転 5
千秋の放った魔法は、対象と自分を入れ替える、つまり身代わりの魔法だった。
結果、冬木の凶弾で倒れたのは千秋だった。心臓に矢が刺さっていて、千秋は動かない。これは……死んだのだろう。
その様子を見てとった冬木は、千秋をほうふつさせるようにふてぶてしく笑いながら、
「そうか。やっぱりそうすると思ったよ。千秋君なら君の身代わりになると、ね」
「お前そこまで読んでいたのか」
俺の怒りはいよいよ最高潮へと達した。
「貴様あー」
目と鼻の先にいる冬木に殴ろうとすると、冬木が囁く。
「俺を殺すとリッカが死ぬぞ」
「んんっ?」
リッカさんの名が出て、一瞬戸惑ってしまった。その隙に冬木は俺の顔面を力一杯殴りつけ、あおむけに倒れた俺の胸を、上から足で踏みつける。
「馬鹿が。リッカさんならもう――」
「お前まさか!?」
「――殺したよ」
俺は千秋とリッカさんを両方死なせてしまったのか。俺が冬木を仲間として認めたがばっかりに、2人が死んだのか。
絶望の極致に達して涙すら起きない俺に、冬木は哄笑して言う。
「嘘だよ、嘘。扉の前で気絶してるよ。俺が彼女を殺すわけがないだろう? 彼女は俺のものだ。そんな簡単に手放すものか」
もう俺には何が何だかわからなかった。そこにいるのが、絶対悪だということを除いては。
「これだから馬鹿は」
これが冬木の本性。人格破綻者。天才でもなんでもない。そもそも人じゃない、こんなやつ。
俺は深呼吸をして、心を落ち着かせて言った。
「馬鹿、馬鹿とうるさいが、お前は俺より馬鹿なんだぞ」
「この俺が?」
まさかそんなわけがない、と言いたそうな顔に、まず衝撃的な事実を告げてやる。
「ああ。まず、お前はあのテストで千秋に負けたが、俺にも負けている」
しかし、冬木は甘くなかった。
「そんなブラフに引っかかるものか」
一応事実なんだがな、と思いつつも、もっと言いたいことがあるからな、俺には。
「じゃあ、もっとわかりやすいことを言ってやる」
「ほほう」
俺は最大限に息を吸ってから、思いっきり怒鳴りつけてやった。
「人を殺して笑ってる奴なんて、馬鹿の馬鹿の馬鹿だ!」
だが、人間が持つべき感情というのを一切持っていない冬木は肩をすくめて、
「俺には、お前とそこの自称天才の友情の方が馬鹿らしく思えるが。だって、そうだろう? お前を助けずに、俺を魔法で殺してれば、濱田千秋はこの場でたった独り生き残れていられたんだぞ。それになぁ――」
得意げに俺と千秋の友情を否定していた冬木の顔が、一気に青ざめた。




