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第3話:崩れる調和

「わ‥‥私はただ真摯に割心斬をさせただけ!逮捕される筋合いなんてないわ!」

高丸町のとある一軒家。四年前の記憶が鮮やかな映像となって、今もくっきり残っている。

「‥‥こ‥来ないで‥‥来ないで‥‥」

母親の両腕に絡められている十七歳の娘。怯えている。が、たった一人の刑事に対して怯えているのか、母親に対して怯えているのかは、当事者でない刑事には想像出来なかった。

「来ないでぇぇぇ!」

母親は狂乱しながら包丁をぶんぶん振り回す。そして。

「ぉ‥お母さ‥‥‥きゃぁぁぁぁぁ!」

包丁が娘の頭に深く刺さった。故意か偶然かは、刑事にはわからなかった。その後、刑事が母親に威嚇のつもりで撃った銃弾が腹に命中してしまい、親子もろとも息絶えたからである。

その場に残されたのは、網綿一人だった。

その後、警察から無意味な発砲をした、と見られ、普段から署内での素行も粗かった為、これ幸いと警察から追い出されてしまったのだ。




「な‥‥どういうことだよ!それ!」

陸也の衝撃的な発言に、紅は陸也の服を掴んで怒鳴った。

「い‥いや‥‥それが俺もよくわからないんだ。一週間くらい前に、いきなりふらっとやって来て‥‥ただ『もうすぐ俺は消える‥‥消されるかもしれないんだ』って‥‥。それだけ言ってふらっと帰っちゃったんだ。何のことかわかんなかったし、ありえないと思ってたから、俺は背中越しに『何言ってんだよタコ』とだけ言ったんだ‥‥」

「そんな‥ことを俊が!?何で‥‥何で俺達に言ってくれなかったんだ‥‥!?」

啓太郎は驚愕の表情を浮かべた。

「僕等にもその後言うつもりだったんじゃないかな‥?でも陸也に相手にされなかったから皆も信じてくれないんじゃないかって思ったんじゃないか‥‥?‥あ、いや別に陸也を責めてる訳じゃなく」

紅は一通り自分の考えを言ったあと、陸也がずっと黙ってたのは自分に負い目があるって思ってたからじゃないのか、と思い、慌てて付け足した。

「‥‥でもそれって俊は自分が消えるって知ってたってことだよな‥?本人に心当たりがあったんじゃ‥‥」

竹昭が消え入るような声で言う。

「じゃあ‥‥とりあえず俊ん家いってみるか‥‥!」

立ち上がる。ここから、四人は動き出す。




また新聞に私の事件が載っていた。これを見ることでも私は満足出来る。

私が一人でくすっと笑うと、傍に置いてあった包丁がぎらり、と光った。




「おい、そろそろここもヤバくねぇか?警察も張ってる見てぇだし‥‥」

「そう‥‥だな。おいターナー、例の盗聴器は揃ったか?」

「あぁとっくだ。これならどんな時でも住人を二十四時間監視出来る」

「じゃあぼちぼち行きますか‥‥ここの住人は後で始末するとして‥‥」

「そうだな。皆、持ち物と指紋だけは残すなよ」

ある民家の中で、強盗グループの四人も、動き出した。




「とりあえず五神家に向かいましょうか‥‥。あの奥様からは、ろくな情報を頂いておりませんし‥‥」

「そうだな‥‥。まぁ問い詰めたらもうちょっとは貰えるだろうな」

「それから、五神俊人さんのお友達にもお話を伺うことにしましょう」

二人は五神家へと足を向けた。二人も、動き出す。




カァ、カァ、カァ‥‥‥‥

夕日が眩しい。

「ここからなら後15分くらいで着くよ」

紅達四人は、啓太郎と俊人が最後に別れた道まで来ていた。

「ここで、俺と俊が別れたんだ‥‥最後に‥‥」

『最後に』のところで、啓太郎は俯いてしまった。

「‥‥そうか。その時は、俊はどうだった?なんかおかしかったりはしてた?」

「ん‥‥普通だった‥。いや、あの日はあいつの誕生日だったから‥逆にテンション高かったと思う‥‥」

普段では考えられないような歯切れの悪さで啓太郎は言った。陸也のように自分に非があったんじゃないか、と思っているようだった。

「ぅ‥ん‥‥そっか‥‥」

四人は自然と黙ってしまい、重い空気のなか、段々と五神家へと向かっていった。その時──

「おや、小希川さん達じゃあありませんか。偶然ですねぇ」

目の前に、二人の、長身の男と酒飲みそうな男が現れた。‥‥城山と網綿だ。

何かが動けば、それまでの状態は壊れる。

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