転 1
光よりも早く更新目指して、ラスト・スパート!
ついに開戦の時となった。
戦争に参加する者、すなわち兵士を人工的に昏睡状態にさせ、完全仮想世界へと転生させ、その世界で戦争をする。端的に言ってしまえば、今回の第三次世界大戦はそういうことになるのだろう。
俺を初めとする日本兵全員は、2062年5月9日、10000人が入る巨大なホールに集められ、天皇陛下や内閣総理大臣など一生お目にかかれない高貴な人たちから激励された後、昏倒させるための注射を受けた。
その後現実世界における意識はあるはずもなく、しばらくの間俺は寝ていたに違いない。
気が付いてみると、そこは闇の世界だった。辺りには俺と同じように、闇の空間に戸惑っている人が大勢いるのが、気配から分かる。
「ここはどこだ?」
という当然の疑問は、ゲームマスターである「神の子」によって解決される。
『みなさん、はじめまして。私が【神の子】です。第三次世界大戦を始める前に、ルールを説明します――』
わかりやすい説明だったのだが、懇切丁寧すぎて冗長性の欠片もないのに長いこと限りなくキリがない。したがって、俺が勝手に要約して、5つのルールに分けてみた。
ルール1 《死の定義》。この世界で死んだ者は、2度と現実世界に帰ることもできない。つまり、本当に死ぬということ。
ルール2 《勝敗の判定》。この闇の世界を抜けた先にある迷宮を最も早く突破した者を勝者とする。そのために、他人と手を組むのも妨害するのも、殺すのも容認する。
ルール3 《世界設定》。この迷宮は、「神の子」が創り出した世界の1つであるが、ファンタジックな世界となってるため、現実世界とは物理法則が異なり、魔法も存在する。また、モンスターも登場するので自分の身はしっかり守れるようにすること。
ルール4 《職業1》。せっかくなので職業制度を導入する。剣士なら武器として剣が支給され、魔道士なら魔法が使えるようになれる。また、僧侶は他人の傷を癒すことができ、猟師は弓矢で遠くから攻撃、ガンナーも銃を用いて遠距離攻撃が可能。なお、ジョブは個人の自由で決めてよいが、1度決めたら最後まで変えられない。また、職業選択のタイミングも固定である。
ルール5 《職業2》。職業によって、個人の能力に職業特性が付加される。剣士なら筋力が、魔道士なら知力、僧侶なら幸運、猟師なら視力――迷宮の中は真っ暗だそうだ――、ガンナーは器用度が。
そして、今いる場所は迷宮の手前だそうだ。この後、職業を選択するのを促すアナウンスが流れるので、その指示に従って職業を決めると、迷宮の中に入れるとのころ。
こんな感じの説明を聞いて思った。
おいおい、これって普通にファンタジーのゲームを高度化した物じゃないか。つまりは……。
「正太郎の得意分野だね」
隣から千秋の声がした。まるで俺の思考を読んでいるかのように。
「ああ、そうだな」
「それでは頼もしいですね」
リッカさんの声が聞こえた。なんだかんだで会うのは久しぶりな気がする。大臣室で無茶したことについて、リッカさんはどう思っているのだろうか。
「リッカさん、あのことなんだけど――」
「大臣室の中に潜入するなんてすごいですね。セキュリティを強化するよう大臣に進言してきましたよ」
いろいろ言われると思ったのに、褒められるとは。まあ、「神の子」と会話していたことはリッカさんには知られていないだろうから、千秋の言葉「セキュリティが甘いので警告しました」というのを額面通りに受け取ればそうなるのであろうが、どうも釈然としないのは俺だけのなのだろうか。
あれこれ思案していると、意外な人物が現れた。
「俺も仲間に入れてくれ」
そう言って現れたのは、冬木慶吾であった。本当に以前の彼とはうって変わって、人を見下すようなことはしなくなっているし、リッカさんに関しても変な目線を送らないようになっている、あんなことで人は簡単に変わるのかと、俺は疑問に思えて仕方がないのだが、こうして現実で起きると――いや、もう現実と関連はするものの完全仮想世界なのか――信じるしかない。
「別に俺たちもチームを組むという明確な話はしていないんだが、仲間が増えるのは心強い。どうだろう?」
千秋とリッカさんの反応次第では、冬木には悪いが断るかもしれない、それに、千秋は俺と間違いなくチームを組んでくれているが、リッカさん自身の承諾を訊いたわけでもない。
しかし、俺の心配は杞憂に終わる。
「僕としては大歓迎だよ」
「私も冬木君なら良いですよ」
2人はほとんど間をおかないで、そう言った。
暗くてわからないが、冬木はきっと目を輝かせて喜んでいるはずだ。
「ありがとうございます。こんな俺を」
謙虚な冬木に言ってやる。
「お前は変わった。だから、もう俺たちの仲間だ。お互い助け合って頑張ろうぜ」
「ああ。頑張ろう」
俺は冬木と暗闇の中で握手した。
とそこで、千秋が止めとばかりに、
「それじゃあ、僕たちのチーム名は『Seasons』だね」
と言うと、笑いが起こった。




