に
「……なによ、一人暮らしって言うから散らかってると思ったらめちゃくちゃ片付いてるじゃない。」
「おれ特に趣味とかないからさ、家事にかける時間が有り余ってるわけよ。」
「むなしい青春送ってるわね。
掃除しながらエロ本でも探してやろうかと思ったのに。」
「ああ、エロ本ならそこにあるぞ。」
「……むなしい青春送ってるわね。」
「2回言うな!!
男子として健全だろ!!」
「はぁ?!
今日初めてまともに話した女の子にくらいエロ本の存在くらい隠しなさいよ!不潔ね!!」
「うるせえ!隠したって探す気満々だったじゃねーか!
てか金谷だってエロ本の1冊や2冊持ってるだろうよ!」
「ぐぎっ……聞こえない聞こえません聞きたくなーい!!
不潔!!ハレンチ!!どすけべどっこいめ!!」
「………はぁ。
なんかあんた長居しそうだし、とりあえず夕飯作ってやるから食べてけよ。
何食べたい?」
「はん!!
やっと私の出番のようね。」
「なにがだよ?」
「はぁ?私が料理してやろうって言ってるんじゃないの。」
「お?まぢで?
人が作る飯なんて久しく食べてないからな。
素直に楽しみだ。
なに作ってくれるんだ?」
「卵かけごはんよ。」
「……よし、任せた!
おかずはおれが作ろう!」
「………バカにされた。」
「な、泣くなよ?
今度料理教えてやるからさ。」
「えっ?!ほんと?!」
「いいよ。どうせ何日かは続く関係だろ?
暇なとき教えてやる。」
「ひゃほー!!やった!
絶対だよ!!絶対だからな!!約束だぞ!」
「あ、ああ」
「ふひひ、こんな嬉しいのは久しぶりだ。
楽しみだなぁ。」
「なんだ、あんた料理好きなのか?」
「別に、したことないからわかんない。
だから楽しみなんじゃん!」
「………いつもそんな感じなら案外かわいらしいぞあんた。」
「…は?!なに?!なになになになに!!??
いきなりなんなの!??」
「いや、だからさ、それがあんたの素なら意外と金谷とうまくいくんじゃないかって…」
「やめてよ!!
思ってもないことなんて言わないでよ!!」
「いや…そんなつもりじゃ…」
「いいからやめて!!」
「……悪かったよ。」
「……私も取り乱してごめん。
うん、もういいや。夜ごはん作ろう。」
「そうだな。
やなめ、なにが食べたい?」
「んー…ハンバーグ!!」
「よし、わかった。
材料も冷蔵庫にあるやつで足りそうだしな。」
「卵かけごはんは私に任せなさい。」
「楽しみにしてるよ。」
「……ばかにした?」
「はは、ちょっと。」
「……はぁ。
もういいや。久しぶりにたくさん話して疲れたしお腹すいたわ。」
「………あんたさ、」
「ん?なによ?」
「……いや、なんでもない。
ごはん作るか。」
「はぁ?いちって変なやつね。」
「ほら、ハンバーグ机に運んでくれ。」
「はいはい。
んー…いい匂いだ。早くいちも来い!腹が減ってお前を殴ってしまいそうだ。」
「なんて横暴な…」
「ひゃりゃぁ!!」
「いてっ!殴るって言っといて蹴るんじゃねーよ!!」
「ふひひ、お前が遅いのが悪いんだぞ、いち!私を待たせた罰だ!!」
「はいはい、今行くって。
ったく、今日知り合ったばっかのやつ蹴るかよ普通。」
「よし!!食べよう!!」
「あー、まてまて。」
「ん?なによ?」
「いただきますしてないだろ?
食う前の礼儀だぞ。」
「あ………うん……そっか!そうだった!!
いち!手を合わせろ!」
「…まぁよし、じゃぁいただきます。」
「いただきます!
ばくりっとね!ん……うまい!やるなぁ、お前。」
「そりゃ、どうも。
……で、おれはどうすればいいわけだよ?」
「ん?何の話?」
「神谷とのことだよ!
あんた金谷と付き合いたいためにわざわざのこのこはるばるここに来たんだろ!」
「あー、そういやそうだったわね。」
「なにしに来たんだよ、あんた。」
「うるさいわね…
あとそれに関してはまだ何も考えてないわ。」
「どういうことだよ?」
「だから神谷くんとどうやってお近づきになるかなんてまだ何も全くこれっぽっちも考えなんてないわ。」
「おいおい、おれは何をするために声をかけられたんだよ?」
「だからどうすればいいのか一緒に考えてもらうためよ。」
「………長い付き合いになりそうだな…」
「はいはい、愚痴なんて聞こえない聞こえません聞きたくなーい。」
「……なぁ。」
「なによ?」
「うるさいって思われるかもしれないけどさ、ごはん食べる時にひじつくのよくないぞ?それにお椀は左手に持って食べないと行儀が悪い。
犬が餌を食べてるみたいだ。」
「……………ほんとうるさいわね……
……………で、こうでいいの?」
「あ、うん、そうそう。
あと箸の持ち方もなんか変だよ、あんた。」
「……どう持つのよ?」
「こうだよ、こう。」
「一緒にしか見えないわよ!」
「だからー…手かしてみな。
………ほら、こうだよ。」
「ぐぎぎ……なかなか難しいわね……。」
「わるいな、おれよくこう言うのでうるさい言われるからさ。」
「はぁ?正しいこと言ってなんで謝るのよ?
わけわかんないわ。」
「え?あ、そうか?」
「そうよ。なにも悪いことしてないんだから。むしろありがたいわよ。
私けっこう無知だからさ。
間違ってることはどんどんいってほしいわ。」
「無知ってあんた…
てっきりおれはやなめは頭がいいと思ってた。成績いいし。」
「先生があんなに真剣に懇切丁寧に教えてくれてるんだからできて当たり前じゃない。」
「あ………うん、そっか。」
「なによ?」
「なんでもないよ。
とりあえずあんたにはそういうのばしばし言ってってやるよ。」
「助かるわ。いち。
ふー食った食った。いちのハンバーグは格別に美味かったよ。」
「やなめ。」
「ん?」
「食べ終わったら……?」
「あ、そっか。そうだった。
ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした。
片付けはおれがやっとくよ。」
「片付けくらい私がやるわよ。
私まだ何もしてないし。
お前は少しだらけてなさい。」
「そうか?じゃぁお言葉に甘えさせてもらうよ。………割るなよ?」
「私にプレッシャーかけるのは逆効果よ?」
「はいはい。
……なぁやなめ。」
「今度はなによ?
いまさら私を家に招いたことに後悔でもしてるわけ?
もう遅いわよ。皿洗いまでしてるのよ?
絶対に何がなんでも協力してもらうわよ。」
「わかってるよ!
まぁ…なんだ…あんたさえよければいつでも飯でも食いに来いよ。いつでも作ってやるからさ。」
「え?いいの?!」
「いいよ。
1人で食うより全然美味かったし楽しかった。」
「…そういうものなのか?」
「そういうものだ。
やなめ、あんたはどうだったんだよ?」
「いちのハンバーグは絶品だったわ!」
「いや……そうじゃなくて。
……はぁ、まぁいいや。」
「とか言ってる間に片付け終わったわよ。」
「おお、ありがとう。
まぁ今日はもうおそいから帰れよ。
明日以降また話し合おうぜ。」
「あ、うん。そうね。」
「送るか?」
「ううん、大丈夫。」
「そっか。」
「ねぇ、いち……」
「ん?なんだ?」
「……やっぱりなんでもない。」
「…また明日な、やなめ。
土曜日だけど来るんだろ?」
「……!!
いく!!くる!!
お前!私をほっぽってどっか出かけるなよ!?
朝から出向いてやるからな!!」
「はいはい、わかってるって。
あんたのことは1日でなんとなく把握したわ…
また卵かけごはん作ってくれ。美味かったよ。」
「バカにするな!!」
「ははは!」
「ったく…じゃぁまた明日な!」
「ああ、おやすみ。」
やなめの家庭事情や人間関係がどんなものかおれは知らないし詮索するつもりもない。
でも辛い思いをしてきたんだと思う。
やなめは無知だ。
頭が悪いわけでなく無知だ。
あいつの行儀の悪さを誰も正すことなく教えることなくやなめは育ってきたんだ。
それがなにを意味するのかおれなんかには想像すらつかない。
やなめはそこらへんにどこにでもいる変わりばえのない普通の女の子だ。
1日しか話してないけどわかる。
少なくともおれはあいつといて楽しかった。
でもあいつには友達はいない。
いつも1人で教室にいるし、いつも1人でパンを食べるしいつも1人で帰宅している。
なんでかはよくは知らない。
知らないけどあいつはいつも人と距離を置いてるように見える。
同情してあいつをまた誘った。
いつでも来ればいいと誘った。
同情…
それもある。
それもあるけどそれだけじゃない。
おれもやなめと違わず1人だ。




