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起 4

誤字が悲惨だったので一部修正しました。

 本屋から出た俺たちは、いよいよ家へ帰るところだった。

 駅と本屋はさして遠くはないが、土曜日のせいだろう、駅前の人混みが尋常でない。

「正太郎、裏の細い道から行こう」という千秋の提案に、俺は素直に賛同した。

「そうだな」

「そうですね」

 突如見知らぬ声、いや聞き知らぬ声が後ろから。

「誰だ!」

 後ろを振り向けば、やはり見知らぬ少女がいる。「少年」と「青年」のような関係で言えば「青女」のような彼女は、17歳くらい、すなわち俺たちと同い年くらいだろうと思われる。その身長は目測160センチくらいで、比較的痩せている。本人には失礼と思いつつも、顔はいかにも人工美というような整い方をしていて、筋の通った高い鼻と碧く大きな目は最も適切と思われる場所に配置され、色白の肌は雪ほどの白さはないがシミもほくろもニキビも一つなく絵の具の白一色で塗ったようだった。そして、最も異質なのがその髪で、太陽の光を反射して黄金にきらめくロングヘアーは、どう考えても最上級の絹糸に金メッキ加工したようにしか思えない。

 俺はいつの間にかそのあまりにも異様な雰囲気の彼女に見入っていたが、千秋はさすがと言うべきだろう、動揺しているだろうにそれをおくびにも出さず、彼女に問う。

「あなたは一体誰なのでしょう? 僕は見覚えないのですが……正太郎の知り合いでもなさそうです。ならば、赤の他人の会話にいきなり口をはさむとは、ずいぶんとマナーがなっていませんね」

「お前にマナー云々を言う資格はない!」

 と叫びたい衝動を抑えつつ、俺は千秋のフォローに回る。

「いきなりすいませんね。こいつはこういう言い方しかできないやつでして。しかしながら、こいつの言うことにも一理はあると思います。あなたは何者です?」

 なるべく愛想よく言うよう努めたが、その努力が実ったかは正直わからない。

 美少女は俺たちの言葉に機嫌を良くすることもなければ悪くすることもなく、

「あなたたちは、7分49秒後に死にます」

 ただ支離滅裂なことを言いやがった。

「はい? あんたは未来がわかる超能力者か、それとも未来人か! 高校二年生の俺がどうしてここで人生を終えなくてはならない? だいたい何を根拠にそんなことを――」

 俺がそう言うと、美少女はなぜか激しく動揺したようで目を見開きながら、

「どうして? 私の正体が……」

 と絶句している。

「おいおい、その言い方だとまるでお前が超能力者か未来人のどちらかみたいじゃないか?」

「え? 私の正体を知っているんじゃなかったのですか? ……あ、いや、私が自分で洩らしてしまったのですか!?」

 いきなり顔面蒼白となった彼女に対して、

「なるほど、あなたは未来人と呼ぶべき存在なのですね」

 千秋が何やら納得した表情でそう言ったが、俺にはさっぱりわからない。

「どういうことだ? 超能力者の可能性はないのか?」

「やれやれ。こんなこともわからないのか」

 などとは言わず、しっかり解説してくれる千秋はやっぱりかけがえのない友だ。

「さて。説明に入ろうか。彼女が超能力者の可能性でない、というのはそんなものは存在しえないという僕の持論による。絶対当たる占い師とか霊能者、あと有名なスプーン曲げとかで超能力者気取りしている者がいるから、非常に多くの人が騙されてしまうけど、実際はトリックがあって、コールド・リーディングやショットガンニング、柔らかい金属のスプーンだったりするのがオチなのさ。そもそもここまで科学が発達したにもかかわらず、そういうのを考える方がおかしいと僕は思うんだ」

「コールド・リーディングとショットガンニングとは何ぞや?」

 説明の途中で全く知らない用語を出されたので俺が訊いてみると、

「コールド・リーディングとは、まったく知らない相手のことを注意深く観察したり巧みな話術を使って相手の情報を引き出す技術だよ。さすがに僕は詐欺師になりたいわけないから、そんな技術は持ち合わせていないけど」

「今、お前が彼女についてやったのがコールド・リーディングそのものじゃないのか」

 と言おうと一瞬迷ったが、やっぱり言わないことにした。

「で、ショットガンニングというのは、相手に大量の情報を与えたり――ほら、そうすればいくつかは当たるでしょ――自分が前に言ったことを相手の反応に合わせて修正したりして、自分の言ったことが的中したかのように見せかける話術のこと。たとえば、ちょっとショットガンニングとは違うかも知れないけれど、『自分はどの会社でも株がどうなるかを当てることができます。たとえばA社の株は急騰する』と200人に言うとする。そして、それとは別の200人に反対のことを言う。『自分はどの会社でも株がどうなるかを当てることができます。たとえばA社の株は下落する』とね。そうすると、これは二者択一だからどちらかは当たる。ということは、100人には本当に予言が的中したように見える。で、残りの100人のうち50人に『B社の株は上がる』と言って、さらに残りの50人に『B社の株は下がる』と言えば、50人には二回連続で的中させたように思わせることができる。……こういう感じかな」

 わかりやすい例があると分かりにくいことも実にわかりやすいな、と俺が思っていると、いきなり目の前でオロオロしていた彼女が時計を見て、

「大変、もう2分12秒が経過してしまいます。お二人さん、ちょっと私についてきてくれますか?」

 すっかり落ち着きを取り戻して、俺たちにそう言ったのだった。

 そして、俺たちの返答を待つこともなくジョギング以上に速い早歩きで、彼女は駅とは反対方向へ歩いていく。

「おい、千秋どうする?」

 隣にいる千秋にそう声をかけたつもりだったのに、千秋はすでに美少女の後を追い始めていた。

「まじかよ……」

 俺は神を呪いながらも二人に続くことにした。

 後になってみて、この決断が俺たちを救ったというのだから、千秋はやはり正しいと言わざるを得なかった。

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