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承 15

 夕食を楽しんだ俺は、例の音楽室へと向かい、たまたま休憩がてら立ち寄ってきた千秋とともにふざけまくると、まさにバタンキュー、布団に大の字になった。しかし、ベッドとの相性が悪いのか、なかなか寝つけないままである。

 そうそう、まさかこの間、恐ろしい計画が水面下で渦巻いてたとは、夢にも思わなかった。

 だって、普通に考えてみよう。

 俺と千秋は過去人。俺は一般人であるのに対し、千秋は世界人間遺産級の天才。俺はそこら辺にいる人を100人集めれば同じくらいの能力の人が見つかるだろうが、千秋は100年待ってようやく世界に1人生まれる世紀の天才なのだ。何度でも言おう。千秋は天才なのだ。

 俺は凡人だから千秋に嫉妬しないと言えば嘘になる。しかし、千秋の才能に関して思うのは、嫉妬より尊敬だった。人が一生かかって極めるところを、1日で成し遂げてしまう千秋は、人類の宝なのである。

 思えば、未来人は千秋が目当てで俺たちを連れてきたのだろう。千秋と一緒にいなければ、あの日俺は死んでいた。やはり千秋という存在は、俺にとって必要不可欠なのかもしれない。

 ただ、俺自身も何か役に立ちたい。千秋の金魚の糞としてのレゾンデートルは、過去に置き去りにしてやりたい。願わくば、俺と千秋、それにリッカさんの名が永く語り継がれるように善戦したい。

 ……そうは思いつつも、人とはいつか死ぬ生き物で、俺もその中の1つであって、死ぬ日、すなわち命日が、明日なのか10年後なのかは誰にもわからず、神のみぞ知る世界の真理の1つで、所詮俺は神の定めし自然の摂理を無視することなど到底できない矮小な存在なのだから、俺たちの名を歴史に刻むなんていう大それた野望は高望みなのかもしれないから、俺はただ1つ、これだけ祈ろうと思う。

「世界中の人々にとって、できれば全生物、さらには地球にとって、最も平和的でかつ幸福な形で、この戦争を終わらせることを、俺たちにやらせて欲しい」

 生きて帰れるかなんてことよりも、未来人に召還されて戦争に巻き込まれたことに意義を見出したい。

 しかし、1つ気になるのは、俺と千秋の時代にとっての理想と、未来人にとっての理想が違うことだ。もしかしたら、未来人はこのまま科学を発達させて、神という絶対存在を淘汰、超克する気なのかもしれない。

 前に思ったことだが、倫理観が全く違うのだ。この世界の人たちとは。どこをどう間違えたら、人造人間アンドロイドを人間と同列に並べられる? 約45億年の地球の歴史が生み出した秩序を、ひょっこりと現れ地球を掌握した人間風情が、終わらせてしまっても良いのか?

 俺はそのことに違和感を覚えるのだ。

 この気持ちは、誰ならわかってくれるんだろう。

 もやもやとしたものを体中に蓄えて、俺はもう破裂寸前だ。

 イデオロギーの差異というのだろうか、同じ人間のはずなのに、根本的なところで履き違えている気がしてならない……。

 その時、だった。悪魔が囁いたのは。

「世界最高の人口知能なら最適解を提示してくれるのではないか」

 それは妙案。でかしたぞ、悪魔。しかし、どうやって連絡を取る? きっと世界最高のセキュリティーが堅牢堅固にお守りしているだろうに。

「そのための人類最高知能だ」

 そうか、千秋なら……。あの不可能を可能にする特異点なら、やってくれるかもしれない。

「ちょっと、それなら千秋さんに、イデオロギーの差異というのを、話してみればいいじゃないですか」

 今度は天使が諫める。

「つまり、いずれにしろ千秋に話すべきなんだな」

 首を縦に振る天使と悪魔に、

「でも、千秋はヴェリービジーだしな」

 と不安を覚えつつも、千秋にコールした。

「なあ、千秋? 遅くに悪いんだが−−」

「うんうん、非常に悪いね」

 仏頂面な千秋が容易に想像できたが、押し切って、

「おまえはどう思う?」

「なんだい、いきなり」

「唐突だが、お前はこの世界の倫理観についてどう思う?」

「うーん、正太郎が疑問を感じているのは、生命倫理についてかな?」

「ああ、そうだ。いくらなんでも、人造人間アンドロイドは、人ではないと思うのさ」

「正太郎ならそう思うな、と僕は予感がしたけど、僕は一概にそうは言えないと思うよ。たとえば、臓器移植って、日本と海外で全然許容範囲が違ったでしょ? でも、日本も段々だけど容認し始めていたはず。より多くの命を救うという大義名分があるからね。そして、この大義名分という汎用性の高い言葉が、都合良く拡大解釈されると、正太郎の描く理想郷ユートピアは音を立てて崩れ落ちる」

「どういうことだ?」

「簡単に言うと、正義を突き詰めると、悪の権化と同化してしまうのさ」

「……ごめん。よくわからなかった」

 千秋の説明は難しい。彼の中では自己完結しているのだろうが、俺の方はもやもやが増大してしまっただけだ。

「うん、これは僕の説明が下手だった。だから−−」

「だから?」

「訊いてみようじゃないか、『神の子』に」

 おおー、と心の中で歓喜の叫びを上げた俺は、

「じゃあ明日作戦会議だな」

「大丈夫、もう準備はできてるから」

 肩すかしを食らった。

「ま、正太郎は眠そうだから、明日にしよう」

「お、おう」

 水面下でこんなことを画策していたのか。お前はとんだ策士だよ、千秋。

「それじゃ、おやすみ」

「おやす−−」

 最後まで言わせず、電話は切られた。

「眠っ!」

 千秋との電話で頭を使ったからだろうか、すぐに俺は眠りに落ちた。


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