承 5
オリンピックと小説のことで、脳内はいっぱいいっぱいです。
なのに、くだらないことをグダグダと書いてて筆が進まず、
結構ピンチです。
ここまで読んでくださっている読者の皆様を裏切らないように、
前向きに対処していきますので、応援よろしくお願いします。
追記、次の話に繋げるため最後の方を少し改めました。
「そう言えば、ここってどこなんだ?」
食堂までの道がてら、俺はかねてからの疑問の一つを口にした。
「あっ。忘れてましたね」
と口に右手を添えるリッカさん。どうやら説明したつもりだったらしい。
「ここは、防衛省ビルの地下20階です。一般人では生涯入ることのない、非常にセキュリティの高い、安全な場所です。ここでは、高官の方々が仕事をなさってますね」
ほう。そうなのか。
「ですから、食堂と言っても、そういったエリートの人たちを満足させるような高級料理ですよ」
エリートという言葉を聞いた瞬間、千秋のふてぶてしい笑い顔が目に浮かぶ。しかし、一般人であった俺は千秋を脳内で抹殺すると、
「俺の懐では、サイドメニューの海苔1枚すら頼めないぞ」
「心配には及びませんよ。大臣より、お2人の3日間は保障されていますから」
「ということは、ただ飯? っしゃ、ラッキー! ありがたく頂くわ。そうそう、俺は昔――」
俺は昔から食欲と好奇心だけは旺盛だった、というのは小学生時代あるいは中学生時代の友人に訊いてくれれば、すぐにわかることだ。俺は今までに伝説とやらをいくつも作ってきたらしいが、そのうちの3割程度は食に関することだ。
例えば、中学の卒業式後の打ち上げで、筋肉馬鹿と大食い競争を広げ勝利を収めたり、スイーツ店の食べ放題で、スイーツを一切食わずサンドイッチを30個食べたとか……これは単なる馬鹿か。ちなみに運動を大してしない俺であるが、どういうわけかいくら食べても太らない体質なので、身長は170センチメートルと一般男子並みだが、体重は50キログラムしかない。千秋は、低血圧が関係しているのだろう、と言っているが、はたしてどうなのだろうか。
まあ。そんなことは置いておき、御馳走を頂けるということだ。男だからと言ってなめるなよ。食いたいものがあったら別腹で食えるんだぜ。
とまあ、食に関する伝説をリッカさんに熱く語った。
「正太郎さんって、すごいんですね」
はっきり言って自慢気だったから、嫌悪感ないし不快感を抱かれても至極自然なのに、リッカさんは少々興奮している。そんなに面白かったか。
大食い競争の話だって、筋肉馬鹿が注文したくせに食べきれなかったのを、俺と千秋で協力して食べただけ、サンドイッチ30個も50個という宣言してその6割という結果だったし、特に聴きごたえのある要素はなかったはずなんだがな。
ともあれ、いろいろと話していると食堂に着いた。ちらほらと空いてる席に2人で座る。食堂は、ショッピングモールのフードコートのようになっていて、夕食時のためか人が多かった。
このシチュエーションは良いな、と俺が恍惚に浸っていると、リッカさんは間近で顔を覗いてきて、
「正太郎さんは何を食べますか?」
うわ、とビックリしないわけがないが、冷静な様子を装って、
「オススメはないのか?」
「ええと私のおすすめはですね、カイセキ料理ですかね」
「カイセキ料理? どっちのカイセキ料理だ?」
会席と懐石で全然違ったはずだ。ま、どう考えても、俺にふさわしいのは決まっているが。
「どっちがどっちでしたっけ?」
白い歯を見せて笑いながら言うリッカさんだったが、俺は突っ込む。
「知らないでカイセキ料理ってい言うなよ! しかも普通に考えて、おかしいぞ」
「え? どういう意味ですか?」
キョトンと目を丸くするリッカさんに、俺はカイセキ料理について知っているわずかな知識を披露した。
「まず、『会う』方の会席料理は、酒を楽しむものだ。大物の政治家さんとかならいいが、俺は高校2年生だぞ。飲酒できない」
「フッフッフ。それは残念。今の時代はノンアルコールのお酒が主流ですよ」
「そうなのか?」
今度は俺が驚く番だった。
「もちろんアルコールのもありますが、ノンアルコールでも風味が全く変わらず安いのです」
「つまり、酒は飲めなくはないと」
「ハイ!」
甲高い声で応じたリッカさんに、俺はもうひとつの懐石料理を教える。
「それで、懐石、または茶懐石と言われる方の懐石料理だが、これは空腹で茶を飲むのを避けるための軽食程度のことだ」
リッカさんは両手で拳を作って上下に動かしながら、
「正太郎さんって、浜田さんに負けず劣らず物知りなんですね!」
あー、勘違いだ。このまま誤解させたままでも良いのだが、それは俺のやり方ではない。嘘はつかなくてはいけない時以外は使わないのだ。ある人が言っていた気がする。
『嘘をつく人は、今までについた嘘を覚えていなくてはいけない』
とでも。俺はそんな脳内の記憶容量が多い自信はないどころか、ニワトリが鳴いて逃げていくくらい物覚えが悪い。だから、そんな高度の芸当はできない。……逆に、千秋は嘘つくのが巧そうだ。記憶力に長け、ポーカーフェイスだし。
とりあえず、誤解を解かねばいけないな。
「それは違う。昔、混同して使ってたら、1時間ずっと千秋に違いを講義されて嫌でも覚えたんだ」
「あ、それはお気の毒に」
同情されてしまった。やめてくれ、そんな憐みの目で見られるとなんか哀しい。
「じゃあ俺は、あれを食べよう。ええと、あれだ、あれ」
まだ無理矢理話題を替えた。だが、何を食べるかまだ考えていなかった。
その時、犬を連れた美人さんが食堂に入ってくるのが、ちらっと目に入ってきた。
犬、わんこ。ラーメン、麺……。脳内に「わんこそば」という文字が点滅する。
「そう、そばだ、そばだ、そばにしよう」
「そうですか。私も麺類が良いですね……私はうどんにします」
ほんの少しだけ考えてから、リッカさんはうどんを選択した。
「ところで、どうやって注文するんだ?」
「ええとですね――」
リッカさんに丁寧なご指導を賜ったのだが……。




