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我が弟ながら、理央(りお)の優秀さたるや、それはもう並みのものではないと断言しよう。俺の語彙力をフルに使って評するなら、……天才である。


私立中学にあっては首席。志望高校は秀才の登竜門とさえ言われる某有名進学校。合格へは一切の曇りなし。親の期待と教師の期待と俺からの妬みを一身に背負う彼は、誰からも愛される人物であった。


然りとて、彼には、勉強の最中であっても構わず時間を忘れ興じる趣味があった。


俗にオタク趣味とされるもの、すなわちアニメにゲームに漫画にと、それはもう熱心であったことをこの兄は知っている。


深夜になれば「萌え」だの「俺の嫁」だのと呟きながら、それでも勉強だけは怠らない姿を毎日見せられていた。


同室だった俺は「うるさい」と文句を言う。すると弟は、「ごめん、お兄ちゃん」と言うのだ。……いい子やなぁ。


反抗期らしい反抗期もなく、ただただいい子であり続けた弟は、しかしある時、突然姿を消した。


突然であった。突然ではあったのだが、それを突然だったと言ってよいのは、少なくとも俺以外の人間だろうと思う。


その瞬間を、この俺だけは見ていたのだ。


理央が、いつものごとくテレビの画面に映ったアニメにデレデレしながら、ドイツ語を英語に訳してその後フランス語に訳すという天才故の理解し難い自主勉強をしていたまさにその時、テレビ画面が異様な光を放った。


兄である俺が「なんだ一体!」と狼狽の限りを尽くした後、弟はこう言った。


「時はきたれり。ごめんお兄ちゃん、ちょっと行ってくるよ、異世界ってやつにさ」


「何を言ってんだお前は!」


「何って。今流行ってるでしょ? 僕も行ってみたかったんだよ、異世界」


その一言で何を理解しろと言うのか。


弟はにっこりと笑いながら、

「あとはよろしく! ちょっと伝説残してくるよ」と言い残して、画面に吸い込まれるようにその場から居なくなった。


部屋の中はつむじ風に遭遇したように荒れていた。


気付けば、髪は乱れ、窓ガラスは割れ、先程まで光っていたテレビの画面には見たこともないヨーロッパ風の街並みが映っていた。


まるで分からない。まるで分からない。


異世界とはなんぞや。流行っているとはなんぞや。伝説とはなんぞや。


頭を抱え、俺は叫んだ。親が一階から駆け上がる足音が響く。「何があった!?」と問われ、俺は素直に「理央が消えた」と言った。


「何をふざけているんだ、京司(きょうじ)……こんなに暴れて」


それは是非とも弟に向けてもらいたいセリフであった。


俺はバカであるから、見たままを言う他になく、


「急にテレビが光って、理央が『異世界に行く』って言ったら、理央がいなくなった。部屋は、気付いた時にはこうだった」


……無論、理解されるはずはなかった。


だが、現実は実に分かりやすい。


時を経るにつれ、理央がいなくなったことが、真実味という不可解な味で以て裏付けられていく。


幾日の経過も必要とせず、理央の失踪が現実であることが実証された。


警察が来た。数人。聞き取りの対象は常に俺であった。


疑われたとて無実!


俺自身の潔白を誰よりも知る俺は、あらぬ疑いを全てはね除け、真実を語る。


数日もしないうちに、警察及び近所の人間は、「あの理央くんのお兄さんは頭が残念らしい」という噂を広めた。しかしそれは周知の事実であったから、今さらどうこう言うものでもない。


ここらじゃ名の知れた天才少年の謎の失踪。

ここらじゃ名の知れた天才少年の兄貴の残念なオツム。


さぁ、お兄ちゃんはどうすべきだろうか。


おおよそ現実とは思えない不可思議な現象によって消えた弟。


溺愛していた両親はまるで一人息子を亡くしたように咽び泣く。


俺のことを不出来な子だと親は嘆きもせず、俺という汚点を忘れるように、全ての愛を弟に注いだ両親。


それでも、俺は両親を愛している。両親の涙なんぞは、子としても最も苦しくなる光景であるから、ならばと俺は考えた。


そうだ、この俺が天才になれば良いのだ!


理央という光に当てられ、闇であろう俺を息子とも見ていなかった両親のことだ。俺が天才になれば、コロリと良くなるだろう。


涙を見ずに済む方法があるとするならば、これしかあるまい。


俺は決心し、そして……


二分と七秒で頓挫することと相成った。


やれば出来る子、と教師には言われていたが、だからといってやれるかと言われればそれは否であり、やってみたからといってちゃんと出来るかと言われればそれも否である。


有り体に言えば、やれば出来る子とは、イコール無能なのだ。


俺は所詮、天才少年の無能な兄、以上の存在にはなり得ない。むしろ無能を極めたクソ野郎であることが証明された。


俺は俺自身に呆れ、部屋で一人こう呟いた。


「ごめんっ、無理だわ、理央。お前のようになれない。お兄ちゃんは、理央ではないのだ」


兄でありながら何も出来ない俺は、突然消えた弟の穴を埋めることすら叶わない、



あぁ、なんと身勝手な弟よ。


俺の思考は弟に牙を剥いた。


「異世界に行くのが流行ってるのかも知れんがな、リオよ、簡単に異世界に行くなどと言うでないよ。家族は悲しみ、教師は溜め息を吐き、兄は変人がられ迷惑千万だ。

お前は流行りとやらに乗っかりたかったのかも知れんが、残された者のことをよーく考えてから異世界に行きたまえ。

そもそも異世界とやらがなんなのかも知らんが、お前は勝手が過ぎるぞ、弟よ。流行りがなんだ、我が道を行け」



弟に人生の全てを捧げる覚悟だった両親は、弟の失踪から数日後、とうとうおかしくなって、遂には俺にこう言った。


「どうしてお前じゃなかったの」……と。


俺はこう答える他にない。


「それは済まなかった」



ともかく、異世界とやらに伝説を残しに行った弟のことはさておいて、俺が生きるのに不便極まりない現状に追い込まれ、苦しい思いをするのは当然紛れもなく俺である。


引きこもりという手段を用いることにした。最も有効な世間からの逃避であるからだ。


無能な兄はもはや人ですらなし! とさえ言うような周囲の物言いに、もはやうんざりしたのだ。


俺も生きているのだ、傷つきもするのだ。


異世界へと消えた弟と、引きこもることで疑似失踪するお兄ちゃん。


息子二人を失う両親よ、目にも見よ!


もしも、ニートと化した俺に、それでも尚興味を抱かないと言うのであれば、俺はこの家の子であることを辞めてやろうとの決意である。


きっとこの決意も二分と七秒で頓挫することであろうが、今の俺は、理央と両親と世間への怒りで、まともではない。


まともではないから引きこもるのだ!


そろそろ認めて頂こう!


この岐堂京司(きどうきょうじ)も、理央と同じく、あなた方の愛を受け取るべき、息子なのだと!


あなた方の愛が頂けるなら、俺は息子としての存在意義を堂々見せつける所存。


具体的には……いつか孫の顔を見せてあげる。



***



一人の少年がこの街にやって来たのは、つい数日前のことだった。


どこの国のものともつかぬ衣服でありながら、不思議と言葉は通じる彼は、えらく優秀であった。


力仕事も立派にこなし、人の良さから信頼も得、異国の者でありながら、我々イッセー国の仲間になった。


他方、困ったこともあった。


我々の大切な家族であったリオがいなくなってしまったのだ。


異国から来た少年もまたリオという名前であったことから、これは我々の知るリオが生まれ変わったのだと思い、神に尋ねたところ、それは違うと仰った。


だとしたら、我々が愛したリオ・マルデリカは何処へ消えたのか。


あの可憐な笑顔と、大輪の花のごとき美しき魔術が見られぬと思うと、至極残念であった。

……全てにおいて見切り発車。

先々、全く何も決まってません。

行き当たりばったり、昨日の夜考えて、勢いで書いてます。

無責任!

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