し
「いち!!明日から夏休みだ!!
どっかいくわよ!!」
「どっかって…どこだよ?
プールとかか?」
「却下ね!私およげないもん!!」
「浮き輪とか使えば?」
「……んー…やっぱりさすがに恥ずかしいわ。
いち…そんなに私の水着が見たいの?
なら仕方なー
「ならどこにいくんだよ?」
「…………映画でもどうかなって……」
「……映画か。久しぶりに見たいかもなぁ。」
「そ、そうか!!なら行こう!!
明日いこう!!」
「気の早いやつだな、あんた。
まぁおれはあんたがいたらどこでもいいよ。」
「……なんでもなのか?」
「ん?なんでもだな。」
「なんでも楽しいのか?」
「んー…今のところはなんでも楽しいな。」
「…で、でも、いちはどうせ他のやつとも遊ぶ約束とかしてるんだろ?」
「残念ながらそこまで親しいやつはおれにはいないよ。やなめぐらいだ。」
「うそだな!!
この前、掃除のとき、お、女の子と話してたじゃないか!!私は見たぞ!!」
「同じ掃除当番で話しぐらいするって。」
「私はしないもん!!」
「いや、してみたら?!」
「お前!!
他のやつと遊んでみろ?!
私は1人でむなしく部屋に閉じこもってやるからな!!
ネトゲでさえうまくコミュニケーションとれずに夏休みを終えてやる!!
夏休みが終わった頃にはきっと今以上に青白いもやしのような身体になってるだろうよ!!それでもいいのか?!」
「知らねぇよ!!そこはあんたの自由だろ!」
「あ!そんなこと言っちゃうのか!?
他の女の子と遊んじゃうのか?!
私を捨てちゃうのか!?」
「だからおれにはあんたくらいしか遊ぶようなやつなんていないんだってば!
そういう誤解を招くようなこと教室で大声で言うな!」
「………なら今日泊まってもいいか?」
「……ほぼ毎日泊まってんじゃん。」
「ふひひ、もはや私の家だな。」
「…まぁおれはいいんだけどさ、両親は心配しないのか?」
「してるわよ。」
「してんのかよ。」
「でもそれ以上に私に友達ができたことに喜んでくれてるわ。」
「そっか、いい親なんだな。」
「そうね、私にはもったいないくらいのパパとママだわ。」
「そうか。
んー…今日は何作ろうかなぁ。」
「ハンバーグ!!」
「却下。
あんたそれしか言わないのな。」
「あの味が忘れられない……」
「また作ってやるから。
今日はから揚げでも作るかな。」
「から揚げいいな!!
私も手伝ってやるかな!!」
「……あ?」
「………教えていただきます。」
「あとお弁当でも作ろう。
明日、映画見て公園とかでお昼食べようぜ。」
「……っ……!!!
うん!!そうだな!!それすごくいいぞ!!いち!!」
「そうか、そんなによかったか。」
「楽しみだな。
じゃぁ今日は可愛いとっておきの洋服用意してからいちの家に行くからな!」
「おお、ちゃんとおしゃれするんだ、やなめさん。」
「お前が女の子らしくしろって言ったんだろ!!私だって頑張ってるんだ!!」
「はいはい。」
「ね、ねぇ、かずなりくん。
ちょっといいかな。」
「ぬ?!」
「ん?なんだよ、山中。」
(……また女の子と話してる……)
「たいした用じゃないだけどさ、
明後日クラスのみんなで肝試しをやろうってなってんだけど、かずなりくんと薮坂さんもどうかなって……」
「……いく。
おれもやな……薮坂もいかせてもらう。」
「なっ………?!?!」
「うん、じゃぁ明後日よろしくね!」
「おう、じゃあまたな。」
「ちょちょちょちょっと!!いち!!」
「なんだ?」
「なに勝手に決めてんのよ!?
私行くなんて言ってないじゃん!!
あれか!!あれなのか!!
あの女に誘われてうかれたんだろ!!
そうなんだろ!!
やっぱり女たらしだったのか!!このすけべ!!浮気者!!」
「わけわかんないから落ち着けよ。
金谷とあんたが近づけるチャンスかと思ったんだよ。」
「ふぇ?」
「肝試しだぞ。
もしあんたと金谷がペアになれば一気に進展するはずだろ?」
「……限りなく可能性低くないか?」
「まぁ、ペアになれなくても話す機会くらいあるだろうし悪い方には転がらないよ。」
「………私は……」
「ん?なに?」
「……なんでもない。」
この2カ月で思ったことがある。
おれはやなめが好きだ。
好きになってしまった。
理由はわからない。
強いて言えばやなめだからだ。
でもだめなんだ。
やなめは金谷が好きなんだから。
今以上の関係なんて望んではいけないってわかってる。
そして今の関係を壊したくないとも思ってる。
わかってる。
こんな関係、簡単に壊れる。
やなめと金谷が上手くいったとしたら
やなめに親しい友達ができたら
きっと今のままなんて難しいだろうと思う。
だからおれはやなめが金谷と上手くいかなければいいとも思うし、
やなめに友達が出来なければいいと思っているひどいやつだ。
でも、それ以上にやなめには幸せになってほしいと思ってる。
だから今回の誘いで
やなめに友達ができるか、金谷と上手くいくことを望む。
おれはそれを望まなきゃだめなんだ。
「うぉーい、いち?どーしたんだ?」
「うわっ、近いな、やなめ。」
「お前がぼーっとしてるからだろ。
あれだろ、映画がつまんなくて疲れたんだろ?確かにあれはつまらなかったな。」
「…あんた号泣してたじゃねーか。」
「あ、あくびだ!
あくびを連発したせいで涙がでたんだ!!」
「てかなんの強がりだよ!!
面白かったんなら面白かったでいいじゃん。」
「……いちが楽しそうじゃないから…」
「……楽しかったよ。
今はちょっと考え事してただけだって。」
「ふーん、お前のことだ、また女の子のことだろうな。
あ、いち、水筒があかない。」
「……昨日からそればっかだなあんた。
ほらよ。」
「………明日たのしみか?」
「別にそうでもない。
今更ながら誘いに乗ったことに少し後悔してる。
でも明日はあんたのためだしな。行かないわけにもいかないだろ。」
「……そっか。ありがとう、いち。」
「ん?なんだ、あんたらしくないな。」
「……別に。
いち、水筒がしまらない。」
「……ほらよ。
このあとはどうする?」
「んー…いちの家で料理教えてもらう。」
「教えてもらうってあんたいつも見てるだけだけどな。」
「見て学んでるんだよ。
このサンドイッチ美味しいな。
さすがはいちだな。」
「ははは、あんたなんでも美味いじゃん。」
「そんなことないぞ。
いちの料理だから美味いんだ。もっと喜べ、ばか。
ごちそうさまでした。」
「はい、お粗末様でした。
今日は泊まるのか?」
「もちのろんだ。
明日置いていかれたらいやだしな。
肝試し行くにしても一緒に行くんだからな?」
「わかってるって。
それもう3回目だぞ。」
「ふん!いちの頭の中は女の子のことばっかだからな!念には念だ。」
「またそれか…。
あんた、自分で言って機嫌悪くなるんだからやめてくれよ。」
「う、うるさいな!!
なぁ、もう少しここにいてもいい?」
「んー?そうだな、天気もいいしな。」
「いち…」
「ん?」
「私はお前に会うまで友達なんていなかった。お前にだから言うけどそれどころか私はいじめられてたよ。」
「……いいよ、昔の話なんて。」
「だから私はいま最高に幸せだよ。
お前がいてくれるから毎日が楽しいんだ。」
「……そんなのおれだって……」
「だから……私は別に……つめたっ!?」
「……雨だな…さっきあんな晴れてたのに。
しょうがないしかえるか。
帰りに傘買わなきゃな。」
「そうね。
この雨だと明日の肝試しはどうなるかしら。」
「どうだろうな。
このまま降れば中止だろうな。」
「ふーん。やむかな?」
「うーん、にわかっぽいしやむだろうなぁ。」
「ふーん。そっか……」
「今日は何が食べたい?」
「ううん、今日はやっぱり帰るわ。
また明日いちの家に行く。」
「え?飯は?」
「やっぱり毎日は悪いしね。
今日は自分の家で食べるよ。」
「………そっか、わかった。
また明日待ってるな。」
「うん、じゃぁ帰りましょうか。」
「おう。」




