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起 8

ここまで、8話お読みいただきありがとうございます。


今回は私の中では長めです。


といっても、3000字にすら満たないのですが。


長いのに、まえがきで余計に長くするのも馬鹿なので、これまで。


本篇をお楽しみください。

「はい?」

「ほほう、それはどういうことでしょう?」

 俺は驚きの声を上げたが、明らかに千秋は面白がっている。なんてやつだ。

「つまり、そのー、あ、まず、私たちの世界について説明します」

「話が前後しているぞ」

 と突っ込みたくなるほど、話が順序だってない。まるでアイウエオをアエイオウカクケキコ……と読んだ感じだ。

「ええーと、私たちの世界の現時刻は2062年5月5日。つまり、あなたたちの世界の50年後の世界です」

「ということは、当然僕らの時代世界を席巻していたさまざまな問題に対する、人類の解答も出ているのでしょうね」

「さすが千秋さん。その通りです。2人の時代、すなわち21世紀初頭、世界がたくさんの問題を抱えていたのは、ご存じのとおり。環境問題だけでも、地球温暖化や砂漠化、オゾン層破壊、森林の減少……という風にです。私たちは、それらを克服しようと努力してきました。そして、リオ宣言採択後40年の2052年、ついに私たちは成功したのです。……持続可能な大規模無線送電技術の開発に」

「はい? それはどういうことでしょう?」

「無線送電技術とは文字通り、ケーブルなどを介せずに、電気を送る技術です。現在、宇宙で太陽光発電したのを地球に送電することが可能となりました」

「ということは、原子力発電とか火力発電とかはもうないのか?」

 俺がそう訊くと、当たり前だろの顔で言われた。

「とうの昔と言っては何ですが、2055年、すなわち7年前に、環境保全のため国際条約にて廃止されました。福島の原発のことを忘れた人はいませんし、火力発電で生じるCO2の量も無視できなくなりましたので、当然のことでしょう」

「そうなのか」

「しかし、クリーンな代替エネルギーが登場しても、それを上手に運用しなくてはなりません――」

 確かに。せっかく燃費の良い車があっても、燃料が悪ければさして意味ないからな。

「――そこで、今度はインフラ、いいえ、ライフラインと言うべきでしょうか、とにかく――」

 インフラってなんだ? インフルエンザがよく略されて呼ばれるインフルの間違いじゃないのか。そう思った俺は隣の千秋に小声で訊く。

「なあ、千秋、インフラって何の略?」

「インフラストラクチャーだよ」

 即答だった。もしかすると、俺が質問するのを予め考えていたのかもしれない。ついでに千秋はその意味まで教えてくれた。

「語義としては、産業あるいは社会生活の基盤となる施設ってところかな。つまり、柳さんが言いたいことは、人為的ミスが起きやすいものや人間では最適な扱いをすることができないものを、コンピュータで管理することによって、エネルギーなどの無駄をなくそうということ。車が走っていないのに信号機が光ってても無駄だし、車だって人が運転すればきっと無駄なエネルギーを使うことになる。急ブレーキや急発進はエネルギーを大量に消費するからね。そういうのを防ぐために、コンピュータで完全に管理するというプロジェクト――」

「――神の子プロジェクトです。内容は千秋さんの言うとおり、そのまんまです。人という生き物は、やはり生き物。完璧、完全ではありません。ミスをします。1人のミスなど些細なものです。しかし、日本人1億人、世界70億人がミスをすれば、地球規模の災厄となってもおかしくはありません……かつての大戦のように――」

「かつての大戦」が意味するのは、もちろん第一次世界大戦と第二次世界大戦のことだろう。原爆を落とされた日本はともかく、音楽に精通している千秋が言うには、ナチスがクラシック音楽に与えた影響は底知れないものだそうだ。それ以外にも戦争がもたらしたものは大きいのは直接戦争を経験したことがない俺にもわかることだから、地球規模の災厄というのには完全同意する。しかし、「かつての大戦」という言葉に何となく違和感を覚えた。が、俺はとりあえず先まで話を聞くことにした。また話を中断させると、千秋の堪忍袋の緒を真っ二つにしてしまうかもしれん。それに、「神の子プロジェクト」が何なのかという方がもっと気になる。

「――さて、大規模無線送電技術とほぼ同時ですが、とある日本人技術者が、その『神の子』を作ることにも成功しました。神の子とは……言うまでもなく、完全人工知能です」

「それはつまり、ようやく人類はインフラとかをコンピュータで完全管理するシステムを完成させたということか?」

「はい。神の子プロジェクトによって、『神の子』とよばれる世界最高にして人類を超越した孤高の人工知能が誕生しました、というのはさっき言ったとおりです。が、一人の人間が同時にいくつものことを処理できないように、神の子にも限界はあります。そこで、人類が真っ先に『神の子』にやらせたのは、『神の孫』とよばれる『職業特化ロボット』の技術の開発でした。『神の子』をマザーコンピュータとする『神の孫』は『職業特化ロボット』として、『神の子』の下位互換にして人間知能の上位互換となって、インフラを支えました。しかし、そのような『職業特化ロボット』としての使い道以外に、いわゆるヒト型ロボットというものでしょうか、人と外見が変わらず感情を持ち――『職業特化ロボット』に感情はありませんでした――細胞構造まで再現した究極の人工生命体の『神の孫』、『職業特化ロボット』に対して『人造人間アンドロイド』呼ばれる物も作られました。人にほぼ等しい、と言うか、人にはもはやそれが人なのかロボットなのか判別することすらできない『人造人間アンドロイド』は、正太郎や千秋さんの時代の目標とされていた家事用のお助けロボットではなく、完全な家族構成員としての『人の子』としての機能を持つようになりました。すると、少子化が大問題となっていた先進国には、『人造人間アンドロイド』の存在は願ってもない物で、各国の政府は『人造人間アンドロイド』を人間の子供とすることで少子化問題の難を乗り越えようとし、『人造人間アンドロイド』は争奪されるようになりました……すでに日本では極秘の内に、つまり国民には知らされずに孤児として施設に入れられています。……この情報を手に入れるのに、私もだいぶ危険を冒しました」

 そこまで言うと、リッカさんは暗い顔をしてため息をついた。しばらくの間、俺たち三人を沈黙が支配する。

 その間、俺はふと考える。

 人間と同化したロボット。仮にそれができたとして、それを人として扱う。そのようなことができるものなのか。倫理観がこの50年間でそこまで変容したのだろうか。だとしても、ロボットと人間を同列に並べることは、俺にはそんな簡単にできない。生命の神秘というのは、そんな簡単に打ち破られてしまう物なのか。しかし、人を人が作れる時代ではあり……なのか。

 俺が考えているのだから千秋も考えていても別段不思議ではない。だが、俺が考えていたのとは全く違うことを千秋は考えていたらしい。こう言ったのだ。

「『神の子』を開発したのが日本なら、『神の孫』を作ったのも日本。日本が世界中の国から敵視されるのも時間的問題だったでしょうね」

 がっくり肩を落としながら、リッカさんは頷いて、

「その通り、それが災厄、第三次世界大戦の始まりでした」

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