起 5
ズカズカと歩いていく美少女に仕方なくついて行くこと2分。俺たちの視界の端に、織風第一公園とか言う公園が映った。それは間違いなくどこにでもあるような公園で、砂場に滑り台、鉄棒、ブランコ、ジャングルジム、そしてベンチを備えているあたりは、子供が遊べるようにしたと思われる。
と、こんなにも公園について考察できたのは、駅から公園が見えるようになるまでこの方何度話しかけても、彼女はまるで俺の声が聞こえないかのように何一つ答えてくれなかったからだ。5回くらい話かけて、気が長くないこともない俺は、何だか無性に馬鹿馬鹿しく思えてきて何も言う気が失せてしまった。そのため3人とも口を開くことはない、というのが現在の状況だ。
ところで、3人が無言で早歩きするのは、通りすがりの人に奇異の目で見られるかと思いきや、なんと駅付近なのに誰にも会わず、遠目で見た公園の中も土曜日にもかかわらず無人である。確率的にありえないことはないが、何か頭の隅に引っかかる気がしないでもない。
彼女が公園の前で立ち止まったので、目的地が公園なのは当然。が、なぜか彼女は入ろうとしないでいて、千秋もそれに倣っているから、俺は格好良く胸張って公園に入ろうとした。
すると、まるで熱い物を触ってしまったかのように慌てて、
「ちょっと待ってください!」
彼女は叫んだのだった。
「なぜだ? 別に公園に入って死ぬわけじゃないんだから、いいだ――」
「いや、本当に死ぬんです!」
「え、まじかよ!?」
しばらく小声で呪文のようなものを口にしてから、彼女は公園に足を踏み入れ、それからようやく「二人ともどうぞ」と招いた。
公園に入った瞬間、一瞬立ちくらみのような感覚に襲われ視界がグニャッと歪み、目に見える光景が虹色の薄い膜に囲まれているかのように見えたが、きっと暑さで軽い熱中症になってしまったのだろう、別段不思議に思わなかった。とりあえず死んだわけではないしな。
やがて、公園に体が全部入ったとき、俺と千秋はIQ200の天才でも予想できぬであろう光景を目の当たりにした。
「宇宙船か?」
思わず声に出た。公園に入るまでは確かに何もなかったはず――もちろん一般的に公園にあるとされるものはあったが、不思議なものはなかったという意だ――の公園の中央に、テレビで何度かお目にかかった立派な宇宙船が、そこにはあった。それは充分大きく人が4人は入れただろうが、本物は多分もっと大きいはずだろう。
きっと鳩が豆鉄砲を食らったときのような表情をしているに違いない俺が先ほど漏らした独り言に近い問いに、今まで何も答えていなかった彼女が口を開く。
「なんで、そう、あなたと言う人は、何でもかんでもわかってしまうのですか? 私は何にもヒントを与えていないはずなのに」
「そりゃ、見たまんまじゃん」
と思ったのだが、口に出すのも無駄に思えてきた。
「なぜ、こんな所にあるのでしょう?」
千秋の問いに彼女は答えようとして、
「えーと、あれに乗ると宇宙よりもすごい所に行けます」
と全く答えになっていない返答。
それにしても、本物が手の届くところにあるのだ。乗りたいな。
「乗れます。といより、むしろ乗ってください! それも早急に!」
「はい?」
俺と千秋の声が重なった。
「とりあえず乗ってください!」
彼女が必死でそう言うので、俺たちは顔を見合わせながらも、結局乗ってしまった。
これが俺たちの人生を大きく変えたのは、遠くない未来でわかることだった。