承 2
宿題を放り出して執筆中。
宿題が小説を書く事だったらいいのにな、と思いつつ書いています。
物語が進まず読者の方々は面白みを感じないでしょうが、
そのうち見せ場が来ると……
それでは、本編をお楽しみください。
「やあ。わしは防衛大臣の成田というものだ」
いかにも好々爺と言った風にしている成田大臣は、声で聞くほど見た目は老けておらず、髪が薄くなり白髪も散見されはするものの、その年齢はちょうど還暦をすぎたあたりの男にしか見えない。背筋を伸ばし襟を正しているその姿は、なかなか締まりがあって格好良かった。
「こちらが春風正太郎さん、その隣が浜田千秋さんです」
リッカさんに紹介されて、俺たちは礼をする。
「さあ、いつまで立ってないで座りたまえ」
「では、ありがたく」
と俺は座ろうとしたが、
「ずっとその言葉を待っていま――」
放言を吐こうとした千秋の足を踏み、寸でのところで難を越える。
横目にリッカさんがウィンクするのが見えた。
いやいや、感謝されほどではありませんよ。こんなもん日常茶飯事でしたから。
「さて、単刀直入、本題に入ろう」
大臣が口を開いた。
「柳君から説明されたと思うが、君たちにはゲーム、いやここはあえてその名を口にしよう、第三次世界大戦に参戦してもらう、『神の子』が創り出した世界でな。日本、アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、朝鮮、中国、インドの7か国で争うことになるわけだが、このゲームについて柳君はもうくわしく説明したかね?」
「まあ。それなりにというところですかね」
「ならよい。今回、君たちの命を救ったのは確かに我々だが、強引に戦争に参加させたのは紛れもない事実だ。幸いなことに、開戦まであと3日の猶予がある。その間に君たちはこの未来の世界を満喫すると良い」
「ありがたき幸せです」
千秋が大真面目な顔で言う。おい、いつからお前は王様から褒美を与えられた家臣になった?
「え、失礼のないようにした方が良いんだろう?」
と言いながらニッと笑う千秋。こいつ遊んでやがる。俺は舌打ちしたい気分だったが、大臣の前でそんなことをするわけにはいかない。俺はあくまで常識人の範疇に収まりたい。千秋みたいな規格外は1人で十分なのだ。
「ところで、2つ質問してもよろしいでしょうか?」
千秋が突然左手の人差し指と中指をピシッと伸ばして尋ねた。いいぞ、ちゃんと敬語を使っているし。
「私が答えられる範囲で答えよう」
大臣は本当に答えてくれるのだろうか。下手をすれば全部、機密情報だ、とか言って言わないかもしれないぞ。
「1つ、どうして、『僕ら』を助けたのですか? 過去人は僕らだけではないはずです」
「残念ながら、今は答えられないな。ただ、『君たち』をわざわざ過去から助け出してやったのには理由がある。『君たち』でなくてはいけなかったのだ」
やっぱり答えないか。千秋、何を訊いても無駄だ。とっとと止めて、最期の3日間を有意義に消費する方法を画策しようぜ。
俺の胸中の思いは察せられることもなく、千秋はさらに質問する。
「それに、そもそも過去人を参戦する意味があるのですか? タイムマシンができているのなら、わざわざ過去人に頼らずとも未来人に頼めば良いのでは?」
「君は随分と痛いところをついてくるな」
その声は千秋を称賛しているようだったが、大臣の顔は千秋を警戒していた。
「約束しよう、戦争から無事生還したら何もかも話すと」
そんな約束に意味はない。
「まあ、良いでしょう。僕はこんなところで死にませんから」
確かに千秋がこんな形で死ぬのは、稀代の天才にふさわしくない。
だが、俺ならこう言う。
「リッカさんがせっかく助けてくれたこの命、そんな簡単に捨てられるわけないだろう?」
場が一瞬白けるのを覚悟したが、千秋がそれよりも早く2つ目の質問に移った。さっきの追及はカウントされていないらしい。
「2つ目は、先ほど国名に、ヨーロッパや朝鮮というのを挙げられましたが、それはどういう意味でしょう?」
そんなこと言っていたか、と大臣の発言録を紐解くと、確かにある。あいにく俺はスルーしていたらしい。チッ、俺としたことが。
「そうか」
と両手を叩き合わせる大臣。
「君たちの時代はまだ、ヨーロッパは統一されていなければ、朝鮮戦争も終わっていなかったのか。私としたことが迂闊だった」
今度は両手で頭を抱えた大臣は、千秋の問いにこう答えた。
「私は歴史が苦手だから正確な年号は言えないが、確か2030年頃だったか、ついにEUがヨーロッパ国の成立声明を発表したのだ。イギリス、フランス、スペイン、イタリア、ドイツなどがついに1つの国になるとは、私もその時は驚いたものだ」
「なるほど。朝鮮戦争も終結したということで良いのですか?」
「ああ、北の方の独裁政権が革命で倒れてな、その後双方が歩み寄って1つの国になり、戦争の呪縛から解き放たれたのだ」
それなのに、また戦争をしようとする人間は、本当に愚かだ。どこまで欲望に忠実なんだよ。
「お答えいただき、ありがとうございます」
「これくらい、調べようと思ったらすぐに調べられることができると思うがね」
「いえいえ」
「それでは、あとは柳君にすべて任せてあるから、彼女に従えばよい。よろしく頼む、柳君」
「はい」
それまで銅像のように動くことなく座っていたリッカさんが返事した。
「参りましょう。お2人とも、よろしいですか?」
「ええ、何も言い残したことはありませんよ」
千秋はニッコリ笑いながらそう言った。
「右に同じ」
ちょっと格好つけて言ってみる。
「武運を祈る」
部屋を後にする俺たちの背に、大臣の励ましの声が届いた。




