい、冒険者たちとゼペック、アベリンワームにそれをぶつけていた。
冒険者たちはその魔力球を無防備に受けて即死し、アベリンワームもその餌食になった結果、頭を吹き飛ばされた。ゼペックは何とか耐えたようだが、それでも半身は吹き飛んでいる。まったくいい気味である。
タニアが放った【魔喰玉】は、術者の意思で自在に動き、接触した物質を問答無用に内側から爆発させる魔闘術の一つだ。
その爆発の威力は、1トンの重りを1キロ吹き飛ばすほどであり、接触したが最後、ほぼ確実に獲物を弾けさせることが出来る――とはいえ、同程度の魔力壁で防御するか、そもそも避けきれば、封じることは容易い。
どうやらゼペックは、タニアの魔喰玉と同程度の魔力壁を展開できる実力者らしい。
少しだけ甘く見ていた、とタニアは反省した。だがまあ、これでゼペックはもう戦闘不能だ。放って置こう。
タニアは改めてアベリンワームに向き直る。
アベリンワームはぐったりとして、残った片方の頭でタニアをジッと見詰めている。それは一見すれば、もう降伏している風にも見える。
もはや死に体、勝負は決した――そう感じても、仕方ない状況に思える。
けれど、実際はまったく違うことを、タニアは理解していた。アベリンワームの魔力量は些かも減っていない。のみならず、その全身から伸びている魔力の触手は、タニアに飛び掛るタイミングを計っている。
タニアは魔力球を霧散させると、翼をはためかせる。そして、まるで天族のように空中を自在に飛んで、アベリンワームの背後に回り込んだ。
正面には北門とゼペック、アベリンワームを据えて、弓を引き絞る姿勢で魔力を拳に溜めた。
その様を見て、アベリンワームは油断が誘えないことを理解すると、魔力の触手をタニアに向かって伸ばした。
タニアは避けない――否、避けることが出来ない。
タニアが放とうとしているのは、【魔槍窮】と呼ばれる奥義である。これは、溜めの時間だけ無防備になる欠点があった。
タニアの身体に無数の触手が絡み付く。それは凄まじい圧力でタニアの全身を押し潰した。だが、その程度では魔装衣は破れなかった。
アベリンワームは触手で止められないことを理解して、瞬時に身体を起こす。吹き飛んでいた片方の頭も一瞬で再生させて、もう一度、隕石群を召喚させる。
しかも今度は、先ほどよりもより多く、より高い位置から、タニアだけを狙って展開――したが、時は既に遅かった。
隕石群が落ちてくるよりも先に、タニアが右手を突き出す。タニアの魔槍窮が炸裂する。
それはまさに槍の形をした弓矢だった。
無音の矢が、地面スレスレを燕の如き軌跡で飛翔して、アベリンワームの胴体に突き刺さった。刹那、ドパン、とアベリンワームの身体が霧散する。なんともあっけない。
けれどそれでも魔槍窮は止まらない。勢いそのまま、ゼペックの脇を掠めて、北門に激突した。
ギィイイ――と言う金属の悲鳴じみた爆音と、太陽を思わせるほど眩い閃光が巻き起こり、次いでガラガラと外壁が崩れる音がした。
果たして、砂埃と巻き上がった粉塵が収まると、そこには、全壊した北門と、脆くも崩れ去った外壁の瓦礫が転がっていた。
冒険者たちの死体はその瓦礫に押し潰されて、まるで墓標である。タニアは満足げに頷いた。
「…………ぐ、くそ……まさか、こんな」
ふと見ると、ゼペックは魔槍窮の衝撃で吹っ飛んでいたが、まだ生きていた。
しかも逃げるだけの余力もあるようで、半身が吹き飛んだまま、足を引きずりながらも、崩れ去った北門の中へと消えていった。
「にゃにゃにゃ……にゃかにゃか、しぶとい男にゃ。まぁ、とりあえず泳がせておくにゃ」
タニアはそう呟いてから、魔装衣を解除せず砂漠に降り立つ。
そしてわざと分かり易い隙を見せて、周囲を見渡した。すると突然、タニアの足元に流砂が発生して、何かがタニアの足を強く引っ張った。
タニアは不敵な笑みのまま、足元の流砂に意識を向ける。
流砂の下には、アベリンワームの頭が埋まっており、それがタニアの足に噛み付いていた。
魔装衣の防御力のおかげで、傷こそ付かない。だがその引っ張る力は凄まじく、地面と同化してしまったのかように動く気がしなかった。
「――やっぱ、そう簡単じゃにゃいにゃぁ……にゃけど、これで最後にゃ」
流砂は凄まじい勢いで辺り一帯を飲み込み、あっという間にタニアの身体のほとんどを砂に埋める。もはや腕を動かすことさえ出来ず、その上、腰の辺りまでアベリンワームの口の中に納まっていた。さらには駄目押しとばかりに、タニアの目の前にもう片方の頭が姿を現す。
爆散したはずのその身体は、先ほどの頭と同様に元通り再生していた。
「■■■■!!」
現れた一つ頭のアベリンワームは何やら魔神語で叫ぶと、隕石よりも尚速い動きで、タニアを丸呑みにしようと喰い付いてくる。
この状況で、油断は微塵もなかった。さすがに魔貴族と呼ばれるだけの存在だ。敵を完全に殺しきるまで油断はしないらしい――タニアと同じである。
タニアは身動きできずに、アベリンワームに頭から喰い付かれる。視界が暗闇で包まれて、鉄が溶けたような腐臭が鼻を刺激する。
アベリンワームの牙が、魔装衣の防御を突き破ってタニアの剥き出しの腹部に突き刺さった。さすがの激痛に、タニアは笑みを崩して顔を歪めた。
そのまま流砂はアベリンワームごと何もかもを砂に埋めて、一帯は仮初の静寂で満ちた。
きっとこの光景を見ている誰かがいたならば、タニアが死んだと思ったに違いない。アベリンワームに喰われて、その上で砂に埋まったのだ。生きていると考えることがそもそも出来ない。
しかし、それは常人の感性である。タニアも、もちろんアベリンワームでさえ、この程度で決着するとは考えていなかった。
アベリンワームは砂に完全に埋もれてから、自身を巻き込んだ上で最大最高の魔術――土属性の【冠魔術】を詠唱した。
それは、一歩間違えば己ごと殺しかねない最悪の魔術だ。
半径5キロ四方を壊滅させる局地大地震の魔術である。マグニチュード10の破壊をもたらす極大威力の大魔術――それを、自身の口内を震源地として、タニアを殺すべく展開させた。
砂漠が波打った。
アベリンを囲む外壁がまるで蒟蒻のように揺れて崩れた。地震の余波はそのままアベリンの街中を襲って、城塞にある監視塔を含めて、背の高い建物の大半を倒壊させる。また、民家が密集していた東地区の一部で大火事が発生して、中央通りの真ん中付近に地割れも起きた。
死傷者は数え切れないほど、街中は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
――後に、アベリンの人々はこの出来事を【タニアの災厄】と名付けた。
そして当事者であるタニアを【破壊大帝】または、【大災害】と呼ぶようにもなるが、それはまた別の話である。
さて、アベリンの街がそんな風に騒然となっている一方で、アベリンワームとタニアの静かな攻防は最終局面を迎えていた。
アベリンワームの口内で発生した局地大地震は、そのエネルギーの半分以上をタニアの体内に直接与えることに成功する。
タニアの魔装衣は外的な攻撃を防ぐことには強いが、内側からの振動は防げない。タニアは脳と内臓に凄まじい振動を受けて、平衡感覚を見事に破壊されていた。その上で、腹部に突き刺さっていた牙からは毒が注入されており、意識が朦朧とし始めていた。割りと危険な状態である。
――けれど、アベリンワームはそれ以上のダメージを受けている。
タニアはアベリンワームが【冠魔術】の局地大地震を展開したと同時に、その口内で【魔突掌】と呼ばれる奥義を放っていた。
それは零距離で放つ魔力の掌打であり、その威力は魔闘術の中で最強である。特に、死に難い生き物を相手にする場合に、非常に有効な奥義だった。
魔突掌は、対象に接触している状況でのみ使用可能とやや使い難いのが欠点だが、対象の魔力を読み取り、その魔力核を直接爆発させることのできる究極奥義でもある。
これならば、どれほど再生速度の早い生き物だろうと、一撃の下に即死させることが可能だった。不死でない限り、魔力核を破壊すれば、魔王属だろうと殺しきれる。
タニアの上半身に喰い付いていたアベリンワームは、口内で放たれたその魔突掌により、魔力核を傷付けられて再生が出来なくなっていた。長い胴体もその内側から弾けており、流砂ごと地面を捲り上げている。
さらにタニアの足に喰い付いていたアベリンワームは、もう片方の手で放った魔突掌により砂の奥で砕け散り、見事に絶命していた。
ちなみにアベリンワームを吹き飛ばした反動で、タニアは無事に流砂から逃れている。
「……にゃは……思ったより、しんどかった……にゃ」
タニアはパタリと砂の上で大の字に寝転がり、仰向けで日の昇りきった空を見上げていた。
乾いた風が、砂埃をもうもうと舞い上げている。けれどやがて、その砂埃は強い風に吹き飛ばされる。
するとそこには、顔の半分を失くして、それでも尚生きているアベリンワームがいた。
「――グァオ、アガァァアアッ!!」
アベリンワームは擦れた絶叫を上げている。
既にアベリンワームにはその胴体がなく、片方の頭だけになって、それを魔力の触手で支えている状態だった。その有様はあまりに異形だが、もはや放っておいてもいずれ死滅するだろうことが見て取れる。
しかしアベリンワームは自分だけで死ぬ気はないらしい。タニアを道連れにすべく、最後の力を振り絞っていた。
「にゃははは…………もう、手も上がらにゃいにゃ……」
タニアはそんなアベリンワームを見上げながら、乾いた笑みを浮かべる。
もう降参とばかりのタニアの態度と、その瀕死の状態を見て、アベリンワームは相打ち覚悟の玉砕戦法から、急遽、余力を残した魔術に切り替えた。無詠唱で展開するのは、無数の隕石群ではなく、巨大な土塊の戦槌だった。
しかしそれは――あまりにも、決定的なミスである。
「――最後の最後に、ちょろいにゃぁ」
大の字に寝そべるタニアに振り下ろされる土塊の戦槌――けれどそれは、タニアに辿り着く前に霧散する。
寝そべったままのタニアの指先から放たれた【魔喰玉】が、土塊の戦槌を吹き飛ばして、その勢いのままアベリンワームの顔を爆散させていた。
これがもし、無数の隕石群であったならば、おそらくタニアも瀕死だったろう。
しかしアベリンワームは、知恵あるが故に油断して、それが敗因になったのである。
魔貴族【アベリンワーム】は、その剣のような角だけを残して、肉片も残らず飛び散った。辺りは静寂に包まれて、アベリンの街から流れてくる悲鳴だけが、かすかに響いている。
そして、しばらくそのまま寝転んでいたタニアは、もはや何の奇襲も来ないことを確認してから、スクッと立ち上がった。
「にゃ……ちょっとクラクラするにゃ……」
タニアは貧血じみた立ち眩みを覚えて、その場によろける。だがその程度である。
かなり際どい闘いではあったが、結果だけ見れば、タニアは五体満足で、余力もまだ残っていた。つまりは圧勝と言える結果だった。
「……さて、と。オルドを救いにいくかにゃ……」
タニアはもつれそうな足でしっかりと砂漠を踏みしめながら、逃げていったゼペックの後を追って、その屋敷に向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「姫様、わざわざお手を煩わせてしまい、大変申し訳ございません。本当にありがとうございます」
「姫様、助けて頂きまして、本当にありがとうございます」
アールーとウールーの謝辞を受け取りながら、タニアは満足げな表情でオルドに顔を向ける。
オルドは涙をポロポロと流しながら、土下座する勢いでその場に平伏し、タニアに頭を下げる。
「――本当に、感謝してもしきれません。タニア様、ありがとうございます。このご恩、わたくしの命に賭けても、いつか返させて頂きます」
「よすにゃ。あちしが勝手にやったことにゃ。まぁ、むかつく悪党を根絶やしにするついでにゃ、ついで」
崩れているゼペックの屋敷の一角で、囚われていたオルドとその姉妹を助けて、タニアはこれでようやく一仕事を終えた気になっていた。
タニアはアベリンワームを駆除してから、だるい身体に鞭打ってゼペックの屋敷にやってきた。
そして、地下に幽閉されていたオルドを救い出してから、屋敷の牢屋で鎖に縛られていたアールー、ウールーも助けたのである。その際、遅れて戻ってきた半身のゼペックと遭遇して、下らない押し問答をしたが、ちょうど運悪く、ゼペックは屋敷の崩落に巻き込まれて潰れて死んだ。
それを目の当たりにした三姉妹は、これでようやく自分たちが解放されたことを悟って喜んだ。
こうして、三姉妹はやっと自由の身になったのである。
――今はまさに、その喜びを噛み締めていた瞬間だった。
ひとしきり三姉妹が自由を喜び合った後、タニアは三姉妹と連れ立ってゼペックの屋敷を出ると、比較的被害の少なかった貧民街に向かった。
まずは三姉妹の寝床を探すのが先決だろう、との判断である。
「……にゃぁ、オルド。住む場所とか、心当たりはあるかにゃ?」
貧民街を歩きながら、ふいにタニアはオルドに問い掛けた。オルドはゆるく首を振る。
その答えは当然だろう、とタニアは悩ましげに頷いた。奴隷の生活しかしていなかったオルドが、何らかのツテを持っているはずがない。
そもそもオルドは大人びて見えるがまだ十五歳、アールーやウールーと同じ歳である。
ちなみに、三姉妹は三つ子らしい。ずいぶんと身長差のある姉妹だなと思ったが、鑑定で見ても嘘はなかった。
さて、それでは三人をどうするか――そこまで面倒を見る義理も責任もなかったが、なんとなくタニアは三人を助けたかった。
同情か、憐憫か、そのどちらだろうと、結局はただの自己満足でしかないが、なぜか見捨てられなかった。
「……あ、あの、姫様。アールーたちは、その……大丈夫です。宿屋に住み込みでもして……自分たちで、何とかしますから……これ以上、姫様にご面倒をお掛けするわけには――」
「――にゃにゃにゃにゃ! それにゃ、アールー!」
「――は? え? なにが、ですか?」
タニアが難しい顔で悩んでいるのを見て、アールーは遠慮がちに助けを断る。けれどその断りの台詞で、タニアはピンと閃いていた。この案ならば、自己満足以外の何でもないのに関わらず、三人が三人とも助けられる案だった。
そうと決まれば、とタニアは早歩きになって、三人を先導する。行く先は、ギルド指定の宿屋【獣人館】だった。
「……ここは?」
「宿屋、ですか?」
「姫様? どういうことなんです?」
宿屋は大地震でもあまり影響はなく、常に崩れそうなボロいままの外観だった。相変わらず店の外には瓦礫が積んである。
タニアは三者三様の反応をしているオルドたちに、ニヤリと微笑んでから、宿屋に入っていく。恐る恐ると三姉妹もそれに付き従う。
「……あ、お帰りなさいませ……そちらは?」
「にゃぁ、お前。死にたくなければ、この宿屋をあちしに寄越すにゃ」
「………………は?」
タニアは宿屋に入るが否や、カウンターに立っているひょろ長の胸倉を掴み上げて、真顔でそんな脅しをした。
ひょろ長は混乱の表情で、しかし怯えながらもハッキリと首を横に振る。
「にゃあ、もう一度だけ言うにゃ。この宿屋を、あちしに、譲渡するにゃ」
「……い、いや……丁寧に、言い直しても、それは……無理、ですよ」
話の展開に付いていけない三姉妹は、店内でオロオロとそのやり取りをただ眺めている。珍しくロビーにいた数人の客たちも、そのやり取りを目にして、戦々恐々と状況を見守っていた。
タニアは、殺意を込めた笑顔で、最後通牒にゃ、と前置いてから、もう一度だけ問い掛けた。
「にゃあ、この宿屋、あちしにくれにゃいかにゃ?」
「む、無理、ですって――――ぐぉ、ぁ……」
「じゃあ、仕方にゃいにゃ。お前、さっきの地震に巻き込まれて死んだにゃ」
タニアの問いに、ひょろ長はなけなしの勇気で首を振って、次の瞬間、心臓を潰されて絶命した。
情け容赦なく、まったく平然と、タニアは事故だと言い訳しつつ、同族をゴミみたいに一撃で殺した。その凄惨な光景を目にした他の客たちは、これ以降、タニアに決して逆らわなくなったが、これもまた別の話である。
タニアはひょろ長の死体をポイと道端に投げ捨てると、オルドたち三姉妹に向き直って頭を下げる。
「にゃあ、オルド、アールー、ウールー。三人で、この宿屋を運営してくれにゃいか? 今ちょうど、この宿屋の店主が不慮の事故で死んじゃったにゃ。にゃので、あちしの寝床と食事が困るにゃ……どうかにゃ?」
それは突拍子もないやり取りで、誰が見ていても悪の所業だった。しかし物事の善悪を語れるほど、オルドたちは清い身体ではない。
オルドはチラッと、二人の妹に視線を向ける。
アールー、ウールーは明らかに困惑していて、そのパッチリとした目を点にしていた。そんな様を見てからしばし考えると、やがて笑顔で力強く頷いた。
「――かしこまりました。タニア様の望むまま、ありがたくこちらの宿屋をお預かりいたします」
「「お姉ちゃん!?」」
「にゃにゃ……頼むにゃ、オルド」
こうして、この宿屋は【獣人館】から名前を【オルド三姉妹亭】と改名して、四色の月が三巡する間に、貧民街でも有数の宿屋へと成長を遂げることになるのだった。
※後書きは変更履歴とします。
10/8 日付部分のみ修正「滞在三日目」→「滞在四日目」