み
「おらー!いちー!いるんだろ?!
早くあけろー!」
「うるせーよ!近所迷惑だろ!」
「早くドアを開けないお前が悪いだろ!
なんだ?えっちなことでもしてたのか?」
「寝てたよ!あんた、いま5時だぞ!!
朝の!!5時だぞ!!」
「お前こそうるさいわねぇ、2回も言われなくたってわかってるわよ。明日も来るって言ったじゃない。」
「………はぁ、とりあえず上がれよ。」
「ふひひ、それでいいのだ。」
「…おい、やなめ。」
「うおっとと、そっか、そうだった。
おじゃまします!」
「はい、どうぞ。」
「ふひひ、お前は相変わらずうるさいやつだな。」
「ほっとけよ。
さて、全く望んでではないけどせっかく早起きしたし朝飯でも作るかな。
やなめ、手伝ってくれよ。」
「おうよ!何でも任せてくれ!」
「そーだな、ご飯ないから炊いてもらおうかな。」
「えーと、水で洗えばいいんだな?!」
「……洗剤はいらないからな。」
「そうなのか?!
ちゃんと洗わないと汚くないか?」
「汚くないから使うな。」
「わかった!」
「おれはおかずを作るかな。」
「おい、いち!」
「お、終わったか?」
「洗い終わってこれの中にいれたけどどのボタン押すんだ?」
「あーね、いま2合炊くからこれに合わせてこのボタン押せばいいんだよ。」
「よし、わかった、理解した。」
「…あんた無知だけど理解はいいんだな。」
「普通よ。お前がバカなんじゃないのか?」
「……はは。」
「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした。」
「やっぱりお前が作る料理は美味しいな!」
「ただ鮭焼いただけだろ。
あんた、何でもうまいんじゃないのか?」
「家で食べるのより美味しいけどなぁ。
てか褒めてんだから素直に喜んどきなさいよ。」
「それもそうだな。
やなめ、片付けは後でいいからここ座れよ。」
「ん?なによ?って…ひゃっ!?」
「なによもなにも、あんた、寝ぐせくらい直してから来いよな。化粧もしないで。」
「ちょちょちょちょちょっと!!
寝ぐせくらい自分で直すから!!だからそのくしを渡しなさい!」
「いいよ、ここまでやっちゃったし。
最後までやるよ。」
「そ、そう?
ならしっかり直しなさい!!」
「はいはい。」
「ふひひ、いち、その奴隷精神、悪くないぞ。」
「誰が奴隷だ!!」
「私はな、いち。
一刻も早くここにまた来たかったんだよ。」
「はぁ、そりゃまた何でだよ?」
「楽しかった。昨日はほんとに楽しかった。
友達と一緒に過ごすのは久しぶりだったから。
しかもまた来ていいって誘われたんだ。
浮かれるのも無理はないだろ。」
「……おれがいつあんたと友達になったんだよ。」
「ええっ?!なれてないのか?!
ならお前はなんなんだ!?」
「あんたの言うように奴隷だろ。
もしくは駒かな。
あんたと金谷がうまくいくようにするためのさ。」
「ぐぎぎ……ならどうすれば友達なんだ!?」
「あー…んー…おれもそういうの苦手だからわからんけどさ。」
「なら!!なら!!今から私の友達になりなさい!!
奴隷の分際で断るなんて許さないわよ!?」
「相変わらずあんたは口が悪いなぁ。
ほれ、寝ぐせも大分マシになったぜ?」
「……………いや……か……?」
「いや、いいよ。」
「……っ……!!………………??
それどっちだ?!」
「だからいいよって。
改めてよろしくな、やなめ。」
「……よ、よろしく……。
……お前は相変わらず回りくどいな。
もう最初から友達じゃダメなのか?」
「言葉にしたほうがわかりやすいだろ?
相手の腹の内なんて言葉にしなきゃわかんないんだから。
だからおれはそういうのは言葉にしたいんだよ。」
「そっか、わかったよ。
お前はめんどくさいやつだ。」
「そんなおれを友達に選んだのはあんただよ。」
「そうだな、私がお前を選んだ……ってなんかムカつくなお前。」
「え?なんでだよ?
あんたのツボがわからねぇよおれには。
それよりそろそろ話を進めようぜ?」
「ん?なんだっけ?」
「またかよ!」
「冗談だよ。
金谷くんのことだろ?」
「そうだよ。
あんたと金谷が付き合うための話だよ。」
「そんなことよりいち、買い物にでもいかないか?
私は今日も晩ご飯をご馳走になる気だぞ?」
「そんなことってあんた…。」
「ん?」
「………まぁ、いいや。
今日は何食いたい?」
「ハンバーグ!!」
「またかよ…。はいはい。」
「よし、行くぞ!!コンビニへ!」
「いや、スーパーだろそこ。」
「ぬ?!そっか。そうだった!
よしスーパーに行くわよ!!」
「………あんた今日泊まっていくか?」
「はぁああぁあ?!??!
いきなりなに?!」
「いや…あんた、おれんち大分気に入ってるみたいだし楽しそうだから……。」
「だからって…いきなり女の子にそんなこと言うの普通?!
あり得ないわ!!」
「そ、そうなのか…?
おれはあんたなら別に気にしないぞ?
友達になったばっかでこう言うのもおかしいけどさ。」
「えっ……あ、あんたがそういうなら……ママに聞いてみる……。」
(…ママって………)
「いちは…迷惑じゃないか…?」
「ん?なにが?」
「い、いままでの全部ひっくるめてだぞ?!」
「んー……迷惑ではないな。」
「そ、そっか、そっかそっか!!
ふひひ、ちょっと家に戻ってパジャマ取ってくる!!」
「………なぁ、そんな軽々しく言うがあんたの家はどこなんだ?」
「え?いちの家から見えると思うけどあそこのマンションよ。」
「えらい近いな!
そしてでかい!」
「お前、いま言った言葉後悔しても遅いぞ?
私は毎日でもお前の家に泊まりに行くぞ!?」
「え?!おれは今日の話しをしたんだが…」
「いやか?」
「…別に。」
「それでいいのよ。」
「……はは。」
正直に言って、おれは人とここまで親密になったのは初めてだ。
話すようになってまだ2日目だけど本当にそうなんだ。
人に手料理を食べさせたのも人を家に上がらせたのも初めてなんだ。
やなめは初めておれの手料理を食べたやつだ。
やなめは初めておれの家に上がったやつだ。
やなめは初めておれの言葉を真剣に聞いてくれたやつだ。
やなめがなんでおれに声をかけてきたかは知らないけどやなめでよかった。
やなめで本当によかった。




