無秩序女子高生
「胸かお尻か」
ずいっ、とマイクを持つような形にした手が、押し付けられて首を傾ける。
現在の時刻お昼休み後半。
場所は体育館。
高校に来てから驚いたのは、この体育館の狭さとグラウンドの無駄な広さだった。
体育館は中学の半分位の広さに、グラウンドは倍以上ある気がする。
田舎だよなぁ、なんて思いながらステージの上に座って足を揺らした。
ぼんやりしているボクに向かって、ステージ横に立つ彼女はもう一度「胸かお尻か」と問い掛ける。
ボクに向けた腕とは逆の手で、隣の子の胸とお尻をぱふぱふしているけれど、セクハラじゃないだろうか。
「……ボクは胸がいいなぁ」
軽く首を傾けながら言えば「やっぱり」なんて声が返ってきて、何がだ、と思う。
思ってしまっても仕方がない気がする。
だって何がやっぱりなのか分からないし。
少しだけ眉を寄せるボク。
「そもそも、何でその話になったの」
「……分かんないけど」
五時間目が体育ということで、お昼ご飯を食べて、少しだらけてから、体育館へやって来た。
更衣室は体育館の隅っこの階段を上がった所にあって、いつも通りダサダサな学校指定ジャージに袖を通したわけだが。
そこまではいつも通りで、体育が始まるまでお喋りをしていたのもいつも通り。
そうして何故か、少し下世話で、女子高校生がするのか?と疑問に思う話題になっていたのだ。
いや、本当に何でだろう。
テーマは『女の子は胸かお尻か』だ。
因みにボクは胸派。
「何で胸なの!何で何で」
ステージの上に座るボクを引きずり落とそうとするように、彼女が足を引っ張って来る。
駄々っ子のような彼女は、背も小さいし高校生には見えない子で、妹と同じ名前ということで名前を呼ぶ時に、いつも少しだけ違和感を感じる子。
「何々、サキちゃんはお尻が好きなの?」
ぐっ、と腕を突っ張って落ちないようにしながら言えば、彼女――サキちゃんは手を離してきょとん、とボクを見上げた。
「いや、おっぱいが好き」と言い放つ。
きょとん、とした顔のままでだ。
そうしてボクの方へと手を伸ばして来るから、その手を払い除けて、ぱふぱふされていた子を見る。
ぱふぱふされるだけの胸は持っているようだが、本人は大して気にした様子もなく「どっちでもいいよ」とのこと。
それが胸かお尻かについてなのか、触れることに関してなのかは分からない。
「お尻に関しては、尻枕で確認してこそだから」
「うわ、それ真面目?」
「真面目真面目」
ケタケタと笑えば、何とも言えない視線を向けられて、笑い声が大きくなる。
胸もお尻も足も腕も顔も心も、基本的には譲れない要所要所は存在するから、どっちかに全てを絞れるかと言われれば難しいと思う。
「だけど胸って言っても貧乳が好き、とか堂々と宣言されてもロリコンっぽいし変態っぽいよね」
ガンガン、と音を立てて踵でステージの側面を蹴る。
ボクの発言に、まぁ、確かに、みたいな空気を出す二人に、またしても笑い声を漏らす。
育てるのが好き、とかある意味変態だ。
だからと言って巨乳と答えても、女子のほぼ半数以上の反感を買うだろう。
男子諸君、ご愁傷様だ。
そっと心の中で手を合わせておく。
「サクもあるもんね」
「何が……」
ふに、とダサダサジャージに包まれた胸元に、私より小さめの手が触れる。
胸というのは脂肪の固まりで、これで性的興奮を得るのか男子諸君、とか思っていたけれど、自分が触られるとなると色々話が変わる気がする。
一瞬だけ固まって、直ぐにその手を払い落とす。
それとほぼ同時に昼休み終了のチャイムが鳴って、人の胸を触ったサキちゃんは笑顔で走り出した。
胸元を押さえ付けて「触られるのが好きなんて言ってねぇよ!!」と叫ぶボク。
昼休み終了のチャイムがかき消されたけれど、そんなことはどうでもいいこと。
どっちを推してもいいけれど、セクハラは駄目だと思う。