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起 9

この調子だと終わらない!

とかなり焦った作者ですが、多くの方々が読んでいるということですので、ちゃんと完結にまでは持っていきたいと思います。


まだ、序盤なのです。

 さっきリッカさんが「大戦」と言った時、何か引っかかった気がしたのはそのせいか。

 それよりも……、

「第三次!?」

 俺と千秋の声がきれいなハーモニーを奏でたのは、いたって当然だ。なんたって、第三次世界大戦が勃発したのだからな。とても信じられるようなことではない。人類は今までの教訓を……。が、リッカさんが嘘をつくメリットもないから、本当のことなのだろう。

「こりゃ大惨事だな、ハッハッハ」

 などと抜かすことなども、到底できるところではない。そんな感情を持つ者は、精神異常者かよほどゲームやアニメに浸かってるいる廃人さんなのだろう。

「バカだろ!? そんなことしたら、世界中が焦土と化すぞ!」

 というのが俺の気持ちだし、一般論ではないか。

「いいえ、『神の子』がいることをお忘れですか? 『神の子』がそんなことを許すわけがありません」

 ところが、リッカさんが自信たっぷりにそう言い、

「僕らにとって未来の地球に、大戦を耐えられるほどの余裕はほぼありません。そして、それを『神の子』が看過するはずがない。すると、第三次は今までにない形で行われているのでしょう」

 千秋も今までとは違う大戦であることを予想した。

 落ちこぼれの烙印が押されている俺にでもわかるくらいに、戦争の惨禍というやつは2度と経験してはいけないものだ。広島と長崎、沖縄だけじゃない。多くの地域が復興に多大な時間と労力を必要としたのは言うまでもなく、また、多くの人々に与えた悲惨な記憶を消し去る方法は時間のみ。戦争というのは破壊の極致だ。

「でも、どんな方法で戦争は行われていたんだ? 戦争と言えば、破壊活動だろ? 自然にしろ、街にしろ、人の心にしろ、何かしらが壊されるはずだ。それを克服する方法とは何なんだ?」

「どんな方法ではなく、どんな場所かが重要でしょう。どこが戦場で、どこが焼け野原となるのか。ですから、『神の子』は現実世界ではなく仮想現実で戦争をすれば良いという提案をしたのです。そう、戦争は完全仮想世界にて行われているのです」

「何、完全仮想世界? なるほど。それなら、いくらやっても環境的には何の問題もないな。いやあ、やっぱり50年も経てば、そんな俺たちの時代の夢ができるようになるんだなあ」

 と俺が未来の世界の技術の高さに改めて感嘆していると、

「完全仮想世界? 正太郎、どういう意味だい、これは。いや、意味は文字通りなのだろうけど、その定義が曖昧模糊――」

 千秋にしては、無名の選手が優勝候補を破るがごとく珍しいことに、俺に質問した。仮定が与えられれば結論を導く天才の彼でも、定義そのものを知らなければ一般人同様何もできないわけで、今回のように初めて出会う言葉には関しては、推測するのが限界である。それにしても、何と言ったら良いのだろうか、いつも教えてもらっている相手に物を教えるという優越感。もしかすると、口元がにやけていたかもしれない。

「ええと、完全仮想世界というのは、実在しない架空の世界があったとして、それを仮想世界と呼ぶとするだろ、それで、そこにおける自分の分身としての存在である『アバタ―』が、その仮想世界において社会的生活を完全に営んでいる状態の時、その世界を完全仮想世界と呼ぶ、と俺は思う。例えば、仮想世界は仮想世界でも、家にいながら喫茶店を模した世界に入って友人と歓談するのなら、それは限定的生活だから不完全仮想世界だと思う」

「なるほど。それでは柳さん、正解をどうぞ」

「完全仮想世界というのは、転生ダイブと密接な関係があります。ですから、転生ダイブの話からしましょう。転生ダイブというのは、正太郎さんが言ったような仮想世界の中に人間が溶け込むというか、ゲームの世界に没頭するというのでしょうか、原理的には仮死状態を人工的に作り出して人に夢を見させて、その夢に現実世界から干渉していくことで、夢を見ている者にとっては、あたかも夢という仮想世界が現実世界に匹敵するほどの完成度を持つ……うまく説明できませんね」

「つまり、存在者が現実と見間違うような仮想世界のことを完全仮想世界と言い、その世界に存在することを転生と言うのですね」

「そうです! 千秋さんはなんて物わかりがいいのでしょう! その説明は教科書に乗せたいくらいですよ」

「確かに、これほど端的に表せるとは思わなかったな。その理解力と文章力には、毎度のこと感嘆するぜ。いやー、脱帽、脱帽」

「どうせ言うなら、正太郎も帽子を被ってから言えばいいのに。さて、柳さん、戦争と完全仮想世界の関連について説明していただけませんか?」

 俺とリッカさんの褒め言葉に気を良くしたのか、いつもより話す速度が若干速い千秋。今度こそ怒らせないようにしないとな。

「はい、戦争と完全仮想世界についてですが、先述の通り、要は『完全仮想世界で戦争する』ということなのです。ですが、これだけだとわからないので詳述しますと、これは、オンラインゲームの結果が現実に反映されるといったところでしょうか。完全仮想世界で戦争を行い、その勝者が『神の孫』の生殺与奪権を持つということで、各国首脳は合意したのです」

「なんじゃそりゃ? それじゃあゲーム中毒が多ければ多いほど有利じゃないか、この戦争は」

「はい、そのため参加者には厳しい条件が課せられました」

「これでは、戦争がゲームのようです。殺戮行為がゲームというのはいかがなものでしょうと疑問はありますが、とりあえず、参加要項というか、規定を教えていただけませんか?」

「はい。まず、各国の参加者は1000人。年齢・性別は不問。ただし、『アバタ―』は現実世界の参加者と相違ない物とする。また、参加者は自分の意思で参加することとし、他人から強制されることはあってはならないこととし、仮にあった場合、ゲーム上でペナルティを与えることとする。ただし、参加者に対して終戦後の金銭等の贈与は認めるものとする。ゲームマスターは『神の子』が持ち、ゲームは公正に進められる――」

 ここまで聞くと意外に、

「まともだな」

「人権を守ろうという意思はうかがえるね」

 俺たちが意外と高評価を下していると、リッカさんはいつかの時のように暗い顔になって、

「いいえ、人権の欠片も守られていないのです、この戦争は」

 と言うと、続けて、

「ゲームで死んだ者は、現実世界でも死ぬというルールがあるのです」

 死刑宣告を下す裁判長のように厳粛に残酷な運命を告げたのだった。


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