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神隠しに遭ったら、異世界に居ました。  作者: 神無月夕
外伝 それぞれの戦い
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閑話ⅩⅥ ヤンフィVS

 煌夜を次元刀エウクレイデスで飛ばしてから、ヤンフィは改めて、ライム・ラガムの器――レーヌ・ラガム・フレスベランに向き直る。


「……ねぇ、魔王属(ロード)ヤンフィ。キミは、ボクに勝てる未来が視えているのかな?」


 レーヌが溜息混じりそんなことを口走る。それに苦笑を浮かべて、ヤンフィは強気に返した。


「妾が負ける未来なぞ視えぬのぅ」

「ふぅん……少鷲の言う通り、だね。確定した未来視、ではないのかな?」

「それこそ少鷲に問うが好い」


 ヤンフィはキッパリとそう告げて、瞬間、音もなく踏み込んだ。振るうのは、左手に握った次元刀エウクレイデスだ。あらゆる時空魔術を扱える次元刀エウクレイデスは、消費魔力さえ考慮しなければ、どんな状況にも対応できる万能な剣であり盾でもある。

 その次元刀エウクレイデスで、ヤンフィは【空間連結(ワームホール)】を展開した。

 空中に黒い穴が浮かび上がり、ヤンフィの身体がそこに吸い込まれる。すると次の瞬間、音もなくレーヌの背後にその姿を現した。


「妾はこれでも己の能力を過信せぬし、汝を軽んじることもせぬ――じゃが、汝は妾を大いに侮って構わぬよ、その方がやり易い」


 レーヌの真後ろに現れたヤンフィは、わざとそんな軽口を叩きながら、右手の魔剣エルタニンを横薙ぎした。しかし振るう直前に声を掛けているので、それは当然のように避けられる。


「へぇ? なるほど、なるほど。少鷲と大鷲がアレだけ騒ぐのも頷ける――魂を喰らうのは、少々困難かな?」


 とはいえ、避けられるのは想定通りである。むしろレーヌが避けることを前提に声を掛けていた。

 ヤンフィはよろけた態勢のレーヌに、追撃とばかりに本命の次元刀エウクレイデスを振るう。ふたたび展開させるのも【空間連結】である。レーヌは対応出来ず、甘んじて空間を飛ばされた。

 空間連結の先は、ヤンフィがつい先ほどまで立って居た場所――四方の床に四神器が突き刺さっている魔法陣の中心だった。これで位置を入れ替えた格好になる。


「おや――っと、これは?」


 レーヌは魔法陣の中心に無様な姿勢で着地して、瞬間的にヤンフィの目的を悟った。けれど、悟ったところでもう遅い。


「――『四象を統べる神の形代よ。世界を変遷させる四神器たちよ。目覚めて、我が怨敵を静め給え』」


 ヤンフィは大きくバックステップして距離を取りながら、流麗な詠唱をして魔法陣を起動させた。魔法陣からは眩い光が溢れ出して、唸りを上げながらレーヌの四肢を鎖で捕らえる。


「……これ、無属性の封印魔術だね? へぇ、さすが魔王属だね。ボクの【絶対障壁】の特性、もう看破したのか」


 レーヌが驚きの表情を浮かべつつ、冷静に状況を分析して、感心した口調でそんな呟きを口にしていた。ちなみに、レーヌの呟いた【絶対障壁】とは、魔剣エルタニンの攻撃を防いだ青いカーテン状の物理魔術混合障壁のことである。

 実際、今もレーヌの周囲を青いカーテンがたゆたっていたが、魔法陣から伸びている鎖は、それを当然のように素通りしている。


「無論じゃ。誰を相手にしてると思うておる? その防御魔術は、無属性を無視する特性じゃろぅ? その代わりに他の全属性を完全に遮ることが出来る」


 ヤンフィは答え合わせでもするような気軽さで呟き、左手の次元刀エウクレイデスを【無銘目録】に収納する。そして、気付かれないよう小さく溜息を吐いた。

 さて、ここからが問題だ――と、ヤンフィは静かに気を引き締め直した。

 ここまでの展開は、ヤンフィが【桃源】で視た選択の帰結、予定調和だ。だが、ここから先は【桃源】で未来を視通せず、選択することが出来なかった。


「……この鎖……霊体に作用する類の魔術かな? なるほど、なるほど――でも、残念だね。確かに不安定なボクの精神体には効くかも知れないけど、ボクの器には通じないよ」


 レーヌの全身が鎖で雁字搦めにされて、そのまま足元の魔法陣から円柱状の光が立ち昇った。それは対象の魔力核を拘束して、肉体を麻痺させる封印結界である。

 ところがレーヌは、手足を拘束されたままで不敵な笑みを浮かべて、内側から凄まじい密度の魔力を爆発させた。竜巻を思わせる風が巻き起こり、レーヌが羽織った漆黒のマントが舞い上がって、黒い下着と白い素肌が露出した。


「――得体の知れぬ狐耳獣人(ラガム)じゃのぅ」


 レーヌが魔力を爆発させた瞬間、ヤンフィは舌打ちしながら魔剣エルタニンを床に突き刺す。すると魔剣エルタニンは形状を変えて、正方形の盾と変わった。


「『喰らい尽くし給え――【魂喰らい(ソウルイーター)】』」


 レーヌは何やら詠唱して、異能を発現させた。その宣言と共に、身動き取れないレーヌから黒い巨大な掌が伸びてくる。

 その黒い掌がどのような効果を持っているかは分からない。しかし、触れれば間違いなく危険であることは感じ取れる。ゆえにヤンフィは、魔剣エルタニンの盾で防ぐ選択を採っていた。

 だが――その選択はどうやら悪手だった。


「――――ぬぉっ!?」


 果たして、黒い掌はヤンフィの想定とは異なり、魔剣エルタニンの盾を通り抜けて、左腕を根本からごっそり呑み込んでいく。一瞬にして、ヤンフィは左肩から先が消滅した。

 痛覚はない。何が起きたのかも分からない。それゆえに思わずヤンフィは感心した声を上げて、左腕をもがれた不格好なまま後方へと跳び退いていた。


「どうかな、ボクの奥の手は? この魂喰らいは、あらゆる防御を無視する物理攻撃だよ……それにしても、腐っても魔王属だね。まさか、早々にボクがこれを出すことになるとは思ってもなかったよ。一応これさ、切り札でもあったからね?」


 捕縛されたままのレーヌが、自慢するようなドヤ顔で言った。その軽口に、ヤンフィは心底不愉快だとばかりに顔を歪めて、レーヌを睨み付ける。

 レーヌはいまだに身動き取れない状況で、けれど平然としていた。四神器の封印結界が破られた訳ではない。むしろ十全に魔法陣は起動しており、レーヌの魔力核を縛り上げている感触もある。だと言うのに、何一つレーヌを縛る枷になっていなかった。


「――ほざいておれ」


 ヤンフィは左腕ごと奪われた大量の魔力を自覚して、忌々し気に唾を吐き捨てた。

 左腕がなくなった程度はさして問題はない。それよりも、レーヌの放った【魂喰らい】という異能が、魔剣エルタニンでさえ防げないという事実こそが問題だ。


(……今の妾の【桃源】領域を覆い隠すほどの魔力……まるで、同格の魔王属を相手にしておるようじゃのぅ……)


 ヤンフィは左腕を修復せず、無手のままでレーヌを中心に弧を描くように駆け出した。身動きの取れないレーヌは、ヤンフィの動きを視線だけで追っていた。

 互いに次の一手を窺う膠着状態になるが、この膠着状態こそがヤンフィの狙いでもある。


「ああ、そういえば――キミは、ボクの器に用があるんだったね? つまり時間稼ぎが目的だ……ともすれば、それに付き合うのは悪手だね」


 ふとヤンフィの動きを追っていたレーヌが狙いに気付いて、そんな呟きと共に不敵な笑みを浮かべた。途端にレーヌの纏う魔力が膨れ上がる。

 ヤンフィは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、ピタリとレーヌの背面で立ち止まった。そして、レーが放つ魔力に対抗するように、全身から禍々しい瘴気を吐き出す。

 広いダンスホール内に、ヤンフィの瘴気が充満していく。

 瘴気が溢れてダンスホール内が薄暗くなった時、それが合図のように、レーヌの羽織っていた漆黒のマントがひとりでに舞い上がり、空中で丸くなってから床に巨大な影を落とす。漆黒のマントは影に呑まれて消え去った。


「……嫌な感覚じゃのぅ」


 漆黒のマントが落とした巨大な影を注視しながら、ヤンフィは警戒して距離を取る。巨大な影はレーヌに匹敵するほどの魔力を放っており、見る見るとその形を変えて、やがて大型の四足獣を形作った。

 影で出来た四足獣は、水牛を思わせる体躯に二つの巨大な角を持ち、象のような長い鼻と牙を携えていた。丸太のように太い脚をしており、背中には水かき状の手を思わせる羽がある。全長は5メートルを超えるほどの威風堂々たる巨躯だった。

 そんな影の四足獣は、レーヌを護るようにしてヤンフィの眼前に立ちはだかった。後ろ脚二つで立ち上がると、高い天井に吊るされたシャンデリアに角を当てて破壊する。質量を感じさせない影で出来た体躯をしているが、シャンデリアを破壊していることから、実体を持って顕現した存在であることが分かった。精神体や幻術の類ではないらしい。


「……今のは召喚でなく、依り代を蘇らせて、実体を顕現させたように視えるのぅ……あのマントが依り代……と云うよりも、そもマント自体が、特殊な加工を施した魔力結晶体かのぅ? いずれにしろ、レーヌ・ラガム・フレスベランが相当な腕をした屍操術師(ネクロマンサー)であることに違いはないと云うことかのぅ」


 ヤンフィは影の四足獣を見上げながら、レーヌがどれほど凄まじいことをしたのか理解した。心底うんざりした表情で、重苦しい溜息を漏らした。

 どうやらレーヌの羽織っていた漆黒のマントは、影として蘇った四足獣の死骸を加工して創った特殊な魔具だったようだ。レーヌはそれに魔力を注ぎ込むことで、生前の実体を蘇らせた。そのうえで、魔力結晶体として蘇った四足獣を禁術【屍操術(ネクロマンシー)】で傀儡にしたのである。


「ふむ……『魔王属(ロード)に堕ちず、魔王(アビス)を喰らった』じゃったか……冗談でも、誇張でもなく、至極大真面目な話らしいのぅ……妾より、間違いなく格上じゃ……たかだか混血獣族如きが……」


 特殊な魔具とはいえ、その実体を蘇らせるだけでも異常なのに、さらにそこへ禁術の重ね掛けなぞ、およそ非常識極まる所業である。そんな異常を当たり前にこなして見せたレーヌに対して、ヤンフィは最大限の賛辞と共に、呪詛の如き苛立ちを吐き捨てた。様々な魔王属を屠ってきたヤンフィでさえ、こんな芸当をした敵と出逢ったことはない。

 ヤンフィは影の四足獣と相対したまま、その背後のレーヌに対して寒心する。すると、そんなヤンフィに向かって、鎖で拘束されたままのレーヌが問い掛けた。


「――どうだい? これが屍操術師(ネクロマンサー)としてのボクの実力だよ? ちなみに、実体化したあのマントはね。上位幻想種【ベヒモス】の皮革で作った装備なんだぁ――キミは、ベヒモスのこと知ってるかな? 幻想界にしか生息していない上位格の神獣だけど?」

「ほぅ? これが、ベヒモス、のぅ……ふむ、戦ったことはおろか視たことさえないのぅ。じゃが、その生態はよく理解しておるぞ?」

「へぇ? 知ってるんだ、凄いね――けど、生態を理解したところで、果たして対処出来るかな? このベヒモスは、成り立ての魔王属程度なら簡単に呑み込めるほどの強さだよ」


 レーヌは嘲るような口調で言って、ゆっくりと深呼吸をしながら集中の世界に入った。瞬間、ダンスホール内に凄まじい高音が響き渡った。

 その高音は、超音波と言って差し支えないだろう。天窓を含めてダンスホール内の硝子という硝子が全て割れると同時に、キィィィ――ンと耳鳴りが起こった。

 ヤンフィは顔を顰めて、超音波を放っている巨大な影の四足獣――ベヒモスに視線を向けて、威圧と瘴気をぶつけた。一介の魔貴族であれば、その威圧と瘴気でたじろぐだろう。しかしベヒモスはそれを正面から受け止めて、より強烈な威圧を返してきた。


「文献通りか――ベヒモス、別名を『鈍感の神獣』。あらゆる攻撃に耐性があり、冠級魔術を無効化する角と牙、物理攻撃を呑み込む皮膚を持ち、痛覚や恐怖の感情を持たぬ神獣。神力が付与された土属性魔術、神力を篭めた物理攻撃しか行えぬが、その破壊力は冠級魔術と同等以上……つまり、神に匹敵する攻撃力を持ち、防御力も別格の存在。およそ弱点を持たぬ完璧な獣と称される神獣――」


 ヤンフィは眼前のベヒモスに絶賛の言葉を並べたてながら、ゆっくりと魔力を練り上げる。


「――しかし、弱点はなくとも倒せぬほどではないのぅ」


 ニヤリ、と。ヤンフィは笑みを浮かべながらそう呟いて、改めてレーヌに意識を集中した。

 眼前のベヒモスは確かに脅威である。魔王属と一対一で戦っても、そうそう負けることがないほどの強さと神格を持った獣だ。けれど、ヤンフィとは相性が悪すぎる。

 レーヌに意識を移したヤンフィを見てか、ベヒモスは不愉快そうな響きをした超高音の雄叫びを上げた。ビリビリと空気が痛いほど震えて、相対するヤンフィに怒りをぶつけてくる。

 しかしそれを華麗に無視して、ヤンフィは意識をレーヌに向けたまま落胆したように溜息を漏らす。


「……それにしても相変わらず、レーヌには桃源が干渉できぬ。これは嗤うしかないのぅ」


 ヤンフィはフルフルと首を横に振りながら、フッと鼻で笑うように自嘲した。その態度はもはや、正面のベヒモスなど眼中になく、注意すべきはレーヌだけと言わんばかりだった。

 そんなヤンフィの態度にキレたか、ヒュォオオ――ン、とひと際甲高い超音波が響き渡った。

 ヤンフィは超音波に顔を顰めて、やかましい、とばかりに顔を上げた。すると、ベヒモスが口を大きく開けて、存在を主張するように威嚇の形相で叫んでいた。わざと挑発したのだが、想像以上に効果てきめんだったようだ。これ以上ないほど憤慨している。

 ヒュォオオ――と空気を震わす超音波に遅れて、ベヒモスが前脚で横薙ぎしてくる。体格差は五倍近くあり、振るわれた前脚だけで見てもヤンフィと同じ大きさをしていた。そんな圧倒的な物量をした横薙ぎを、ヤンフィはこともなげな様子で無防備に受け止めた。

 直撃した瞬間、ドガンと爆音が響き渡り、床ごと空間も震えて景色がたわむ。その爆音に遅れて、轟、という風を切る音が吹き抜ける。また、その凄まじい衝撃はダンスホールの壁を風圧でへこませて、一部の柱に亀裂さえ生じさせる。


「洒落にならぬ威力じゃのぅ」


 そんな攻撃を平然と受け切って、ヤンフィは涼し気な声でそう呟いた。信じ難いことに、踏ん張る素振りさえなく、ベヒモスの前脚の一撃を軽々と止めている。


「じゃが、その神力が仇となるぞ? 強力であればあるほど、のぅ?」


 ヤンフィは不敵に笑いながら、ベヒモスの前脚を受け止めた自らの左半身に視線を向けた。ヤンフィの左腕からは、強靭で巨大な前脚が細く見えるほど太くなった月桂樹の幹が伸びており、それが床にも根を這わせて盾のように月桂樹の葉を展開していた。

 ヤンフィの左腕で生い茂る月桂樹は【樹槍じゅそうロムルス】という呪われた魔槍である。

【樹槍ロムルス】は、ヤンフィの持つ武器の中で非常に扱いにくい武器の一つだ。それは最初、小さな種状になっているが、一度でも使用者の魔力を吸って発動すると、使用者の意思を無視して成長する。また、触れた存在の魔力だけでなく、空気中に漂う魔力さえも吸い取って、辺り一帯を枯らし尽くす広範囲殲滅武器である。そうして成長する月桂樹は、吸い取った魔力の質により、特性、硬度、威力を変えて、月桂樹の民以外の全てを殺す。

 さてそんな樹槍ロムルスは、神力を宿す神獣ベヒモスの極上の魔力を吸い取って、神に匹敵するほどの攻撃力と防御力を持った武器に変わっている。


「……凄まじいのぅ。ここまで成長すると、妾でさえ切り倒すのは困難じゃろぅのぅ」


 ベヒモスの前脚と鍔迫り合いをする月桂樹は、瞬く間に成長していく。

 天井を突き抜ける勢いで上に伸びて、床を覆い尽くすように横に広がりを見せる樹槍ロムルスを眺めながら、ヤンフィは苦笑と共に呟いた。ちなみに、苦笑しているヤンフィからも、恐ろしい勢いで魔力が吸い取られている。この速度で魔力を吸われ続けると、いかなヤンフィだろうと、およそ一時間もしないうちに魔力枯渇して身体を構築できなくなるだろう。

 そうして樹槍ロムルスは、ベヒモスの前脚を受け止めたまま脚に絡みついて、あっという間に幹の中に呑み込んでしまった。


「……本当に凄いね、キミ。魔王属としての異能だけじゃなくて、その武器とか、いったい何さ?」

「手の内を容易く明かす魔王属なぞおらぬよ。汝こそ、この状況で余裕があるのは何故じゃ? まだ奥の手を隠しておるのかのぅ?」

「――さあ、どうだろ? キミが視る未来では、どうなっているのかな?」


 四神器から伸びる鎖に捕らわれたままで、ヤンフィに背を向けているにも関わらず、レーヌはそんな軽口を叩く。その口調からは強者の余裕が滲んでいた。

 一方で、成長し続ける月桂樹に脚を呑み込まれたベヒモスは、やがてその全身まで侵食されて、ヤンフィの眼前で巨体をのたうちながら、甲高い超音波を放ち続けていた。樹槍ロムルスに捕らわれて、少しも弱らずバタついているが、それが逆に樹槍ロムルスの特性に反応して、身動き取れなくなっていく。

 ベヒモスが動けば動くほどその強大な魔力が吸い取られて、月桂樹は破壊と再生を繰り返しながらいっそう成長していく仕組みだ。

 しかし、この程度で殺せるほど神獣ベヒモスの名前は伊達ではないらしい。

 ヤンフィは破損した左腕を再生させて樹槍ロムルスを握り締めると、無手だった右腕に一振りの剣を顕現させる。それは黒塗りで緩く反りが入った刀身をしており、振るえば星の煌めきを放つ剣である。


「――神殺しの魔具、七星剣じゃ」


 顕現するだけで、ヤンフィの身体から凄まじい魔力を消費する剣【七星剣(しちせいけん)】は、あらゆる特性に関係なく、形ある存在ならば全てを切断する宿命を持った武器だ。神に対抗し得る武器ゆえに神獣ベヒモスにも通じる。

 ヒュォオオ――と、月桂樹に巨躯のほとんどを呑み込まれたベヒモスは、より甲高い超音波を放った。もはや角と鼻しか視えない状況で、それでも戦意はおろか魔力は微塵も弱っていなかった。

 そんなベヒモスに向けて、ヤンフィは右手を振り上げる。ダンスホール内を月桂樹で埋め尽くさん勢いで肥大化し続ける樹槍ロムルスごと、七星剣は神獣ベヒモスの身体に狙いを付けた。

 しかしその背後に控えるレーヌには傷付けないよう、ヤンフィは細心の注意を払って七星剣を振り下ろした。


「あまねく星々は、煌めいて堕ちる――七星斬(しちせいざん)


 ヤンフィの振り下ろしは宣言をした時には、もう終わっていた。音もなく残像さえ視えぬ速度で、気付けば、七星剣は振り下ろされていた。

 パックリと月桂樹は縦に切り裂かれて、幹に呑まれていたベヒモスの巨体も真っ二つになっていた。巨大な影は、まるで最初からそうであったかのような切断面で割れており、直後、その巨躯は崩れ去った。

 影が崩れ去ったのを確認してから、ヤンフィはすかさず樹槍ロムルスを手放して、軽い跳躍で数十メートル後方に跳び退いた。一瞬で部屋の隅へと退避する。

 ヒュオオオオオ、と空気を張り詰めさせる超高音が響き渡った。それがベヒモスの断末魔だ。


「ふぅん、なるほど。ベヒモスのような正攻法じゃ、分が悪いのか――じゃあ、手を変えよう。『魂喰らいよ、形を成せ』」


 ベヒモスの断末魔の裏で、レーヌが俯いたままそう呟いた。その途端、レーヌの身体から蛸の触手みたいな黒い手が生えて、鞭のようにしなりながらダンスホール内を踊り狂った。一方で、断末魔を響かせたベヒモスの影は床に溶けるように染み込んで消えた。それに遅れて、樹槍ロムルスから伸びた月桂樹は瞬く間に枯れ落ちて、木片と葉を床に散らした。


「『四神器よ。怨敵を拘束せ――」


 ヤンフィは部屋の隅で壁を背にして、レーヌを拘束する四神器の鎖に左手をかざす。そして魔力を注ぎ込み、より上位の封印術を展開しようと詠唱した刹那、鎖が無理やりに壊される。同時に、床に刺さっていた四神器が弾け飛び、四方の壁面にぶつかって転がった。


「――何ッ!?」


 信じられない、とヤンフィは慌てて右手の七星剣を収納して、代わりに魔剣ダーインスレイヴを顕現させる。攻撃力は七星剣に劣るが、レーヌを殺す訳ではないので充分だろう。ただでさえ七星剣は消費魔力が凄まじい。捕縛目的にはそもそも不向きである。


「チッ――何じゃ、それは?」


 レーヌから四方八方に伸びていく蛸の触手じみた黒い手は、手を絡ませ合うに天井近くにまとまり、やがて黒い人形を形成した。

 その人形は、先ほどのベヒモスとは異なり、ヤンフィの身長と同じ程度の矮躯である。けれど人形が纏う魔力は決してベヒモスに劣っておらず、否、むしろこの場の誰よりも強力かも知れない。

 ヤンフィは魔剣ダーインスレイヴを横に構えながら、姿勢を低くしてレーヌに駆け寄る。レーヌはそんなヤンフィに対して、無防備にゆらゆらと身体を揺らしている。


「――遅いね。ボクの【魂喰らい】は、キミを凌駕するよ」

「『四象を統べる神の形代たち、我が身を護り、我が力と為せ』」


 レーヌは身体を揺らしながら、フッと天井を仰ぎ見る。それに応じるように、中空で形成された黒い人形がレーヌに視線を落としていた。

 そんなレーヌを注視しながら、ヤンフィは吹っ飛んだ四神器に魔力を流して、新たな結界魔術を詠唱した。流し込んだ魔力に呼応して、転がっている四神器が赤青白黒の魔力の煙になり、ヤンフィの身体に纏わりついた。


「あまりその肉体は傷付けたくはないが、多少は許せよ?」


 四神器の煙に身体が包まれた途端、ヤンフィの速度が三倍以上疾くなる。突如として劇的に加速する疾走に、レーヌは驚きに表情を凍り付かせた。完全に虚を突けた。

 ヤンフィはそんなレーヌの肩口に、魔剣ダーインスレイヴを突き刺す。


「あ――ぶない、なぁ」

「ぐぅぅ――!! 馬鹿、な!?」


 果たして、ヤンフィの突きはレーヌを貫かなかった。それどころか、レーヌ目掛けて突き出したはずのそれが、ヤンフィ自身の肩口を貫き、血と魔力をドクドクと吸い取っていた。

 ヤンフィは苦痛に顔を歪めて、咄嗟にバックステップした。同時に、魔剣ダーインスレイヴを引き抜き素早く血振りする。

 たった一撃で、随分と大量に体力が奪われてしまった。


「この魔王属を相手にするのは、かなりの骨だぞ。レーヌ・ラガム・フレスベラン」


 涼し気な声でそう口にするのは、いつの間にか床に降り立っていた黒い人形だった。

 その黒い人形は、まるでレーヌを護るように立ちはだかり、ヤンフィの攻撃を時空魔術による空間歪曲で返したようだ。黒い人形の周囲には、歪んだ空間がいくつも黒い穴として浮かび旋回している。


「そりゃあ、骨だよ、魂喰らい。正直、いまの不完全なボクじゃ、勝てないかも知れないもん」


 レーヌはふぅと一息吐いて、目の前で立っている黒い人形に苦笑している。

 黒い人形は影のような存在だが、どうやら意思があり、しかも言葉を解している。これが如何なる魔術か、永く生きたヤンフィでさえ理解出来ない。少なくともこれは屍操術ではない。


「なんじゃ、それは――如何なる魔術じゃ?」

「おやおや? 魔王属じゃなくとも、手の内をそう簡単に明かす馬鹿はいないよ。ま、これもボクの奥の手ってとこだね」

「――――ほざけ」


 ヤンフィに挑発的な笑みを向けたレーヌは、静かに深呼吸を繰り返す。よくよく見れば、その全身は微かに痙攣しており、首筋と額には汗が滲んでいる。垂れ流される魔力も心なしか薄くなった気がする。

 なるほど、これが奥の手であることは事実のようだ。かなり無理をしている様子が窺えた。とはいえそれでも、ヤンフィの桃源は変わらず介入出来ない。

 ヤンフィは小さく舌打ちしてから、レーヌと黒い人形に鋭い視線を向ける。


「……レーヌ・ラガム・フレスベラン。確認しておくぞ。吾輩、この魔王属を殺せば良いのか? それとも、吸収するのか?」

「魂喰らい、分かってるだろ? 勿論、吸収するに決まっているよ。この魔王属を吸収出来れば、ボクは完全復活出来るよ」

「――分かるぞ。ただ本音を言えば、かなり厳しいぞ。この魔王属、底なしぞ?」

「知ってるよ。でも、殺す方が難しいだろ? だって、ボクでさえ、殺し方が分からないもん」


 ヤンフィは何歩かバックステップして、軽い調子で談笑している二人から距離を取った。

 魔剣ダーインスレイヴはヤンフィの血を吸って興奮しているのか、先ほどからドクドクと脈打ち、刀身を紅蓮に染めている。

 よく分からない状況になってしまった。まったく厄介だ、とヤンフィは溜息を漏らす。


(……レーヌだけでなく、あの黒い人形にも、妾の桃源が利かぬ……いったい何なんじゃ、アレは?)


 ヤンフィは努めて冷静に状況を分析する。桃源で未来を選択できない戦闘では、彼我の戦力を正確に見極めなければ、簡単に死ぬ。


「――のぅ、黒い人形よ。汝の名を聴こうかのぅ?」


 ヤンフィは魔剣ダーインスレイヴの切っ先を黒い人形に向けて、鋭く強い視線で睨み付けた。

 強烈な瘴気と殺意、そして覇気が、黒い人形にぶつけられた。だが、黒い人形はどこ吹く風とそれを受け流す。


「吾輩、【魂喰らい(ソウルイーター)】ぞ。端的に言えば、レーヌ・ラガム・フレスベランの異能が具現化した存在ぞ」

「ちょ、ちょっと、魂喰らい? ボクの秘密、そんな簡単に暴露しないで欲しいなぁ。困らないけど、不必要に情報を明かすのは、駆け引きとして宜しくないよ? まぁ、それをキミが知ったところで、状況は変わらないけどね?」


 ヤンフィが投げた問いは、答えさせるつもりのない言葉遊びだった。だが存外あっけなく、ヤンフィの問いは解消されて、魂喰らいとレーヌは笑い合っている。

 そんな二人を眺めながら、ヤンフィは心の中で舌打ちした。二人ともこの能力に関して、何一つ隠すつもりがないらしい。その言葉に嘘偽りはないようだ。


(……ふむ。いっそう厄介じゃ。妾の方が困るのぅ)


 レーヌは異能を具現化して、己の駒として使役する能力を持っているようだ。そんな特殊能力、見たことも聞いたこともない。故にヤンフィは、迂闊な選択が出来なかった。対策が取りにくいというよりも、打破する方法が思い付かない。

 ただでさえヤンフィは、かなりのハンデを背負っている。

 ヤンフィの目的は、レーヌを仲間にすることだ。つまりその勝利条件は、レーヌを殺すことではなく、五体満足で拘束することである。当面はその達成のために、ライム・ラガムの意識が覚醒する朝まで、レーヌと戯れなければならない。

 それとは裏腹に、レーヌ側の目的は、ヤンフィの魂を喰らうことである。魂を喰らうというのが、具体的にどのような状況を指すのか不明だが、少なくとも魔力を全て奪い尽くすことに等しいだろう。しかもヤンフィを殺すことにも抵抗はなさそうだ。


「もう何度目かの感心だけど、さすが魔王属だね。改めて最大の敬意を表するね。まさかここまで苦戦することになるとは、ボク、思ってなかったよ。ベヒモスが一撃で殺されたのも計算外だし、ことここに至ってさえも、まだキミが有利な戦況なんて――信じられないくらいさ。だいたいキミ、全盛期の三分の一以下にまで弱体化してるだろ? そのうえで、ボクを殺すことも出来ないのに……」


 レーヌは冷静に状況を分析したのか、あえてそれを口にして挑発してくる。そんなレーヌに、ヤンフィは苦笑を浮かべた。

 そこまで状況を理解されてしまうと、膠着状態にしようと画策しているヤンフィにとっては、だいぶ不利である。レーヌは警戒しつつも、少しも弱気にはなっていない。


「あ! ちなみに、そう言えば、キミはどうして、ボクの器に用事があるの?」

「妾たちの知人が、汝の器――ライム・ラガムに禁術をかけられてしまってのぅ。解呪する必要があるのじゃよ。まぁ、それ以外にも利用価値がありそうじゃからのぅ。汝ではなく、ライム・ラガムを仲間にしようか検討しておるのじゃ」

「へぇ? 仲間? ハハハ、なるほど――でも、それ、不可能だと思うよ? ボクを封印しても、ね」


 レーヌがニヤリとほくそ笑んだ瞬間、最初からそうだったかのように、ヤンフィの眼前に魂喰らいの姿が現れた。それは動きが疾いとかそういう次元ではなく、文字通りの瞬間移動だった。


「吾輩、異能の具現化ぞ。故に、攻撃なぞ通じぬぞ?」


 油断は微塵もしていなかったが、突然、何の予兆もなく眼前に現れると、ヤンフィは癖で、避けるより先に攻撃を選択してしまう。すかさず魔剣ダーインスレイヴを横薙ぎにして、咄嗟とは思えない剣捌きでもって正確に魂喰らいの首を両断した。

 けれど、その剣閃は先ほどと同様、魂喰らいの周囲に展開している時空魔術に捻じ曲げられて、そっくりそのままヤンフィの右肩を抉る。ふたたび、ごっそり体力と魔力が奪われた。


「チッ――【天魔事典(てんまじてん)】よ」


 ヤンフィは切り裂かれた右肩を庇いながら、すかさず魔剣ダーインスレイヴを収納して、今度は分厚い事典を取り出した。

 その分厚い事典はパラパラと頁を開きながら青白い炎を産み出した。ヤンフィが天魔事典を構えたのを見て、魂喰らいは一瞬だけ躊躇すると追撃を諦めて一歩引いていた。

 ヤンフィは回避行動を取った魂喰らいにほくそ笑みながら、青白い炎を槍状に変えて、レーヌに放り投げる。それは何の変哲もない上級魔術【炎竜】の変形だ。威力も効果も、何の特別性もない上級魔術で、避けるまでもない魔術である。

 けれど、不気味な攻撃であることに違いはない。

 レーヌは念のため、それを警戒して魔術攻撃で迎撃した。青白い炎はレーヌの魔術と相殺して、ぶわっと大量の煙を出した。それは煙幕としては充分すぎる効果がある。

 ヤンフィの狙いは目晦ましであり、それは見事に成功した。

【天魔事典】――ヤンフィの持つ武器の中でも、とりわけ攻撃力が低く、誰にでも扱える汎用性のある魔術兵装である。聖級以下の基本属性火水土風の魔術を最大四つまで封印することが出来て、無詠唱、且つ魔力消費なしで封印した魔術を何度でも即時展開出来る武器だ。非常に戦術幅が広がる脅威の魔術兵装ではあるが、この場に居る強者からすれば、あまり役に立たない武器だ。

 だからこそ、万が一にもレーヌを殺すことはない。これならば、手加減せずに戦える。


(――殺さぬように加減するのは、想像以上に難しいからのぅ。どれもこれも攻撃力が高過ぎる)


 ヤンフィが懸念する最大のハンデは、実のところ、高過ぎる攻撃力に尽きた。迂闊に本気を出せば、レーヌ諸共、全てを殺しかねない。


「吾輩から逃れられる、と思わぬ方が良いぞ?」


 ヤンフィは天魔事典を脇に抱えて、さして破壊力のない爆炎の中を駆けていた。すると、ヤンフィに並走して、魂喰らいがその姿を現した。

 並走してくる魂喰らいに、チッ、と舌打ちしつつ、ヤンフィは次に、天魔事典から氷の槍を展開した。それは轟音を鳴らしながら魂喰らいの全身を直撃する。その威力は上級の中でも最上位だろう。けれど、上級程度ではダメージを与えられない。

 魂喰らいはそれを承知しており、だから避ける素振りすらなく、ヤンフィの魔術を無防備に受けていた。おかげで氷の槍が周囲の空気を冷やして、視界を曇らせる靄を産み出す。

 視界を悪くしたのを合図に、ヤンフィは脱力した。そして次の瞬間、身体を捻って姿を消したかのような動きを見せる。

 ヤンフィの動きは単純だ。全速力から急停止、方向転換の動作に、残像を見せる歩法陽炎を用いて、縮地を使わずに切り返しただけである。それは俯瞰から見れればただの回転動作だが、横並びに走っていた魂喰らいからすれば死角を突かれた見事な動きだった。


「おぉ――やるねぇ、魔王属ヤンフィ? ね、ボクの瞳を視てよ――『問う。眼前に映る景色は、蒼天か、紅蓮か、暗闇か、いずれの世界を観ている?』」

「ぬっ!? チ――ッ、またその幻術か!?」


 魂喰らいを躱して、さて次は、と視線を動かした瞬間、レーヌが瞳を見開いてヤンフィを射貫くように見つめていた。思わずヤンフィは掛け声に反応して、レーヌの双眸を注視してしまう。

 途端に、ガクン、と膝から力が抜けて、視界が暗闇に染まる。それは強力な洗脳効果を持った幻術だ。対象の精神を隔絶させて、内面世界で精神汚染させたのち、肉体を奪い取る禁術である。

 ヤンフィは慌てて魔眼を強めて、幻術に捕らわれかけた己の精神を解呪する。一秒にも満たず、すぐさま幻術は解呪出来たが、その微かな一瞬はこの状況では致命的だ。


「『魂喰らい――貫く』」

「――ぐぅッ!?」


 視界が暗闇に染まった瞬間、ヤンフィの左胸が黒い掌に貫かれた。同時に、今までで一番大量の魔力と体力が奪われた。


「ほぉお! これは素晴らしい味ぞ。吾輩が吸ってきた中でも、五指に入る美味ぞ?」

「……くく……それは、重畳じゃ……じゃが、ただで妾の魔力を、堪能できると思うなよ?」

「――ぞ? ああ、これは毒ぞ? ふむ、己の魔力にここまで強力な瘴気を宿すとは、どこまでも驚異的な魔王属ぞ」


 ヤンフィは転がりながら、魂喰らいから距離を取り、すかさず平然とした表情で立ち上がる。

 魂喰らいは追撃せずその場で立ち止まり、ヤンフィに背を向けてレーヌに振り返った。警戒すらしておらずまったくの無防備な姿勢だが、ヤンフィは慎重に構える。

 隙だらけ、と攻めたい気持ちはあるが、想像以上にダメージを負っている。それでなくとも、このペースで魔力を奪われ続けた場合、冗談抜きに身体を維持できなくなってしまう。まだ夜明けまで長い。持久戦を選択している以上、ともかく慎重に、可能な限り戦闘を長引かせなければならない。


「ふむ……動けなくさせて、時間を稼ごうと思うたが……少々、甘かったのぅ。どうやら妾は、汝らを侮っておったようじゃ――光栄に思うが好い。汝らは、この妾に逃げの選択をさせるのじゃからのぅ?」


 ヤンフィはそう口走りながら、ダンスホール内を満たしていた瘴気を全て引かせた。同時に、凄まじい圧力をもたらしていた濃密な魔力をも消す。まるで武装を解いたかのように脱力して、天魔事典を目の前に浮かせた。


「刮目せよ。これより妾は、魔王属としての矜持を排して、熟達した魔剣士としてではなく、老獪な魔術師として立ちはだかろう――顕現せよ、【麒麟陣(きりんじん)】」


 その宣言に呼応するように、ヤンフィの眼前に無銘目録が現れて、ある一つの頁を開いた。開かれたその頁からは、掌大をしたペンダントが飛び出して、ヤンフィの背後に魔法陣を展開する。


「老獪な魔術師ぞ? 護りに徹してくれる方が、吾輩、助かるぞ。だがそれにしても、レーヌ・ラガム・フレスベラン。吾輩だけに闘わせるのは、理不尽ぞ?」

「――おいおい、魂喰らい。そうは言っても、ボク、これでも、忙しいんだよ? 今、裏側で、あの異世界人の精神に遠隔接続してて、魔王属ヤンフィの秘密を探ってるんだから――おや? 怒ったかな?」


 流し目で露骨な挑発をしてくるレーヌと、無造作に一歩詰めてくる魂喰らいを視界に捉えながら、ヤンフィは一角獣の角みたいな形をした杖を顕現させて、グッと両手で握った。その杖は【麒麟杖(きりんじょう)】と呼ばれる魔杖である。


「怒ってなぞおらぬ。無論、心配もしておらぬ。妾はそも、汝がコウヤに精神の一部を植えたのを知っておるからのぅ――しかし、如何に汝でも、遠隔ではコウヤを催眠状態にするのが関の山じゃろぅ。精神支配するには至れぬはずじゃ」


 ところで、平然と喋っているヤンフィだが、現状は絶えず継続ダメージを負っていた。展開した【麒麟陣】の代償で、内側から肌を焼く魔力放電が発生しており、皮膚を焼け焦げさせると同時に、身体能力をも半減させている。これは麒麟陣を展開している間、永続的に続く副作用だった。


「レーヌ・ラガム・フレスベラン。吾輩、ベヒモス、レヴィアタン、両獣を所望するぞ?」

「――――おいおいおい、魂喰らい。キミ、ボクに全裸になれってのかい? まぁ……構わないけどさ。でも、ベヒモスはさっき、相手にもならなかったよ?」


 その時、魂喰らいが軽い調子でとんでもないことを命令した。ヤンフィは眉根を寄せて、警戒心をいっそう強める。

 レーヌは魂喰らいの声におどけた顔を返してから、身に着けているビキニのような黒色のブラとパンツに手を触れていた。なるほど、漆黒のマントがベヒモスであったことを考えると、身に着けている下着は、レヴィアタンの素材のようだ。

 先ほど影として蘇らせたベヒモスのように、今度はレヴィアタンとやらを顕現させるつもりか。ヤンフィは少し距離を取って、レーヌの一挙一動を注視する。


「吾輩で苦戦する相手に、ベヒモス単体は相手にならないぞ? 確かにレヴィアタンが居ても、さして状況は変わらんと思うぞ。けれど、あの魔王属を追い詰める為に、出し惜しみするのは愚計ぞ? 奥の手は今のうちに、全て見せるべきぞ」

「へぇ? なら、魂喰らい。仕留める自信、あるんだよね?」

「自信はないぞ? けれど今の戦況では最善ぞ」

「……仕方ないね」


 成り行きを見守るヤンフィの前で、魂喰らいとレーヌがそんな作戦会議を終わらせる。結果として、レーヌの判断は魂喰らいの要望通りにすることだった。


「潔い判断じゃのぅ」


 ヤンフィは悔しそうに呟き、顕現した【麒麟杖(きりんじょう)】を強く握った。意識して、全身に魔力を漲らせる。すると、背後に浮かぶ魔法陣――麒麟陣がより力強い光を放った。

 麒麟陣が展開した魔法陣は、使用者の魔術に神力を付与して、扱う魔術全般の位階を一段階上昇させる効果を持つ。また、ヤンフィが握っている麒麟杖は、使用者の魔術効果を数倍以上に増幅させる。

 これら二つの支援系魔具を用いて、無詠唱、魔力消費なしに魔術を行使する天魔事典を利用すれば、ヤンフィは魔力を消費せず、聖級魔術や冠級魔術を連発出来る。しかも代償は、麒麟陣による永続ダメージだけというかなりの費用対効果を誇る。

 ヤンフィの持つ武器の中で、時間稼ぎの逃げに徹するのに、これほど適した装備はない。持久戦においては、魔力節約こそ最重要である。


「――『目覚めて、全てを喰らい尽くせ』」


 ふいにレーヌが右手を挙げて宣言した。その瞬間、身に着けていた下着が溶けて、ドス黒い煙に変わったかと思うと右の掌で渦巻き始める。下着が溶けて裸になったレーヌは、少しだけ恥ずかしそうに頬を赤く染めて、左手で胸元を隠した。


「ほぉ――これが、レヴィアタンか?」


 ほどなくして、ダンスホール内の空気が震えた。そして、レーヌの掌で渦巻いていた黒い煙が天井に向かって立ち昇り、ダンスホール全体を覆う雲のように広がった。

 黒い雲が広がる一方、先ほど床に溶けて消えたはずのベヒモスが、破片を集めて何とか復活を果たしていた。しかしその姿は、先ほどの巨躯ほどに大きくはなく、およそ2メートル前後の実体だった。


「……ふむ。汝らに先手を譲ろう。お手並み拝見じゃ」


 ヤンフィは不敵な笑みを浮かべて、顕現した二体と、仁王立ちする魂喰らいに挑発的な台詞を吐いた。

 その強気に返事するように、ダンスホールの天井を覆う雲が形を変えながら、低くドスの利いた轟音を響かせた。雲は手足のない胴長の竜を形作り、口元を大きく開けて二対の牙を見せ付ける。とぐろを巻いた全長は、優に八メートルはあろう。ダンスホールの天井が、その巨躯で覆われている。

 魔獣レヴィアタン――別名を『悪食の魔獣』だ。あらゆる魔術を吸収する鱗を持っており、どんな物質も溶かす胃液を吐き出す魔獣である。ベヒモスと違い、攻撃魔術は一切使用せず、驚異的な物理攻撃を繰り出して敵を弱らせると、どんな生物でも呑み込んで殺す。神獣ベヒモスと同格の幻想界に生息する上位幻想種だ。

 ヤンフィはそんな圧巻の巨躯を眺めて、ふぅ、と溜息を漏らす。この状況でも、最も警戒すべきは魂喰らいの行動だけだった。


(威容は凄まじいのぅ。じゃが、ベヒモスやレヴィアタンでは、妾を殺すことは出来ぬ)


 それは自惚れでも誇張でもなく、事実としての相性が問題であった。

 神獣ベヒモス、魔獣レヴィアタンは、その生態の特性上、ヤンフィを殺すことが出来ない。今この場でヤンフィを殺せる可能性があるのは、魂喰らいとレーヌだけである。

 それゆえに油断しなければ、ヤンフィは負ける要素がない――とは言えど、ベヒモスやレヴィアタンが雑魚ということでは決してない。どちらか一体でもいれば、街一つ軽々と滅ぼせるほどの脅威だろう。実際に、大鷲が亜空間でこのダンスホールを包まれていなければ、存在が顕現した時点で、とっくにこの城塞ごと破壊されている。


「魂喰らい。ボク、ちょっとだけ意識をここから離すよ。先に、逃げた獲物たちを喰らうことにするよ」

「――ベヒモス、レヴィアタン。吾輩に続け」


 レーヌが耳をションボリさせて、全裸のまま疲れた表情でへたり込んだ。そんなレーヌなど無視して、魂喰らいは姿を消した。

 ヤンフィはスッと魔眼を細めて、空間の振動を注視する。

 魂喰らいの瞬間移動は、空間を通り抜ける魔術の類である。現れる前段階で、微弱な揺れが空間に発生している。それさえ看破出来れば、次に現れる位置は反射神経で見極められる。

 けれどその時、ヒュオォ――という空気を震わせる高音の超音波が響き渡る。また、それに唱和するかのように、ゴォオオッ――という重低音が重なって、床ごとダンスホール全体が震えた。


「『魂喰らい、切り裂け』」

「なっ、く――っ!?」


 その音波攻撃は、集中していたはずのヤンフィの意識を乱した。そのせいで、脇に瞬間移動してきた魂喰らいに反応出来なかった。

 魂喰らいはヤンフィの弱点が剣であることを知ってか知らずか、自らの手を剣状にさせて右肩をバッサリと切り裂いた。途端に凄まじい勢いで魔力と体力が奪われて、ヤンフィは思わず、ぐらりと眩暈がしてよろけた。


「素晴らしい反応ぞ。吾輩、感服――ぬぅ!?」

「――汝こそ、素晴らしい機転じゃのぅ? よもや妾の虚を突くとは」


 よろけたヤンフィに追撃しようとした魂喰らいは、けれどピタリと硬直した。いつの間にか、魂喰らいの足元には、魔法陣が発動していた。


「封印結界ぞ? 吾輩を封印するつもりぞ?」


 疑問に首を傾げる魂喰らいに、ヤンフィは笑みだけ返した。

 その一方で、空中からはレヴィアタンが凄まじい速度でヤンフィに突撃してくる。同時に地上からは、ベヒモスが神力を帯びた土塊の雨を放っていた。

 しかしそんな怒涛の攻撃を横目に、ヤンフィは魂喰らいにだけ全神経を集中させる。

 魂喰らいを捉えた魔法陣は、基本四属性の攻撃魔術だけで構築した冠級の特殊な捕縛結界だ。麒麟杖、麒麟陣、天魔事典を揃えて、初めて構築可能なヤンフィのとっておきの魔術である。


「無駄ぞ。『魂喰らい、全てを喰らい尽くせ』」


 とはいえ、如何にヤンフィのとっておきと言えども、魂喰らいほどの強者には、この結界はさして効果などない。これで封印できるとは思っていないし、一秒も足止め出来るとは思わない。

 実際、魂喰らいはつまらなそうに呟きながら、両腕を巨大化させて大きく振り回すだけで、この結界を内側から食い破った。だが、食い破るその一瞬、魂喰らいに隙が出来る。

 結界を食い破った瞬間――魔法陣から半分に割れた鉄鏡が現れて、魂喰らいの背中に吸い付いていた。


「ようやっと成立じゃ。『再び相見える破鏡(はきょう)よ。転じて、真の姿を魅せよ――明王鏡(めいおうきょう)鳳仙(ほうせん)』」

「――ぞ?」


 ヤンフィは魂喰らいに会心の笑みを浮かべる。すると、目の前に鉄鏡の半分が顕現して、短く明滅したかと思うと天井に浮かび上がり一枚の光り輝く丸鏡になる。

 これで、もはや戦いは終局である――と、そんな勝利を確信したヤンフィに、レヴィアタンとベヒモスの苛烈な攻撃が直撃した。

 まず中空から迫ったレヴィアタンの体当たりが、ヤンフィの矮躯を貫いていった。ヤンフィはあっけなくも四肢を爆裂させて、ダンスホールのあちこちに肉片をぶちまけながら吹っ飛ぶ。その次は、ベヒモスの凶悪な土塊の雨が肉片一つ一つに追撃してきて、いっそうその四肢を粉微塵にすべく降り注いだ。

 傍目から見ると、これはもう過剰殺害である。けれど、まだまだ攻撃は終わらない。


「容赦しないぞ――『喰らい尽くせ、魂喰らい』」


 魂喰らいは声高に叫ぶと、ヤンフィの全てを吸収するべく、黒い巨腕を身体から幾つも伸ばして、肉片の全てを呑み込んでいく。ヤンフィだった破片は、一つ残らず、魂喰らいに喰われて消えた。


「ぬ? 殺し切れないぞ?」


 しかし、全てを呑み込んだ魂喰らいは首を傾げた。

 間違いなく全てを呑み込んだはずなのに、些かも魔力が奪えず、どころか爆散したヤンフィがすぐさま再生して眼前に現れたのだ。

 どんな奥の手か――魂喰らいは、ヤンフィの底知れぬ力に恐怖を感じた。恐怖は警戒心を生み、強気な行動や迂闊な行動を抑止する。

 魂喰らいは冷静に一歩退き、レヴィアタンとベヒモスに視線を向けた――つもりになって、明後日の方向に顔を向ける。


「さて――レヴィアタンとベヒモスは、妾の姿が視えておるのじゃろぅ? 残念じゃが【明王鏡(めいおうきょう)鳳仙(ほうせん)】は、対象が一つだけじゃからのぅ」

「レヴィアタン、ベヒモス、一気に攻めるぞ!」


 魂喰らいが見当違いの方向を向いて、ただの石柱を指差す。そんな奇行を横目に、ヤンフィは満足気に頷いた。完全に、明王鏡鳳仙に心を捕らわれている。これでもう魂喰らいは敵にはならない。

 ヤンフィは続いて、混乱した様子のまま中空で動きを止めたレヴィアタンと、攻撃の準備をしているベヒモスに首を傾げた。


「この装備で汝らを相手にするのは、ちと面倒じゃから、また同じ目に遭ってもらう」


 ヤンフィは奇行を繰り返す魂喰らいには注意も払わず、無防備に一歩、ベヒモスに向けて足を踏み出す。

 瞬間、それを合図に、中空で動きを止めていたレヴィアタンが重低音の咆哮を上げた。同時に、ふたたび突撃してくる。先ほどと変わらぬ、何の工夫もないただの突撃である。

 ヤンフィは冷静に、その直撃を甘んじて受ける。一瞬にして四肢はまた爆散して、肉片が飛び散った――ように見えたが、実際はヤンフィの形をした魔力体が吹き飛んだだけである。身代わり、というにはお粗末な人形だが、レヴィアタンは気付かない。

 そうしてヤンフィは、突撃していったレヴィアタンの背後に現れた。

 レヴィアタンは中空でその巨躯を器用に旋回させて、無傷で背後に現れたヤンフィに混乱した視線を向けていた。

 そんなレヴィアタンを見て、今度はベヒモスが床を踏みしめて突撃してきた。ベヒモスの突進は、神力を帯びた魔力の岩石群を周囲に展開しており、直撃せずとも大ダメージを受ける範囲攻撃だった。


「――汝らは脅威じゃ。じゃが、同格相手にそんな素直な力押しは通じぬよ」


 ヤンフィは突進するベヒモスを前に、麒麟杖を突き出した。そして、トン、と軽く麒麟杖で天魔事典に触れると、目の前に強固な土壁が展開される。

 それはただの土属性の上級魔術でしかない。けれど、ほんの一瞬だけヤンフィを隠す目隠しになる。

 超高速で突進するベヒモスの視界は、一瞬だけその土壁に遮られた。とはいえ、たかだか上級魔術だ。ベヒモスにとっては紙に等しい。

 それゆえに、少しの速度も緩めず、ベヒモスは音速を超えるブチかましをヤンフィにお見舞いする。


「汝らは、かような搦め手に弱すぎるのぅ――ベヒモスよ、汝のせいでレヴィアタンも終わりじゃ」


 ベヒモスは音速を超える速度でダンスホールの端まで駆け抜けて、レヴィアタンの長大な腹の下で急停止した。何か違和感がある。

 鈍感なベヒモスにしては珍しくもそう感じて、直感を頼りに振り返る。すると、駆け抜けた床一面に、何本もの月桂樹が生えていた――否、月桂樹はベヒモスの背中から生えており、それが今なお凄まじい勢いで成長を続けている。


「先ほどと違うのは、使用者がベヒモス、汝であることじゃ――樹槍ロムルス。とくと味わえ」


 ヤンフィはベヒモスと眼を合わせて、わざわざ親切に解説する。それは単純な話だ。先ほどの目隠しである土壁に隠して、樹槍ロムルスの種をベヒモスに貫かせただけである。

 樹槍ロムルスは、突き刺さったベヒモスを使用者として認識して、使用者から際限なく魔力を吸収しながら成長を続けたのだ。一方ベヒモスは、鈍感がゆえにその瞬間に気付かず、気付いた時にはもはや手遅れだったわけだ。ちなみに必然、ベヒモスから伸びた月桂樹は、真上で浮かぶレヴィアタンの腹に絡みついて、その魔力を奪い始めている。


「先ほどよりいっそう成長の速度が激しいのぅ。流石、神獣ベヒモスと魔獣レヴィアタンじゃ。褒めておこう。それでは、妾はレーヌの精神を追うかのぅ」


 広いダンスホールを月桂樹の森に変えていくベヒモスを眺めて、ヤンフィは嘲笑しながら、全裸でへたり込んだレーヌに視線を向ける。身動き一つせず、レーヌは俯いて何の反応もしなかった。

 一見すると死んでいるようにも見えるが、生命活動はしている。精神がここにはいないようだ。

 レーヌの先の発言を考えると、恐らくいまその精神は、煌夜たちの誰かに繋がっている。

 禁術の一つに、精神憑依の魔術があるが、きっとそれを行使したのだろう。それは、煌夜とヤンフィが契約により精神を繋げているのと同じ理屈だ。

 精神体の強度を考慮すると、煌夜かセレナのどちらかに精神接続しており、そのまま乗っ取るつもりに違いない。

 

「……これがコウヤであれば、妾との契約があるからのぅ……なんとか強制拘束出来るはずじゃ……じゃが、これがセレナであった場合、面倒じゃのぅ」


 ヤンフィは重い溜息を漏らしながら、チラと魂喰らいに視線を向けた。

 魂喰らいはいまだに脳内で幻覚と戦っているようで、周囲が月桂樹に埋め尽くされているのに気付かず、独り言を呟きながら眼前の丸鏡を見詰めて硬直していた。


 明王鏡鳳仙――条件を満たすことで対象者の心を鏡に捕らえて、永遠に倒せない敵と戦い続けさせる魔鏡である。これに捕らわれた者は、明王鏡鳳仙を破壊しない限り、正気には戻れない。ちなみに明王鏡鳳仙を破壊するのは簡単だが、破壊することに気付くまで時間は掛かる。この魔鏡の厄介なところは、自覚が出来ない点だからだ。

 レーヌを殺すのが目的ではない以上、その異能である魂喰らいも、殺すのは控えるべきである。そう考えると、この魔鏡は時間稼ぎにもってこいだ。


「それにしても……レーヌ・ラガム・フレスベランとやらは、豪胆じゃのぅ。大鷲が異空間に隔絶しているとはいえ、妾の見える位置で、無防備にも精神体を飛ばすとは――」


 ヤンフィは全裸のレーヌを睨み付けてから、視線を切ってダンスホールの扉に手を掛ける。扉に触れた瞬間、バチっと魔力の火花が散ったが、麒麟杖をぶつけてそれを破壊する。


「大鷲よ。汝とは関わらずにおいてやる。じゃから、ライム・ラガムの肉体だけは、しっかり護れよ」


 ヤンフィは誰に言うでもなくそれだけ呟いて、振り返らずにダンスホールを後にした。

 とりあえず煌夜たちに合流して、夜明けまで時間を潰すことにしよう。レーヌ・ラガム・フレスベランの実力はもう充分に理解した。いったん宿に戻って、朝にまた向かうのが最善だろう。

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