いち
「前から金谷くんのことが気になっています!好きです!」
「……何故おれに言う?」
「察しなさいよー。かずなりくんに協力してもらおうと思ってね!
あ、もしかして告白でもされると思ってた?残念でした!
で、協力してね。」
「残念?あー残念だよ!
なんで自分自身が恋愛に関して絶望的なのに人の応援しなきゃならんなんだよ!!
しかも薮坂なんかの!!」
「ちょっと!ろくに話したこともない相手になんかなんて失礼じゃない!
ろくな性格してないわね!!
絶望的なのは自業自得でしょ!」
「あんた、口と性格が悪いって有名なんだよ!」
「あ!!そういうの言っちゃう?!いっちゃうわけだ!」
「てかなんでおれなんだよ!?
別に金谷と仲いいわけでもないぞ?
もっと金谷と仲のいい山中とか相田とかに頼めよ。」
「仲良すぎるのもだめなの。
絶対金谷くんに言うに決まってるわ。」
「それでうまくいけば結果オーライじゃん?」
「いくわけないじゃない!
もし仮に!万が一に!天文学的な奇跡が起きて私がお前に今日いままさに告白してたらどうしてた?!」
「謝ってた。」
「ほらみなさい!
ろくに話したこともない、口も性格も悪いで有名な女が普通に告白しても上手くいかないのよ!!
てかかずなりくんって失礼ね。」
「それこそ自業自得だろ!
てかやっぱりなんでおれなんだよ?
もっと他にもいるだろ?」
「てきとうよ、てきとう。
同じ生物係だし、私女の子の友達なんていないし。」
「……悪いけど他当たれよ。
おれ一人暮らしだから家事やらにゃならんし帰りたいんだけど。」
「はぁ?
女の子の誘い断って家事?
考えられない!お前バカだろ?!」
「察しろよ。
面倒くさいから帰りたいって副音声聞こえませんか?」
「ぐぎぎ………聞こえない聞こえません聞きたくなーい!!
ぐちぐち男らしくないわね!
家事くらい私が手伝ってあげるわよ!
これでどうかしら?!」
「えっ!?あんた、うちまで来る気かよ?!
年頃の女がやることじゃねーだろ!」
「あら、何か期待してるのかしら?
なんなら裸エプロンでもしてあげましょうかしら?!」
「いやいやいや、うちエプロンなんてないから!!!」
「そこなの?!
冗談に決まってるでしょ!!」
「遠回しに来んなって言ってんの!」
「はぁ?!!ここは男として喜ぶとこでしょ!
こんな可愛らしい女の子が家に来るのよ?!
ありえないわ!!そんなんだからお前はもてなー
「あーあーあー!!わかった!わかったよ!!
家の掃除でもしてくれたら話くらいは聞いてやるから!!」
「ふん!それでいいのよ。
手間かけさせないでほしいわ。」
「図太いやつだな…
あんた、自分に友達がいない理由わかるか?」
「よくよく理解してるわよ。
私、自分を偽ってまで友達欲しくないし。」
「自分を偽らないと彼氏できないぞ?」
「ぐぎゅっ………やっぱりこのままじゃ金谷くん振り向いてくれないかな?」
「振り向きはするだろ。驚いて。
んで目が合ってそらすだろうな。」
「………もういい。」
「……ごめん…悪ノリしすぎた。」
「とりあえず暑いから早くいちの家に行くわよ。」
「いちってなんだよ?」
「一成くんなんて長いからこれからはあんたのこといちと呼ぶわ。」
「なんか犬みたいだなぁ。
まぁ、いいや。」
「私のことはのぞみ様と呼びなさい。」
「………やなめと呼ぶことにした。」
「おおおおい!!なんだそれ?!どっからそんなんでてくるのさ!!」
「のぞみって希だろ?
ちょっと崩してヤナメってな。
結構無理矢理だけどな。仕返しだ。」
「ぐぎぎ…まぁいいわ。
これから短い間だけどよろしく頼むわ、いち。」
「あーはいはい。
こちらこそよろしくな、やなめ。
結果はどうあれできるだけ短く終えようぜ。」
「はぁ?お前バカだろ。
過程なんて短かかろうが長かろうが汚かろうが苦痛だろうがいちが死のうがどうでもいいのよ!」
「うわぁ、とんでもねー」
「大切なのは結果よ!結果!!
私と金谷くんが無事付き合えればそれでいいのよ。わかった?」
「……あー…うーん…」
「もういいや。早くいきましょう。」
「………あー……うーん……」
おれがやなめと知り合いになった日
湿っぽいじめじめした日が続いていた高校2年の6月11日
今でもはっきり思い出せる
やなめはやっぱり最初から相もかわらずなやつで
思い出しても改めてみてもやっぱり生意気なやつで
見た目通り子どもっぽくて
口を開けば止まらない減らず口で
制服を着てなきゃ高校生になんて見えなくて
そんなやなめがおれをいちと呼ぶことを決めた日
そんなやなめをやなめと呼ぶことを決めた日




