転 2
「じゃあ、職業を決めてさっさと行こう。早い者の方が有利なのは、自明の理だからね」
笑いが収まった後、千秋が真っ先に言った。
アナウンスは笑っている間に流れていたが、何とかだいたい聞きとっていた。
「僕は魔道士にするね」
「私は僧侶です」
「俺は後方支援が良いから、猟師が良いね」
と千秋、リッカさん、冬木は宣言してしまったので、
「じゃあ、俺は何にしようかなあ」
と悩んでいると、
「正太郎は剣士で全線で立ってくれると心強いな。動体視力良いし、きっと反応の早い人の方が、モンスターの攻撃を回避できそうだし」
千秋が剣士を推した。
「でも、それって一番身が危険なんだよな」
俺は心情を吐露した。普通に生きて帰れるなら、喜んで引き受ける。が、デス・ゲームである今回、それは軽率ではないかとも思える。
「正太郎さん、前衛を誰かがやってくれないと……」
リッカさんが苦しそうな顔で言ってくる。これは心に痛いな。
「春風君。俺からも頼む」
「仕方ないな。ま、何とかなるだろう」
楽天的であると自負する俺は、結局1番危ない役を引き受けたのだった。
1度リッカさんによる説明を受けたのにも関わらず、ボタンを間違えたという前科があるため、今回は慎重に職業を選択した。
すると、剣士の格好というのだろうか、突然俺の体が光に包まれたかと思うと、和風な衣装と刀を装備し、下駄を履いていた。
もしかして俺だけなのか、と思い、周りを見渡すと、他の人も同様に変身している。
たとえば、千秋は魔道士らしく黒のロープを着込んでいて、木の棒に蛇が巻き付いている禍々《まがまが》しい杖を持っていた。それが恐ろしく似合っていて、西洋の黒魔術師じゃないかと思わせそうな雰囲気を醸し出すのは、やはり千秋だけがなせる業だ。普通はそんな恰好が、自然に思えないはずなのに。
ところで、リッカさんはシスターの衣装で、これがまた神々しく美しかった。いつもよりも清潔感が増したというか、より尊く清いものになった気がする。
ただ、それとは対照的に、冬木は機能性重視の格好で、見栄えはたいして良くなかった。
「リッカさん、似合ってますね」
リッカさんにそう声をかけてみた。素直な感想である。別に下心はない。
「そうですか。ありがとうございます。正太郎さんも、『和』がうまくマッチしてますよ」
どうやら俺も似合っているらしい。それは良かった。そうなるとやっぱり、
「冬木君は意外と似合ってないね」
千秋が時速160キロメートルの直球を放ってくれた。俺も激しく同意したいが、そんなことを言ったら、いきなりチームが崩壊だ。
「そうか? ちゃんと決まってると思うが。リッカさんもそう思いますよね?」
リッカさんに目線で肯定するよう、サインを送った。
「ええ、そうです」
とってつけたような棒読みだったが、何とかそう言葉にしてくれたおかげで、冬木は機嫌を悪くすることなく、
「じゃあ、準備もできましたので、行きましょう」
いよいよ、迷宮探索が始まった。




